初日の出。徹夜明けの寝ぼけまなこであろうが、どんなにぶるぶる凍えながらであろうが、日本で最初に昇る初日の出を拝みたい! ……その一心で、2008年の元旦、ちょいと出かけてきた。

日本でいちばん早い初日の出って、どこ?

初めに、参考となる数値をいくつか挙げておこう(以下、数字はいずれも国立天文台のサイトより)。2008年1月1日、東京の日の出は6時50分、仙台は6時53分、名古屋7時0分、大阪7時5分、札幌7時6分、高知7時10分、那覇は7時17分である。都道府県庁所在地でもっとも早いのは水戸と千葉の6時49分、遅いのは福岡、佐賀の7時23分ということになる。

さて、それでは、日本でいちばん早く初日の出を見られる場所はどこだろう。……その候補となる地は、実は4カ所もある。

まずは正真正銘、日本一早く太陽が昇る場所。これは日本という国土の最東端にある島、南鳥島である。初日の出時刻は5時27分。さすがに、異様に早い。しかし、問題がある。南鳥島には、われわれごく一般の日本人は行けないのである。そこに常駐しているのは気象庁、海上保安庁と自衛隊の人たちだけ。残念ながらムリだ。

では、一般日本人が居住する場所で初日の出がいちばん早く昇るのはどこか? これは、小笠原諸島の母島だ。時刻は6時20分。とはいえ母島は東京から千数百kmの南で、アクセスも船しかない。もちろん、それなりの日数がかかる。費用だってばかにならない。

ではでは、こういった離島部を除くと、どこでいちばん早い初日の出を拝めるのか。答えは富士山頂である。標高3,776m、ご存じ日本の最高峰。初日の出は6時42分というから、東京より8分も早い。が、しかし……元日の富士登山はすこぶる難行である。山小屋ももちろん営業していない。だからやっぱり、「富士で初日の出!」は憧れるけれども、正直ひるむところもある。

そこで、4つめの候補地が、千葉県銚子市の犬吠埼だ。前置きが長くなったが、今回は犬吠埼が主役である。

離島や高山を除き、日本でもっとも早く初日の出が昇る場所、犬吠埼。「日の出って、東に行けば行くほど早いんじゃないの? ならば、日本本土最東端の北海道・納沙布岬のほうが日の出は早いのでは」といった疑問の声が上がるかもしれない。たしかに、普通に考えれば、日の出は東へ行けば行くほど早い。しかしながら、地球というやつは、そうそう一筋縄ではいかないのである。

地軸の傾きが生み出した日本一早い初日の出スポット・犬吠埼

まさに地球のマジックというべきか。年末年始の10日間ほどは、地軸の傾きの変化によって、より東にある納沙布岬よりも、犬吠埼のほうが先に日が昇る。そして、前述のようにやや特殊な環境を除けば、日本本土で最初に初日の出が見られる場所は犬吠埼なのだから、それはある意味で日本の「端」ということになる。強引にそう定義してしまう。

銚子市は、関東地方の東端で太平洋に突き出た漁業と醤油の町である。NHK連続テレビ小説『澪つくし』(1985年、沢口靖子主演)の舞台にもなった。古くからの高校野球ファンであれば、甲子園で優勝経験を持つ銚子商業高校と、その応援でアルプススタンドに翻る大漁旗もおなじみのところだろう。

東京からの直線距離は100km程度。地図で見ても「つい、そこ」というイメージがあるかもしれないが、これが案外遠い。今回はJR東日本が運行する臨時列車の特急「犬吠初日の出1号」を利用した。全車指定席のこの列車は、1月1日1時33分に高尾(東京都八王子市)を始発。新宿や秋葉原、千葉、成田などを通って4時23分に銚子へ着く。秋葉原(2時26分発)からだとほぼ2時間で、新宿からなら2時間以上となる。これはもう、ちょっとした旅である。

千葉市の稲毛駅ホームで撮影。「2:57 銚子」とあるのが「犬吠初日の出1号」。下の「3:42 千倉」は外房で初日の出を見るための臨時特急「外房初日の出1号」である

終着の銚子駅に着いたら、ホームの先端から銚子電鉄に乗り換える。ほとんどの人がそうするのだから、それはかなりの混雑。銚子電鉄も増結していたが、ギュウギュウ詰めで、すぐの電車に乗れない人も多かった。

「犬吠初日の出1号」が銚子駅に到着。そのままホームの最先端へ移動し(もちろん改札はあるが)、銚子電鉄の臨時列車「元旦初日の出号」に乗り換える。増結しているため、途中の駅では後部の車両がホームからはみ出ていた。なのにがんばって地上へ降りている客もいて、おもしろかった

銚子駅から犬吠埼最寄りの犬吠駅まで、さらに20分前後かかる。5時ちょっと前、ようやく犬吠駅へ到着。駅前では、テントでいろいろと温かいものを売っている。寒いから当然飛びつく。銚子で水揚げされたイワシを使ったつみれ汁(魚めん入り、1杯300円)をいただく。カラダがちょっとあったまり、ほっとする。

