「男と暮らす」。5年前のある日、コンビニで見つけた『anan』(No.1661、2009/5/27)の表紙は衝撃的でした。ラフなTシャツ姿で首にタオルを巻き、今さっきシャワーを浴びたばかりのような玉木宏さんの「見返り美人図」風セクシーショット。玉木宏さんのことはよく知らなかったし、男と暮らす予定なんてなかったけれど、思わず手に取ったのを覚えています。70年代から常に「女の時代」を先取りしてきた『anan』が描く、アラサー女子の「同棲」とは?

『anan』は「女が男を見る」雑誌

『anan』は「女が男を見る」雑誌です。1983年には「妙に刺激的な男たちのハダカ鑑賞!」などのキャッチコピーとともに、男性アイドルのヌードを掲載(北原みのり『アンアンのセックスできれいになれた?』2011年、朝日新聞出版、p.46)。その「女が男を見る」まなざしは時に最先端すぎて、常識ある人たちから総スカンをくらうこともありました。それでも『anan』は70年の創刊以来、若い女性が主体的におしゃれをし、恋愛やセックスや一人旅を楽しみ、男のヌードを鑑賞する楽しさを教えてくれたのです。創刊当初の70年代は、ジーンズやミニスカートなどの若者文化が花開いた時代。自由恋愛のムードも高まり、「婚前交渉」を前提とした同棲がブームになりました。そんな開放的な時代の空気を、『anan』はまさに体現していたのです。

最近は若い男女の一部が「草食化」しているのを受けて、『anan』もずいぶん変わってきたようです。が、2009年に「男と暮らす」と打ち出してきたあたり、女の欲望に忠実な"ananスピリッツ"は健在だなぁと感じ入ったのでした。「男子と暮らす」や「彼氏と暮らす」ではなく、「男」でなければダメなのです。男というナマの存在に対して突きつけられるのは、「女」という生身の存在。女子でもない、女性でもない「女」なのです。そこにはどんな欲望が渦巻いているのかと、ワクワクしつつページをめくりました。

同棲の理想は、玉木宏と暮らす明るい部屋

まず目に飛び込んで来たのは、「ドキドキも楽しさも2倍以上!? 玉木宏と暮らしたら…。」というグラビアページ。玉木宏さんが、明るい部屋で仰向けになって本を読んでいたり、Tシャツ姿でベッドに寝そべったり。「バスタオルを肩にかけて湯上がり風」や、「キッチンにたたずんで、休日の朝に得意料理をふるまってくれる風」のショットもあります。ファンにはたまらないだろうなと思いつつ、どうしてもその「明るい部屋」を直視できなかったのは、私が物事を斜めから見過ぎているせいでしょうか。

女性誌には、主に2つの役割があります。まず、恋愛や結婚に対して「ほどよい幻想」を抱かせること。そして「まあ、幻想はあくまで幻想だからね。平凡なあなたには、これくらいの消費がちょうど良いでしょう」と、手の届きそうな「現実=商品」を見せてくれること。『anan』の巻頭に置かれた「玉木宏のグラビア」は、同棲へのほどよい幻想を抱かせてくれます。では「現実」は?

「同棲の現実」は杉浦太陽が教えてくれる

玉木宏が「理想」なら、「現実」は杉浦太陽さんです。言わずと知れた、辻希美の夫。既婚者の杉浦太陽さんは同誌のインタビューで、同棲に「反対ですね。同棲しちゃうと結婚するキッカケがなくなると思うんですよ。なあなあになってしまう気がする」と主張。そういえば、彼は辻ちゃんと「おめでた婚」をしています。自分は「なあなあ」ではなく、「けじめ」をつけたと考えているのかもしれません。そんな杉浦太陽さんが、同棲につきまとう「なあなあ感」を否定したくなるのは理解できます。それにしても、憧れの「男と暮らす」ライフはどこへ……迷える女子のために『anan』が出した結論は、「婚約を決めた後、結婚への準備期間なら同棲もOK」。やっぱり同棲のゴールは結婚なのでしょうか。

「愛をはぐくむ、女の必修科目。手作り朝ごはんで男心をがっちり」では、彼の胃袋をつかむためのレシピを紹介しています。「彼を魅了するおしゃれ計画! 厳選スイートルームウェア」は 、「いかに彼から愛されるか」が目的のような気もしました。「男と暮らす」という刺激的な タイトルとは裏腹に、何だかちょっと保守的……? 70年代~90年代前半の『anan』にあった「女主体の恋愛を楽しもう!」という空気は、それほど感じられません。

もちろん、「暮らす前に見極めたい! 同棲に向く男、向かない男」「理想の同棲相手を育成するには?」など、女が男を「見極める・育成する」といった特集もあり、「私が主体よ!」な雰囲気は感じられます。「優柔オトコを決心させる13の技」など、手練手管でオンナに有利な方へ持って行こうとする狡猾さもある。欲望に忠実な『anan』らしくて素敵です。ただ、あくまでゴールは「結婚」なのでした。「幸せになりたいなら、結婚する前に同棲した方がいいんですか?」。とにかく「男を思うままにしたい」欲望と、「男に幸せにして欲しい」願望がせめぎあっている。『anan』の同棲特集からは、アラサー女子の揺れる思いが伝わってきて、ちょっと切ないのでした。

<著者プロフィール>
北条かや
1986年、石川県生まれ。同志社大学社会学部、京都大学大学院文学研究科修了。 会社員を経て、14年2月、星海社新書より『キャバ嬢の社会学』を刊行。
【Twitter】@kaya8823
【ブログ】コスプレで女やってますけど
【Facebookページ】北条かや

イラスト: 安海