ソニーやカシオのデジタルカメラには、「スイングパノラマ」「スライドパノラマ」という機能があって、デジカメでもパノラマ写真がお手軽に撮れるものも増えてきているが、フィルムカメラで撮るパノラマ写真も楽しいもの。今回はその楽しみ方を紹介してみよう。

スプロケット穴も含んだパノラマ写真

今回紹介するのは、Lomography(ロモグラフィー)の「Sprocket Rocket(スプロケット ロケット)」。35mmフィルムの穴(スプロケット穴、パーフォレーション)の範囲までも含んだ、フィルム全面の写真を撮れるパノラマカメラだ。

パッケージもかわいい、ロモグラフィーの「Sprocket Rocket」

絞りは、F10.8(曇りマーク)、F16(晴れマーク)の2つから、シャッタースピードは、1/100秒(Nモード)、 バルブ(Bモード)の2つから選ぶ。こういうと、読者のみなさんは、絞りとシャッタースピードの選択肢がないので大丈夫なの? と思うかもしれない。しかし、意外に大丈夫なもの。

レトロなアールデコ調のデザインがいい

というのは、カラーネガのラチチュード(露出の寛容度)は、実はデジカメより広いからだ。経験値からいって、露出の+-2段ぐらいの範囲であれば、紙焼きで調整できる。また、一般的に「ISO100のフィルムでは、晴天時で絞り11、シャッタースピードは1/100秒が標準的な露出」なのである。これを覚えておけば、Sprocket Rocketでは、ISO200~400のフィルムを使うのが基本だということがわかる。ということは、ISO100のフィルムを使う場合は、晴天時の撮影では、F10.8(曇りマーク)で、1/100秒(Nモード)にすればいい。

シャッタースピードは、1/100秒(Nモード)、バルブ(Bモード)の2つ

フィルムカメラは、露出計がなくても、昼間であればなんとか撮影できるものだ。心配であればコンパクトカメラ(できればマニュアルモードがあるもの)で、おおよその露出を測り、それを参考にするといい。

また、ピントも、「0.6-1mm」「1m-無限大」の2種類しかないが、F10.8であれば、そんなに気にするレベルではない。

わたしが、Sprocket Rocketを気に入ったのは、パノラマ機能というのももちろんあるが、そのボディデザイン。アールデコっぽいこのデザインは、1930年代~40年代のアメリカのカメラを彷彿とさせる。127フィルムを使う「Falcon」のカメラや、35mmフィルムを使う「Spartus」、620フィルムや120フィルムを用いるボックスカメラなど、30年~40年代のアメリカではベークライトで造られたアールデコデザインのカメラが溢れていた。そう、Sprocket Rocketを持つと、舞台はニューヨークかシカゴっていう雰囲気になるのである。

ロモグラフィーのホームページにも書かれていたが、写真の「Falcon Miniature」的な香りがする。30年代~40年代のカメラの印象。ニューヨーク版、シカゴ版といろいろバリエーションがあった。フィルムは127フィルムを使用

撮影は、簡単。まず、裏ぶたを開ける。次にスプロケット穴まで入れて撮影するか、入れないで撮影するかを決める。後者の場合はスプロケット穴を隠すアダプターを内部に取り付ける。が、ここはせっかくだから、アダプターを取り付けずに写そう。

背面、裏ぶたをあけた状態。スプロケット穴を隠すアダプターをはずせば、スプロケット穴ありで撮影可能

あとは、普通の35mmカメラと同じように、フィルムをカメラ内のスプールに巻き付ける

35mmフィルムをカメラに入れ、カメラ内のスプールに巻き付けたら、ふたをして、WIND (巻き上げ)ノブを回していく。カメラ上面には、コマとコマとの間隔を表す指標になる白い○が表示されるので、それを基準にして、シャッターを切っていけばよい。撮り終わったら、REWIND(巻き戻し)ノブを回して、撮影済みのフィルムをパトローネ(フィルムの入れ物)に巻き込んでいく。

カメラ上面のコマ番号表示の隣に、白い○が出たらシャッターを押そう

ということは、撮影したときに、WIND (巻き上げ)ノブを回さずに、もう一度シャッターを切れば、二重撮影が可能になる。  

二重露出。鉄橋の上を車が走る!

さて、写真は、独特の色合いとトンネル効果が出て、不思議な感覚の写真に仕上がる。どう画面を切り取るかがポイント。大胆に切り取ると迫力が出てくる。

イルミネーションもこのとおり。デジカメで撮った写真と比べてみてほしい。気がついたかもしれないが、スプロケット穴横には、フィルムごとに異なるマーク。フィルムをいろいろ変えてみると楽しいかも

こちらは「七色の光」のエリア。幻想的な空間が写せる

現像・プリントやスキャンはどうするの?

街を歩いていたら、青空がきれい。バラの鉢植えをシルエットになるようにパシャリ

ところで、スプロケット穴まで写した場合、フィルムの現像・プリント、デジタルデータまでの加工はどうするればいいのだろうか。実は、普通の写真屋さんに出しても、現像だけは、可能。この場合「長巻(ながまき)」といってお店に出そう。出来上がったフィルムは切っていないので、自分で適当な場所でカットする。

フィルム対応フラットベッドスキャナでのスキャンだが、通常だとスプロケット穴の部分をカットしてスキャンしなくてはならないため、面白くない。ブローニーフィルムがスキャンできるフラットベッドスキャナであれば、6×9にして、位置を変えて読み込み、パソコン上で「Adobe Photoshop」で合成するという手もある。右の青空とバラの写真は、こうしてデータ化した。

ロモグラフィーでは、「DigitaLIZA 35mm Scanning Mask」というスプロケット穴まで読み込めるアクセサリーを発売している。これを使えば、フラットベッドスキャナでも簡単にスプロケット穴入りのネガをスキャンできるとのことだ。

また、ロモグラフィーでは、現像・プリントサービス「LomoLab」も提供。お店でももちろんのこと、郵送でも受け付けてくれる。CD-Rに焼いてくれるサービスもあり、写真のようなかわいいセットで、フィルムとCD-Rが送られてくる。

「LomoLab」では、CD-Rとフィルム用にオリジナルのパッケージが用意される。ロモグラフィーのセンスのよさが光る

『フィルムカメラの撮り方 きほんBOOK』

フィルムで撮る楽しみをクローズアップした本。特に、著者のふんわりやさしく撮るテクニックは真似したいものばかり。「コダック プロフェッショナル ポートラ NC」の作例が満載なので、フィルムカメラ女子必携の本ともいえる。フィルム写真にこだわりをもつ男性にもぜひ読んでほしい。
山本まりこ著、毎日コミュニケーションズ・デジカル編集