【連載】

フォントから考える

3 世界の“普通”をつくったHelvetica (1)

杉浦志保  [2015/10/08]

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身近な「フォント」を読み解いていく本連載。第3回は、欧文フォントの大定番といっても過言ではない「Helvetica(ヘルベチカ)」についてです。

有名企業のロゴマークにも多く見られ、iPhoneのシステムフォントでもあった(iOS8まで)など世界中で使われているものですが、その形はきわめてシンプルで、“普通”だと感じる人も多いかもしれません。

そんな“普通”の有名フォント「Helvetica」について、エディトリアルデザイナーの佐々木未来也さんに解説していただきました。

佐々木 未来也(Mikiya SASAKI)((株)コンセント デザイナー)

慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修士。2013年株式会社コンセント入社。月刊雑誌、社内報、書籍などのエディトリアル/グラフィックデザインに従事。現在はWebデザイン、サービスデザインに携わるかたわら、全天球撮影部隊渡邊課にて、新しい映像表現の探求をおこなう。

世界を魅了するHelvetica

Helveticaは英語圏に限らず世界中で使われているフォントです。いたるところで使われているために、数えればキリがありません。ほんの一例ですが、Helveticaがロゴに使われている企業を列挙してみましょう。

■ロゴにヘルベチカを使用している企業・ブランド
American Apparel, BMW, Comme des Garçons, Ducati, Jeep, Kappa, Kawasaki, Lufthansa, Muji, The North Face, Olympus, Panasonic, Post-it, Toyota,…

有名で、かつ日本でよく知られているものを挙げてみました。もちろんこの程度で済む話ではなく、世界中から事例を集めれば、それだけで立派な本ができてしまうと思います。

Helveticaってなんですか?

Helveticaは1957年に登場したスイス生まれの欧文書体(フォント)です。Helveticaはラテン語で「スイスの」という意味で、当時のデザイン業界において大きな潮流であった、スイススタイルのモダニズムを代表する書体です。このことについては、後ほどもう少し詳しくお話します。

Helveticaは一般に、サンセリフ書体と呼ばれるるジャンルに属しています。それは和文でいうところのゴシック体で、一見すると“普通”な書体に見えますね。しかし、アメリカ、西ヨーロッパといったいわゆるラテンアルファベット文字圏はともかく、日本やアジアのような別の文字を主に使っている地域でも出会ってしまうような、とても普遍的で、定番中の定番といえる書体です。

先に挙げた例以外で分かりやすいものに、JRのプラットホームにある駅名標、その駅名のローマ字表記があり、これらはHelveticaで組まれています。

Helveticaの歴史

Helveticaは1957年、スイスの活版文字鋳造所のハース鋳造所で生まれた書体です。初期はHelveticaではなく、Neue Haas Grotesk(読み:ノイエ・ハース・グロテスク/「ハース鋳造所の新しいグロテスク書体」の意)という名で販売され、後に販路拡大を狙う際に、Helveticaと名づけられました。

Helveticaが発表されてしばらくは、1文字1文字を鉛でできたハンコのようなものにした、金属活字とよばれる形で提供されていましたが、1文字1文字活字を手で並べるのではなく、テキストを1行ごとのブロックとして活字をつくる「ライノタイプ」、アナログ写真の原理を用いて文字を組む「写植」と、印刷上の文字に関するテクノロジーが移りかわるにつれ、それぞれの技術に合わせて微調整が加えられながら現在まで続いています。

Helveticaは現在、20を超えるウェイトを持つフォントファミリーとして販売されていますが、もともと計画されてそのような大所帯になったわけではありません。Helveticaの爆発的な流行の後、急激に増えた顧客需要に応える形で、時間をかけて付け足されていきました。

例えば細かい話ですが、Helveticaのコンデンス体(横幅が狭いバージョン)やエクステンド体(横幅が広いバージョン)は、もともと別の書体としてつくられていたものの名前を、Helveticaに付けかえたものです。

