昨今のカメラ業界が活性化したのは、カメラ女子のちからがきわめて大きい。街角でも、旅先でも、はたまたおしゃれなカフェの中でも、デジタル一眼レフカメラを構える女子の姿を見かけない日はないくらいだ。

カメラ女子に人気の二眼レフ。これは、チェコスロバキア(当時)製の「フレクサレットVI」

ところが、おじさんだけでなく、カメラ女子にフィルムカメラが人気らしい。
デジタルの時代になんで?
と思う男性諸君も多いだろうが、アナログの温もりに心が癒されるということらしい。

たしかに、フィルムの消費量が激減し、量販店でのフィルムコーナーがどんどん狭くなっているのは事実。しかし、フィルムカメラに特化した雑誌はいまだに人気だし、なんと、この夏に、『フィルムカメラの撮り方 きほんBOOK』(毎日コミュニケーションズ)という一見時代錯誤ともいうべき書籍まで刊行された。担当編集者によると、某フィルムカメラメーカーのえらいひとからは、「いまさらなんで?」ともいわれたそうだが、どっこい売れ行きは好調らしい。

本連載では、フィルムやフィルムカメラの楽しみ方を何回かにわけて紹介していこう。まずは、フィルムのはなしから。

微妙な空気感を再現するフィルムのはなし

フィルムカメラを使っている人には、おさらいになるかもしれないが、フィルムの種類の話を、ちょっとしよう。現在、主に使われているフィルムは、135(35mm)フィルムとブローニーフィルムの2種類。一般的に使われるフィルムは135のほう。ブローニーフィルムは、ハッセルブラッドのようなプロ用カメラから、二眼カメラ、そしてホルガ、ダイアナプラスのようなトイカメラまで使われており、フィルムの裏に紙がついている120フィルムと、紙がない220フィルムの2種類がある。

ブローニーフィルム(120フィルム:左)と135フィルム。はじめて120フィルムを見たひとは、135フィルムと異なり、入れ物(パトローネ)に入っていないことにびっくりするかもしれない

裏紙には6×6、6×9などのそれぞれの使用フォーマットに応じた撮影枚数が記されている。ホルガやダイアナプラスのような安価なカメラや、古いカメラの場合、カメラ背面にある窓(赤窓)で、この数字を確認しながら、フィルムを送っていく。そのため、これらのカメラでは裏紙のない220フィルムは使用できない。

赤窓。写真はドイツの蛇腹カメラ、「イコンタ」の背面。120フィルムの裏紙のコマ番号を確認できる。普段は感光しないようにしめておく

なお、6×6(ロクロク)とか6×7(ロクナナ)というのは、約6センチ幅のブローニーフィルムをどのような画面サイズ(フォーマット)で写真を撮るかという違いで、それらのカメラで異なるフィルムを使うわけではない。最近では、ましかくサイズの、6×6サイズが人気だ。ま、ましかくに写すとなんでもかわいく見えてしまうからね。

「何を撮ってもかわいく見える」とカメラ女子にも人気のましかく写真

女子に支持される「ネガ」

また、フィルムには、「ポジ」と「ネガ」がある。ポジが見た目通りの色調と階調が表現できるのに対し、ネガはそれらが反転して写る。昔は、ポジが人気があったのに、現在、女子にはネガが圧倒的に人気がある。

「FUJICOLOR PRO400H」(左)と「コダック プロフェッショナル ポートラ NC」。PRO400Hは海外向けのフィルムで低彩度が特徴。幻想的な雰囲気に撮影できる。一時期、量販店でも入手できていたが、この8月以降急に手に入らなくなった。販売停止なのだろうか?

先ほどの『フィルムカメラの撮り方 きほんBOOK』で紹介されている作例も、ほぼ98パーセントはカラーネガである。これはネガがポジより、そしてデジカメよりラチチュード(明るいところや暗いところをどれくらい再現できるかという許容範囲)が広いこともあるが、ネガをお店でプリントするときに、感覚で注文できるということもあるようだ。

北のはて、稚内駅を「PRO400H」で撮影。カメラは「フレクサレットIIa」。赤窓式の単純な二眼レフカメラ。軽くて旅行にもっていくのにちょうどいい

「ややあったかいレトロ」「ドリーミー」なんていうプリント指定は、長年フィルムカメラを愛用してきた男性にはとても理解できないだろう。また、「FUJICOLOR PRO400H」という彩度が低く写る海外向けのフィルムや、「コダック プロフェッショナル ポートラ NC」という、ふんわりやさしく写るフィルムが女子に人気。かっちり写す傾向にある男性陣とはかなり趣向が異なるのが、今の"フィルム女子"の特徴だといえる。

『フィルムカメラの撮り方 きほんBOOK』

フィルムで撮る楽しみをクローズアップした本。特に、著者のふんわりやさしく撮るテクニックは真似したいものばかり。「コダック プロフェッショナル ポートラ NC」の作例が満載なので、フィルムカメラ女子必携の本ともいえる。フィルム写真にこだわりをもつ男性にもぜひ読んでほしい。
山本まりこ著、毎日コミュニケーションズ・デジカル編集