犬吠駅前のテントで、うれしいイワシのつみれ汁。立ち上る湯気が天国のように感じる。漁業の町・銚子ならではの温かい味にひたすら感謝。ほかにもやきとりや雑煮を売るテントが出ていた

ああ、水平線に朝日が……

犬吠駅から犬吠埼灯台までは、10分もかからない道のり。人が多いから、初めてでも迷うことはないだろう。5時20分頃には灯台の下へ着いてしまった。日の出の時刻は6時46分。まだまだ1時間半近くある。もちろんこの日は大いなる書き入れ時だから、灯台付近の売店はフル稼働している。甘酒あり、銚子名物ぬれ煎餅あり……と時間をつぶすには何も問題はない。温かいものを補給して、6時頃にはよさげな場所に陣取り始めた。

東の空がしだいに明るくなってきた。言うまでもなく、寒い。上はけっこう着込んできたけれど、下、とくに足先が寒い。ただこの日は風が穏やかだったので、まあなんとか大丈夫だった

待っている間、ふと脇の灯台を見上げると、灯台の関係者なのだろうか、何人かがレンズの辺りに立っていた。「世界灯台100選」にも選ばれているこの白亜の犬吠埼灯台は、高さ約31m。彼らが立っているのはだいたい25mの位置だ。

日の出は、同じような緯度経度であれば高い場所のほうが早く望むことができる。ということは、今現在、同じ犬吠埼に立っていても、灯台の上にいる彼らのほうが一足早く初日の出を拝めるというわけだ。

僕はこれを「コブクロの論理」と勝手に名づけている。コブクロがわからない方にはオール阪神・巨人でもいい。要は、同じ場所に立っていても背が高いほうが有利、という意味。まあ、この場合、その差を感じることができないくらいにほんのわずかの一足だろうけれども、ちょっぴりジェラシーは感じた(ただ、実際に日が昇るとき、彼らはそこにいなかった。なぜだろう)。

同様にコブクロの論理によって、実は犬吠埼灯台より、若干西へ引っ込んだ丘の上に建つ「地球の丸く見える丘展望館」のほうが、初日の出を微妙に早く見られるらしい。ただし今回は地理的な「端」にもこだわったから、僕は迷わず関東最東端の犬吠埼灯台を選んだ。

こちらは上に書いた灯台上の方々ではなく、下で日の出を待つ庶民の若者たち。それでも微妙に高い場所へ登っているのは、コブクロの論理をわかっているから? いやまあ関係ないか

さて、肝心の初日の出である。実はこの日、東の水平線付近には海に張り付くように雲が延びていた。どう見ても、あと1時間でそれらの雲がなくなることはなさそうだ。つまり、実際の日の出時刻よりも、僕らが太陽本体を目にできるのは後ということになる。 これは、あまり深く考えたくない事態である。たとえ数分でも遅れるというのはきわめて致命的なことだ。なぜかといえば、犬吠埼の初日の出が早いといっても分単位のアドバンテージにすぎないからだ。その時間すでに、雲がかかっていない地域の人は"本土でいちばん早い"初日の出を見ているかもしれない。

まあ、仕方ない。お天気には逆らえない。実際のところ、水平線上の雲から初日の出が姿を現してきたのが、ようやく6時53分頃のこと。正直けっこう出遅れた思いはしてしまった。でもまあ仕方ない。

6時53分頃、水平線の雲の上から待望の2008年初日の出が姿を現す。この前後、周囲の人間のほとんどが携帯電話のカメラを構えていたのがちょっとおかしかった。もっと自分の目でしっかり見たほうがいいような気もしますが……

ともあれ、犬吠埼からの初日の出自体は、文句なしですばらしい。写真で見るのは正直いってかなり物足りないと思うから、もし機会をつくれるならぜひ一度、犬吠埼から"日本でいちばん早い"初日の出を拝んでみていただきたい。その際は、防寒対策をどうぞお忘れなく。と同時に、南鳥島や母島や富士山頂での初日の出もいつか見ることができたら……と切に願う2008年の初めなのであった。

初日の出を浴びて朱に輝く犬吠埼灯台。あの上の手すりのところに、日の出前まで人が数名たむろしていた。最高のポジションなのに、日の出のときはなぜいなくなってしまったのだろう

灯台の前にはご覧の通りの人だかり。この人たちが日の出の瞬間、一斉にケータイのカメラを構えている姿は、それはそれでかなり壮観であった

本土でいちばん早い(はずだった)初日の出体験を終え、銚子電鉄の犬吠駅へ帰還。朝日が映える駅舎は、まるで世界遺産に登録されたどこかの教会のようで、なかなか見応えがあった。ただ、銚子までの電車は混雑で行列、1時間待ちだった(泣)

次回は、"アメリカ"が見えた島・与論島前編をお届けします。