前回までは、国内大学を取り巻く環境変化(少子化・大学数増加・グローバル化)によって、国内大学がターニングポイントを迎え、ターゲットとする学生層や提供する教育、提供方式が大きく変わりつつあることを述べてきた。特に、大学の本質である教育の在り方という点においては、前回の記事で、マス教育(Education)から個の教育(Learning)に転換し、教員の役割が学生に教える(Teaching)だけでなく、学生から答えを導き出す(Coaching)要素も必然になってくることを示唆してきた。

しかしながら、この変化は簡単に実現できるものではない。各大学は、まず変化するための基盤となる経営モデルそのものを転換していくことが求められるからだ。今回は、アクセンチュアが国内外のさまざまな大学の経営を支援してきた経験に基づいて、パラダイムシフトの前段となる、国内大学の経営モデルの転換について見解を述べてさせていただく。

停滞する大学改革

「大学改革」という言葉は、1990年代から叫ばれ、その声の大きさは年々増す一方であるが、実態に目を落とすと、個別の改善活動は進展しているものの、大学の在り方自体を見直すような抜本的な変化を遂げた大学はそれほど多くないのではないか。それは、少子化の影響で大幅に志願者数が減少している大学だけではなく、充分な志願者数を確保できている上位大学や大規模大学においても、同様のことが言える。

改革が進まない理由はさまざまではあるが、アクセンチュアでは、歴史的に根付いている"硬直化された経営モデル"から脱却できていないことが主な阻害要因なのではないかと考えている。現状の国内大学は、大部分の収入が確定した状態で支出(お金の使い道)をコントロールすれば事業が成り立つモデルが形成されている。このモデルにより、各大学の視点は、自ずと単年度に向いてしまうため、中長期な視点での改革が起こりづらくなる。また、「予算を確保する」という概念が強いため、抜本的なコスト圧縮が進まず、投資施策の効果を見極めるプロセスも確立されていないのではないかと推察する。

大学の経営モデルが硬直化する理由は、長年培った風土や組織文化、制度などさまざまであるが、以下の3点が多くの国内大学で共通する理由となり、結果的に"身動きがとりづらい状況"に陥っていると考えられる。

  1. 収入が多角化/多様化されず、収入の多くを学納金と補助金に依存
  2. 財務の流動性が低く、総支出の大半を占める業務コスト(人件費+物件費)が固定化
  3. 学内に複数の判断プロセスが存在し、意思決定が遅滞/保守化

裏を返せば、上記3点を改善することで、前回までの記事で述べたパラダイムシフトを実現する基盤が整う。それにより、長期的に見れば時代の流れとシンクロした次世代の大学に転換する余地は充分ある。

改革を前進させるために

国内大学が掲げる中長期ビジョンには、「グローバル化」や「学部新設や再編」という言葉があふれている。この点については否定こそしないが、前述したように投資原資が不足し、意思決定プロセスもままならない状況下で、収入の施策だけに手を付けることは有意性が低くなってしまう。アクセンチュアでは大学改革を支援する際は、以下の順序で改革を進めることを推奨している。

  1. ガバナンス改革:キーワードは"定量性"
  2. 財務構造改革:キーワードは"変動費化"
  3. 収益改善施策:キーワードは"スクラッチ&ビルド"

ガバナンス改革においてアクセンチュアが提唱しているのが、"データ経営への転換"である。経営者のアイデアや経験を基に合議制で判断されてきた状況から、"科学的根拠に基づいた、定量性の高い意思決定"に変えていくことを意味している。

当然ながら、ガバナンス改革で最も即効性のある手段は経営者への裁量と権限の集約化であり、トップダウン経営への転換である。この点については数年前から文部科学省内でも議論され、学長のリーダーシップ確立を狙いとして、学校教育法および国立大学法人法の一部が2015年4月に改正された1)。しかし、長い歴史の中で培った意思決定プロセスを大きく変えるには、一般的には同程度の年月を要し、実態が伴うにはまだまだ時間がかかると想定される。

そのため、権限集約を実現せずとも、短期間で同等のガバナンスを整備することが可能になる定量性を持たせた"データ経営"を同時並行的に進めることが改革成功のポイントになると考えている。

