freeeは中小企業や個人事業主などスモールビジネスユーザーをターゲットに、クラウド会計ソフトを展開するスタートアップ企業。サービスリリースから、わずか2年で30万事業所が利用するサービスへと急成長を遂げ、クラウド会計ソフトではナンバーワンのシェアを獲得しているとの調査結果もある。

Webマーケティング自体もそうだが、FacebookなどのSNSはBtoCのコミュニケーションに活用されるケースが多く、BtoBについてはまだほとんど活用事例がない。その中にあってもfreeeは、FacebookをBtoBのコミュニケーションに積極的に活用。ターゲットである中小企業の経営者や個人事業主などに確実にリーチし、クチコミを通じて多くの新規顧客を獲得している。同社ではFacebookをどのように活用、運営しているのか、マーケティング担当者を取材した。

freee マーケティング担当で、新規顧客獲得を手がける岡田悠氏(中央)と、同じくマーケティング担当でSNS、モバイル周りを中心に手がける藤崎裕也氏(右)、Facebookページの運用を担当する渡辺星矢氏(左)

役立つ情報を発信し続ければ、リーチは自然と伸びていく

クラウド会計ソフトという商材が、オンラインマーケティングと相性が良いことは容易に想像がつくが、同社のマーケティングプランはオンラインのみに偏重されていない。

「前例のないことや、既存の枠にとらわれないことをやっていこうというのが、うちのマーケティングの基本的な考え方なんです」と、同社マーケティング担当の岡田氏。その言葉通り、CMのみならず、リアカーを引いてのプロモーションまで、オンライン、オフラインを問わず、できることは何でも積極的にトライしてきたという。

SNSへの取り組みも早期から手がけており、TwitterアカウントやFacebookページは会社設立とほぼ同時に運用が開始されている。Twitterではユーザーのツイートを積極的に拾ってコミュニケーションを仕掛ける一方、Facebookは主に情報発信のツールとして活用。顧客からさらにその先につながる潜在顧客へと情報を届けるために、なくてはならないものだという。

「ご存じのようにFacebookは、リアルのつながりを重視しているSNSです。うちがターゲットにしている中小企業の経営者の方や個人事業主の方のお知り合いには、同じように経営者の方や個人事業主の方が多い。つまりFacebookでポジティブなコメントをいただけると、それぞれのお知り合いの方にもリーチすることができるんです。そういう意味でFacebookは特に重要なツールであると考えています」(藤崎氏)

5月11日時点でfreeeのFacebookページには、1.8万人が「いいね!」をしている。同社ではレイティングの増加にあわせて専任の担当者を配置。高頻度でアップデートを続けている。

freeeのFacebookページ

ページ運営を担当する渡辺氏によれば、アップデートの頻度について明確なルールがあるわけではないが、「毎日ちゃんとアップデートすることや、お昼時など目に止まりやすいタイミングでアップすることは意識している」とのこと。アクティブユーザーは土日にも情報をチェックするため「必要な情報があれば、土日でもアップデートを行う」という。

記事の中心は、自社で運営するWebメディア「経営ハッカー」の更新情報と、メディアへの掲載報告、自社製品のアップデート情報など。このうち「経営ハッカー」には、確定申告、会計・経理、給与から税制や法改正、仕事の効率化に至るまで、ターゲットとなる中小企業経営者や個人事業主に役立つ情報が多数公開されていて、顧客のニーズに応える情報発信の要となっている。

「単に記事へのリンクをアップするのではなく、簡単な解説をつけてFacebookだけでもどんな内容なのかわかるように工夫しています。適度な文字数はもちろん、写真や動画も含めて、ブラウザ上やアプリ上で記事がどのように見えるかということを常に意識しています」(藤崎氏)

Facebook広告はモバイルアプリのインストール促進に活用

freeeではFacebookページの運営だけでなく、Facebook広告もマーケティングに積極的に活用している。Facebook広告では、企業の持つ顧客リストとFacebookユーザーをセキュアにマッチングする「カスタムオーディエンス」や、顧客リストのユーザーに類似する新規ユーザーにリーチできる「類似オーディエンス」といった機能を提供。同社はこうしたFacebook広告ならではの機能を自社アプリのインストール促進に利用している。

アプリインストールの広告を効果的に活用

「Facebook広告は特にモバイルに強いので、うちではモバイルアプリのインストールなどに活用しています」と藤崎氏。その際に広告の費用対効果をはかる目安にしているのが、1インストールあたりのコストの目安となる「CPI(Cost Per Install)」だ。

「CPIさえ見合っていればどんどん仕掛けていきますが、見合っていないと判断したときは、広告の管理画面からレポートを出して、それぞれの指標をチェックしています。何が落ちているからダメなのか確認した上で、クリエイティブの入れ替えだったり、ターゲティングのメニューの差し替えなどを試してみる。一度やってダメでも、時期や会社としてのフェーズが変われば、再度トライするということもやります。とりあえずやってみて、それから改善していくというのがうちのマーケティングの考え方。とりあえずやってみないとわからないので、今後も広告の新しい機能が追加されれば積極的に使っていきたいと思っています」(藤崎氏)

Facebook広告ではCPIが目安となるが、一方でFacebookページの運用については「特に効果測定は行ってない」と岡田氏。ページ全体のレイティングや評価は気にするものの、Facebookページは単に新規顧客の獲得だけでなく「もっと柔軟に使えるコミュニケーションツール」と位置づけられているからだ。

広告運用では、プレビュー画面なども一画面で表示されるため、掲載イメージを想像しやすい

記事ごとの「いいね!」の数はひとつの目安ではあるが、「それを敢えて狙って記事を作ってもうまくいかない」と渡辺氏もいう。また岡田氏も「顧客の求める情報を地道にに提供し続けることが、結果的にレイティングを増やし、顧客満足度をアップしたり、新規顧客へリーチすることへつながる」と話す。

「マジで価値あるマーケティング、社内では略して『マジ価値マーケティング』と呼んでいるんですが、お客さんにとって本当に価値あることをしようというのが、うちのマーケティングの大きなテーマなんです。お客さんが本当に欲しいと思っている情報だとか、役立つ情報を届けること。たとえば会計ソフトを通じて普段の業務でどんなことに困っているかわかるので、その悩みに答えられるような情報を発信する。そういうことを地道にやっていくことで、自然に伸びていくのがSNSだと思います」(岡田氏)