また、先述のとおりテクノロジーの進歩に従って都度調整が加えられていくなどの種々の変更があり、書体のファミリーとして見た場合に、細かいながらも、見た目の不都合が生じつつありました。そのため、Helveticaがデジタル化を迎える1983年に、Helveticaファミリー全体を見直し、統一的に再デザインをほどこしたHelvetica Neue(読み:ヘルベチカ・ノイエ。Neue Helveticaとも)が登場することで、Helveticaファミリーは完全な形となりました。

Helveticaの魅力とは

これだけ支持されているフォントなので、「魅力の理由」が気になるのは自然なことですが、一概に言うことはできません。すでに様々なデザイナーが、様々な視点でHelveticaの魅力を語っていますし、そもそもが難しい質問でもあります。よく言われるのは、Helveticaの“無機質さ”であったり、“中立的”な佇まいが良いといわれる向きがあります。

Helveticaという書体は、とてもプレーンな表情をしています。

ここでは特に有名なサンセリフ書体と並べていますが、他の書体と比べても、その“普通さ”が際立っていると思います。例えば、Gill Sans(ギルサン)は大文字が比較的幾何学的で幅の揃った印象ですが、小文字「a」「e」「r」の横と縦のストロークにコントラストがあったり、「t」の一部が三角につながっていたりするなど、個性的な造形が目立ちます。加えて、大文字と小文字の幅の太さが微妙に異なってつくられているため、「Hamburger」のように大文字と小文字を並べると、大文字が強く感じられます。その点、Helveticaは大文字と小文字の印象にそれほど差がなくつくられていることがわかります。

Futura(フーツラ)はどうでしょうか。FuturaもHelveticaと同様、大文字と小文字にそれほどの差を感じません。その代わり、全体的に円、直線、角といった、幾何学的な印象が強く認められると思います。また、Gill SansとFuturaは、大文字「P」「W」の横幅が大きく異なっていますが、Helveticaは大文字の横幅がある程度揃えられているので、気になりません。これによって、Helveticaはいかなる文字の並びを組んでも、ある程度統一された文字の佇まいをつくることができます。

これ以上の詳細は省きますが、Helvetica、Gill Sans、Futuraの違いは、一般に以下のようにまとめられています。

Gill Sansはサンセリフ書体の中でも、ヒューマニスト(人文主義)と呼ばれるジャンルにあり、雑にいえば古典的なローマン体の形を踏襲したサンセリフ書体で、人の手書きのイメージを残した造形となっています。

一方、Futuraはジオメトリック(幾何学)と呼ばれ、定規とコンパスによって書かれたような、シャープな印象です。

Helveticaはそれらの中間体として構想されています。ヒューマニストもジオメトリックも、それぞれに特徴的な造形をしています。片方は手のクセが強く、もう片方は逆に手の印象がなさすぎてクセがある。Helveticaは、ヒューマニストほど人の手の印象はあまりないが、ジオメトリックほどやりすぎる印象ではないもの、まさに中庸な書体として設計されており、そのバランスが完璧な書体だ、ということになります。

付け加えれば、私はHelveticaの中庸さからくる“ふところの深さ”が素晴らしいと考えています。「Helvetica」というドキュメンタリー映画からのほぼ受け売りですが、American Apparelに使われるHelveticaはどこか生意気で、扇情的な印象です。その一方で、Helveticaはまったくイメージの異なる無印良品でも利用されているのです。無印良品のこのページを見て、American Apparelと同じ印象を受ける書体だと、果たして思えるでしょうか?

写真の印象に引っぱられるだけでは、と思う方がいるとは思います。しかし、私は逆に、これほどしっかりと写真に引っぱられる書体というのは、そうそう存在しないのだと考えます。これほどまでに相反するイメージを許容できる“ふところの深さ”を持つのは、Helveticaだからこそではないでしょうか。

次回は、Helviticaがなぜ世界標準のフォントとなりえたのか。その理由を考察していきます。

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インデックス

連載目次
第4回 世界の“普通”をつくったHelvetica (2)
第3回 世界の“普通”をつくったHelvetica (1)
第2回 クラシカルでやさしい売れっこフォント
第1回 創英角ポップ体はなぜ街に溢れるのか?

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