また、財務構造改革においてアクセンチュアが提唱しているのが、「調達改革」と「戦略的アウトソーシング」である。民間企業では一般的になりつつある手法で、前者は学内で利用する間接材を中心とした物品調達時の価格を最低単価まで圧縮すること、後者は学内に分散する非主要業務を切り出し、それらを一括で外部に委託することである。

コスト削減に直結しやすい経費性の調達コスト削減は、多くの大学ではすでに着手し始めている状況であるが、実状は大学内での自助努力に依存しており、購買時の競争力を最大化できている大学はそう多くはない。当然の話ではあるが、購買力は購買規模に大きく比例するため、複数大学で共同購買するといった戦略的ソーシングについては大きな余地が残されている。

加えて、今後は、これまで聖域であった人件費にも徐々に触手を伸ばさざるを得ないと考えている。しかしながら、コストの特性上、短期間で大規模な削減を進めるのは極めてリスクが高く、実質的には非正規職員に係るコストを対象に、環境変化に耐えやすい変動費化に狙いを定めることが推奨される。ダイエットに例えるならば、闇雲にぜい肉をそぎ落とすのではなく、対象を絞ったうえで体質転換(筋肉質化)から着手していくという考え方になる。

こうした体質転換の取り組みは、企業のみならず、大学であれば米国を中心とした海外ですでに積極的に推進されている。アクセンチュアが支援した事例になるが、海外の大学では学内に分散していた人事・経理業務を1カ所に集約し、業務プロセス改革を同時に実施することで、業務効率化を実現した。この例では、学外にシェアードセンターを設置し、当該業務に従事していた大部分の職員を同時並行で転籍してもらったため、削減と変動費化を同時に実現させたのである。また、国内においても非正規職員や外部委託していた業務を集約し、一括で運営移管を図った例も複数存在する。これらのケースでは、単に規模の経済に基づくコスト削減を適えるだけでなく、大学の経営体質そのものの変動費化と関連する物件コストの削減にも成功している。

これら2つの改革が実現できて、はじめて改革基盤が整うことになる。すなわち、収入拡大に向けて投資する体制が出来たということである。当然、収入側の施策は各大学の特色や強みによって大きく異なってくるが、アイデアやトレンドに流されて闇雲に施策を進めるのではなく、教育・研究に投資と回収の概念を持ち込み、利益や価値基準でスクラップ&ビルドの改革を進めていくことが共通的に求められてくる。より端的に言えば、法人レベルでは管理会計、施策レベルではプロジェクト会計を導入することで、本質的に価値を生み出す施策の費用対効果を見極め、重点的に投資を行うモデルの確立が求められるということだ。

企業的な経営モデルへの転換

大学改革は一朝一夕で成し得るものではなく、確固たるビジョンと筋の通ったシナリオに沿って、粘り強く、中長期視点で進めていくことが推奨される。実際、前述の海外大学においても、財務構造改革の構想から効果創出までに数年の歳月を要しているため、改革慣れをしていない国内大学ではそれ以上の月日を前提とすることが望ましい。

アクセンチュアの根幹にある思想は、大学が企業の経営モデルをカスタマイズして取り入れるということである。

大学が支出コントロールだけで運営できた時代は終焉しつつある。採算性を見極める目と意思決定プロセス、高採算事業に徹底的に投資するモデル、それらを支える変化に強い財務基盤を段階的に整備していくことが不可欠になってくる。

急速な時代の変化に足並みを揃えるかたちで、大学自体もアメーバ的に変化を遂げる経営が実現できれば、学校法人としての長期的価値と永続性を更に高めることに繋がるのではないだろうか。

次回予告

次回からは視点を変え、学生や教職員、大学経営者、保護者に対して、パラダイムシフトを前提とした提言を述べさせていただきたいと思う。

参考

1) 学校教育法及び国立大学法人法の一部を改正する法律案(文部科学省)

著者プロフィール

根本武(ねもとたける)
アクセンチュア株式会社 公共サービス・医療健康本部 マネジャー
入社以来、数多くの大学改革案件を主導。
経営戦略や教育改革、組織・業務・IT改革に至るまで幅広い分野に精通。
保有資格は中小企業診断士、システムアナリスト、テクニカルエンジニア(ネットワーク)など