振り子式高速電車でタンペレへ

2009年末から2010年頭にかけてヨーロッパには寒波が押し寄せていた。筆者がフィンランドを訪問した時期もちょうどそのころで、飛行機が飛ばない日もあったそうだ。タンペレ訪問時の2月21日も未明から天気は大荒れで、当日の最低気温はマイナス20度以下になる見込みとなっていた。そのためフィンランド国内の鉄道は21日朝から完全にマヒしていたのだ。

大雪しかも極寒の中、ヘルシンキ中央駅で列車の運行再開を待つことになってしまったが、駅の寒さ対策は万全だった。出入り口のドアは大きな木製で、ホーム側は一枚ドアだが駅外部とのドアはすべて二重になっており寒気が中に入らないようになっている。また列車を待つ多くの人であふれかえっている影響もあってか駅コンコース内は結構暖かい。

そして待つこと1時間……少しずつ列車が到着しはじめ、タンペレ方面行きの高速列車も2時間遅れでやってきた。

ヘルシンキ中央駅。ドアは木製で防寒対策されている

2時間遅れでやってきたPendolino

ヘルシンキ-タンペレ間は、機関車牽引の高速列車「InterCity」も利用できるのだが、今回は高速電車「Pendolino」を選択した。Pendolinoはイタリア開発の振り子式電車でフィンランドの都市間を高速に結んでいる。運賃は片道33.9ユーロ(約4,300円)。室内インテリアはヨーロッパ製らしいシンプルなものだがさすがに暖房がよく効いている。また座席横にコンセントが2つずつ備わっているのもうれしいところ。前の家族連れはポータブルDVDプレーヤーを繋いでDVDの鑑賞を行っていた。携帯電話の充電を行う人も多いようだ。

インテリアはヨーロッパらしさを感じられる

窓側に電源があるのが便利

さて2時間半遅れで出発した列車は大雪の影響もあり、タンペレまでは所定時間を30分近くオーバーして約2時間で到着した。当初の予定より3時間以上も遅くなってしまった計算だ。これが他の国ならば午後遅く到着してもあちこち動き回ることができるだろうが、北欧の夜は早くやってくる。夕方には暗くなってしまうからあまりのんびりはしていられないのだ。タンペレ到着後はさっそくNokiaの名前発祥の地を訪れることにした。

当初の予定より3時間以上遅れてタンペレ到着

タンペレ駅からは車でNokia工場跡を訪問

Nokiaの名前発祥の地、そして研究所を訪問

Nokiaは1865年に鉱山技師のフレデリック・イデスタム(Fredrik Idestam)がタンペレに製紙パルプ工場を設立したところから始まる。数年後には2つ目の工場を「Nokianvirta川」沿いに設立。その名前から社名をNokiaと名づけ、やがて付近一帯は繁栄し「ノキア」という地名になったのだ。その後Finnish Rubber Works(ゴム関連製造)、Finnish Cable Works(通信事業)が設立、1966~1967年に3社が合併してNokiaグループとなった。元々Nokiaの企業名は製紙会社のものだったのである。

今回訪問したのはNokiaの社名の由来にもなったその工場跡地だ。現在は他の企業が敷地を利用しており新しい工場なども建築されているものの、一部の建物は昔のままの姿で再利用されているとのことである。タンペレ駅から車で西に向かうと、少しずつ道路表示に「NOKIA」という地名の看板が見えてくる。Nokiaのふるさとに本当に来た、そう感じさせてくれるシーンだ。

道路標識に「NOKIA」の地名が見えてきた

Nokiaの名前の発祥となった工場の跡地

駅からは約20分で工場跡に到着。川のほとりにあるその工場は歴史を感じさせる古い建物だった。ちなみに創業時の建物は木製で火災により消失しており、その後レンガで建て直しされたとのこと。レンガ造りの工場を回ってみると建築年である「1899」の数字を見つけることもできる。訪問当日は大雪の日曜日であったため敷地内には関係者や観光客の姿も無く、すぐ横の川も完全に凍結していた。100年前の建物の前に立っていると、まるで時間が止まっているような錯覚に陥るようでもあった。この工場がここに出来たからこそ「ノキア」という地名が生まれ、それが今のNokiaの社名、ブランドになったのである。この場所こそがNokiaのふるさと、そう呼べるだろう。

The Nokia River Industrial Areaとして建物は保護されている

レンガ造りの古い建物には1899の表記がある(写真右下)

Nokiaの由来や創立者フレデリック・イデスタムの紹介も

こちらは事務所として使われていた建物

現在は他の企業が利用しているため、新築の建物もある

すぐ横の川は完全に凍結していた

工場跡地を訪問したあとは、せっかくなのでタンペレ南東にあるNokiaの研究所を訪問してみることにした。ただし、研究所の取材許可を取って訪問したわけではないので、中に入ることはできない。そのため「訪問」といえるものではないのだが、建物を見るだけでも何かを感じることができるのではないだろうか。

タンペレ駅から今度は南東に向かい、車で20分ほど移動すると研究所に到着する。白いビルにNokiaのロゴが掲げられている研究所の様はまさしくNokiaの中枢とも言える外見であり、ここでNokiaの新製品が開発され、新しい技術が日夜研究されているわけである。

遠くから眺めるNokiaの研究所

もう1箇所、ノキアには見所があるので移動しよう

さてタンペレといえば市立美術館にあるムーミン谷博物館が有名だ。ムーミングッズも大量に売られており、お土産を買うにも最適な場所である。だがそこをパスしてでも是非立ち寄りたい場所がもう1カ所あるのだ。特にNokiaファンにはお勧めの所でもある。次回はその場所を紹介しよう。