田舎の母親に「彼と同棲している」と伝えたら、「それなら結婚するんでしょうね。ご両親には挨拶したの?」と張り切り出した。こっちはまだ、そこまで考えてないんですけど。ていうか、同棲に「挨拶」なんて必要? 最近、こんなふうに戸惑うアラサー女子の話をしばしば聞きます。今回のテーマは、そんな「世代間ギャップ」について。現アラサー世代とその親たちは、同棲や「性」に関する溝が最も大きい世代なのです。

40年前の「性革命」を経験したはずなのに……

とある50代女性の話。彼女の娘さん(27歳・保育士)が、「親に黙って彼氏と同棲している」というのです。半ばあきらめたような顔で「こうなったらもう、娘には早くお嫁に行ってほしいわ~」とボヤく彼女。それを聞いたとき、私は「そうか、今の50代にとって、まだまだ『同棲=結婚』なのだなぁ」と感慨深くなったのでした。カップルの自由な2人暮らしなんて、「ふしだら」「理解できない」というイメージもあるのかもしれません。それにしても、まだ「結婚前の男女が~」といった古い価値観を信じている人がいるなんて。今や男子高校生よりも女子高生の方が、性交体験率が高い時代ですよ?(日本性教育協会のデータより)と思ったものの、こうした「性に関する考え方の変化」を、全ての世代が理解しているわけではありません。

日本人の性が「自由化」したのは、今から40年ほど前のことです。1970年代、欧米では戦後生まれのベビーブーマーたちが「性革命」なるムーブメントを起こしました。学生運動や平和運動、ヒッピー文化、ウーマン・リブなどが盛り上がり、古くさい性規範からの解放やフリーセックスを求めたのです。日本でも同じことが起こりました。ウーマン・リブが「押し付けられた女らしさからの解放」を訴えたのをはじめ、いたるところで「性や恋愛の自由化」が進んだのです。そんな時代に生まれ育った今の50代の母親が、娘の「同棲」をふしだらだと考えてしまうのは、なぜでしょう。

50代の親が、「娘の行動を理解できない」理由

70年代に始まった「性革命」によって、「セックス=愛=結婚」の結びつきは、どんどん崩れていきました。第2回で取り上げた「同棲」が流行した70年代はじめは、まだ「婚前交渉はよくない」という考えが多数派でしたが、80年代からバブル期にかけて、日本人はどんどん「性」に寛容になっていきます。不倫がテレビドラマになり、離婚は「バツイチ」というキャッチーな呼び方で表現されるように。NHKの「日本人の意識調査」では、80年代に「結婚の約束がなくても、愛し合っているならセックスしてもよい」と考える人が大きく増加しています。93年にはついに、「愛し合っていればよい」が最多を占めるまでになりました。ただ、これはあくまで「全世代の平均」。世代によって、「貞操観念」には大きな違いがあるのでした。

これに関して、社会学者の上野千鶴子氏が面白いデータを紹介しています。ちょっと古い調査ですが、99年に「未婚の女性がセックスすること」についてどう思うか尋ねた結果、30代女性を境として、10~20代では「かまわない」が圧倒的多数派なのに対し、40代以上では「よくない」が多数派なのですね。99年の時点では、10代の娘と40代の母親の間で「性をめぐる考え方のギャップ」がどの世代よりも大きかったのです。もっと言えば、40代以下の世代は「婚前交渉OK」という考えが主流なので、貞操観念に関する世代間ギャップはそれほど生じないはずです(『結婚帝国 女の岐れ道』2004年、講談社、20-22頁参照)。さて、90年代後半に「婚前交渉はダメ!」と言っていた40代女性は今、50代後半~60代。99年に「婚前交渉、別にいいじゃん」と言っていた10代女子たちは今、アラサーになっています。その娘が「私、彼氏と住んでるの」と言い出したら、保守的な価値観のままでいる母親たちはびっくりするでしょう。

悩んだ母親たちの苦肉の策、「結婚するなら同棲してもいいわよ」

50代半ばの母親たちは、娘に対して「個性を大事に」とか「やりたいことをやらせてあげよう」という方針で育ててきた人が多いもの。そんな手前、「自由」を謳歌する娘に強いことは言えません。そこで折衷案として、「同棲はいいけど、それなら当然、結婚するのよね?」との言葉が出てくるのではないでしょうか。第7回の「同棲アンケート」でも、女性たちからは「結婚前提じゃないと親に反対される(33歳)」「結婚前提でないと両親が許してくれなかった。ただし、親戚や近所には結婚するまで話さないことになった(26歳)」などの声がたくさん寄せられました。結婚という条件付きで同棲を許可する親が多いのです。アンケートを見ていた時は、「26歳の娘に対して、ずいぶん保守的だなぁ」と思ったものですが、彼女の親たち(50代後半~60代)は、現実の恋愛やセックスがいくら自由化しても、「婚前交渉はよくないもの、同棲なんて恥ずかしい」という価値観を引きずっているのです(もちろん全員がそうとはいえませんが)。アラサー女子がそんな母親と向き合うのは、けっこう大変かもしれません。もちろん最終的には、娘が「好きな人と幸せに暮らしている」ことを知って、喜ばない親はいないと思いますけれどね。

<著者プロフィール>
北条かや
1986年、石川県生まれ。同志社大学社会学部、京都大学大学院文学研究科修了。 会社員を経て、14年2月、星海社新書より『キャバ嬢の社会学』を刊行。
【Twitter】@kaya8823
【ブログ】コスプレで女やってますけど
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イラスト: 安海