日本の人口が減っています。政府の推計では、今後50年間で、日本の人口は毎年80万人ずつ減っていくそうです(平成24年版の「高齢社会白書」より)。酒井順子氏のエッセイ『少子』(2003年、講談社)によると、このままいけば、西暦3500年あたりで日本の人口は1人になるとか。ひ、ひとりって……。

人口が減っている理由のひとつは、結婚しない若者が増えているからです。日本人は結婚しなければ子どもを産まないので、未婚率の上昇がダイレクトに少子化につながるのですね。一方、欧米では同棲カップルが子どもを持ちやすい仕組みを作り、出生率が回復した国もあるようです。日本も欧米に倣って若者の「同棲」を推奨すれば、少子化を食い止められるでしょうか?

日本の同棲カップルは、子どもを産まない

日本の同棲カップルは、子どもを産みません。というか、子どもについては良くも悪くも、先延ばしにしているケースが多いようです。一方、北欧などヨーロッパ諸国の同棲カップルは、若いうちから同棲し、そのまま子どもをもつケースが増えています。フランスにはパックス、スウェーデンにはサムボという制度があり、同棲カップルも既婚者に近い法的・経済的保護を受けられる。好きな人とずっと一緒にいられて、国がそれを保護してくれるとなれば、若いカップルが「一緒に暮らしてみよう」となるのは自然な流れかもしれません。

これについて、社会学者の筒井淳也氏が面白い分析をされています。筒井氏によれば、先進諸国では「同棲率」が高い国ほど、「出生率」も高いというのです。同棲率の高いフランスやノルウェー、アイスランドといった国々では出生率も高い一方、同棲率が低いイタリア、ドイツ、日本の敗戦3国は、出生率の低下に悩まされている(「同棲率と出生率」筒井淳也氏のブログ、2009年12月24日)。男女が若いうちから同棲すれば、子どもができる確率も上がるでしょう。こうした国々でも日本と同様、「結婚する若者」は減っているのですが、それを補うように「同棲する若者」が増えている。同棲カップルが子どもを産んでいるから、出生率が上がったともいえます。

日本人は同棲するより結婚したい?

先ほど「日本の同棲カップルは子どもを産まない」と書きましたが、正確には少し違います。筒井氏も指摘しているように、日本の同棲カップルは、子どもができたら「責任取らなくちゃ」と「できちゃった結婚」をするか、でなければ「中絶」です。子どもを産むとなったら、その時、彼らはすでに同棲カップルではなくなっているのです。

連載の第2回でみたように、同棲カップルが「彼女の妊娠判明→中絶→破局して結婚できず」という物語が受けるのは、「な~んだ結局、彼は責任を取りたくなかったのね」とか「2人が結婚できればよかったのになあ」といった共感を得られるからでしょう。いずれにせよ、「同棲=曖昧な関係、無責任でもOK」、「結婚=互いに責任が生じるので、逃げは許されない」という二項対立が感じられます。

こんな言い方をすると変ですが、日本の若者は、同棲するより結婚したがっているようです。国立社会保障・人口問題研究所の「第14回出生動向基本調査」によると、9割の若者が「いずれは結婚するつもり」と考えています。子どもを産むのなら、なおさら「結婚」しなくちゃ……という意識も強い。ヒトとして、「結婚しなきゃ子どもを産めない」って変だなぁと思いますが、結婚すれば扶養控除など税制上のメリットがある以上、仕方がないのかもしれません。最近では婚外子の相続差別が撤廃されるなど、新たな動きはあるものの、「同棲よりも結婚が上」と思っている人が多数派です。「格上」である結婚のハードルが高すぎて、今ひとつ踏み切れないという若者も多いのですが……。

若者たちが「同棲する必要を感じない」理由は○○

もっと気軽に若い男女が同棲できる仕組みを作れば、若い男女が次々と同棲し、婚外子をたくさん産んでくれるでしょうか。そうもいかないだろうなぁと思います。不安定雇用の若者が増え、カップル形成すらままならない中、同棲する若者が増加するとは思えないからです。同棲を推進するより、まずは恋人を作るところから「支援」すべきなのか。でも、人には「恋愛しない自由」もあります。「同棲したら家賃を補助します」「同棲カップルは所得税を安くします」なんて制度ができたら話は別かもしれませんが、「リア充を優遇するのか!」とか、「結婚制度を崩壊させるつもりか!」などの批判が噴出するでしょう。

ちなみに海外からは、日本の若いカップルはなかなか同棲しないと見られているようです。「それなら、彼らはどこでセックスをするのか?」上野千鶴子氏によると、その答えは「ラブホテル」。(『女たちのサバイバル作戦』2013年、文藝春秋、96-8頁)日本の若者は、結婚までは親元に住み、恋人とのセックスはラブホテルで済ませるというのですね。だから結婚までは実家を出る必要がないし、同棲する必要も感じない。そういえば最近のラブホテルは「ハッピーホテル」「レジャーホテル」なんて呼ばれたりもしています。内装や設備も、どんどん過ごしやすくなっているとか。欧米のように、好きだからといって簡単には同棲しない日本の若者にとって、ラブホテルは実家でもなく、恋人と住む家でもない、もう一つの「家」なのかもしれません。

<著者プロフィール>
北条かや
1986年、石川県生まれ。同志社大学社会学部、京都大学大学院文学研究科修了。 会社員を経て、14年2月、星海社新書より『キャバ嬢の社会学』を刊行。
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イラスト: 安海