恋人と暮らすにあたり、「寝室問題」は大きなウェイトを占めるもの。「彼のイビキが酷い」「冷房の設定温度が合わない」と悩む女子も多いようですが、いちばん深刻そうなのは「同棲して、回数が減った」というお悩み。実際のところ、どうなんでしょう。その不安の根底にあるものとは?

一緒に暮らせば、ホテル代の節約に!?

「2人で利用していたシティホテルの代わりに部屋を借りれば、たった2晩半の宿泊代でモトが取れる」と書いて賛否両論を呼んだのは、評論家の勝間和代さん(『結婚、する? (AERAムック)』2010年、p.58など)。勝間さんの発言は「結婚」に関するものですが、同居でホテル代の節約というのは、一部の同棲カップルにも当てはまるでしょう。節約うんぬんはともかく、セックスという観点を抜きに、好きな人との暮らしを語ることはできませんよね。

そこで気になるのが、カップルの寝室事情。マイナビニュース編集部 が今年4月、全国の20歳以上の既婚男女400名に対して行った調査では、77%の夫婦が「寝室は一緒」と答えています。最も多かった理由は「部屋数が少ないから」。え、夢がない? まあ、狭い日本の住宅事情を考えれば当然かもしれません(回答者の居住地は、都市部がやや多めでした)。

同棲カップルも、寝室は同じというケースが大半でしょう。「寝る時は、お互いに今日の出来事を話し合って……」と、胸をときめかせる女子もいるようです。ちなみに女同士の飲み会で、「実は今、彼と住んでるの」と告白すると、必ず「マジ~~~!? で、毎日一緒に寝てるの!? ××はどうなの?」と、質問攻めに遭います(目撃者談)。

私もこの連載をきっかけに、周囲の同棲経験者にあれこれ尋ねてみました。「彼との生活時間が合わないから」と、寝室を別にするカップルもいれば、シングルベッドで一緒に寝ている猛者(?)も。また、彼のイビキがうるさくて思わず殴りたくなる、とか、暑がりの彼が冷房を18度に設定するので身体がフローズン状態に……などの事情で、一時的に寝室を分けるカップルもいました。

同棲カップルの4割「減った」

同棲カップルのうち、4割はセックス回数が減るという調査結果があります。『anan』2009年6月3日号(マガジンハウス)によると 、「同棲して頻度が減った」人は40%。ただし36%は「変わらない」、「増えた」も24%います。一部には頻度が増すケースもあるようですが、自然と回数を減らすカップルが多い様子。

ある種の女子にとって、これは深刻な悩みです。「愛されていないのかも」「私に不満があるのかな」「もしかしたら彼、浮気してる?」など、疑心暗鬼が膨らんでいくのです。同棲は2人の時間が増え、コミュニケーションが豊かになるイメージがありますから、セックス=重要なコミュニケーションと考える女子にとって、その頻度が減るのは「危機」なのです。

「彼と暮らし始めて2年。何となく回数が減り、今では何ヶ月もしていません。仲は良いですが、このまま、ただの同居人になっていくのは嫌です」「同棲中の彼氏は、帰って来てご飯を食べたら、『疲れた~ 』と言ってすぐ寝てしまいます。私は、家政婦かお手伝いさんでしょうか。彼のことは好きなので、別れたくありません」

誰にも相談できない女子は、ネットで悩みを吐き出します。そうした声の数々を見ていると、「同棲しているのにセックスレス」というのは、女の根幹をゆるがす一大事なのだなぁと感じます。いつでもそのチャンスがあるのに、まだ結婚もしていないのに。「私は家政婦でしょうか」という書き込みには、思わずドキッとしました。

同棲中の相手から求められないと彼女は「家政婦」になってしまうのでしょうか。「家政婦」イコール「女として終わり」という価値観も恐ろしい。それでも、彼女は「別れたくない」と言うのです。そこには「女」としての不安と、相手へのすさまじい執着を感じます。

同棲カップルは「友愛」を目指せ!?

評論家の小倉千加子さんは、『結婚の才能』(2010、朝日新聞出版、p.49-51)で、「愛の三角理論」を紹介しています。面白いので引用すると、愛には「親密さ」と「情熱」、そして「義務」の3要素がある、という。「親密さ」とは、友人同士にもあるような好意のこと。「情熱」とは性的なもの、衝動的な欲求です。最後の「義務」とは、誠意によってルールを守ろうとする決心。「完全な愛」はこの3つから成るそうですが、どれかが欠けていても「愛」は成り立ちます。

セックスレスに悩む女子の一部は、「親密さ」「情熱」「義務」のうち、「情熱」が失われたことを嘆いているのです。情熱がなくなって、親密さと義務だけが残っている。ちなみにそういう関係は、「友愛」と呼ぶそうです。こう聞くと、悪くないではありませんか。「友愛」とは同棲カップルの落ち着きをイメージさせる、素敵な表現だと思います。

セックスレスが深刻なのは、2人の関係から「情熱」のみならず「親密さ」、もしくは「義務」までもが失われた場合ではないでしょうか。親密なだけでは「ただの友達」。ましてや義務だけでは、彼の世話をする「家政婦」になりかねない。それでは、長続きしそうもありませんよね。同棲を続けることは結局、2人の関係を問い直すプロセスでもあるのでしょう。

<著者プロフィール>
北条かや
1986年、石川県生まれ。同志社大学社会学部、京都大学大学院文学研究科修了。 会社員を経て、14年2月、星海社新書より『キャバ嬢の社会学』を刊行。
【Twitter】@kaya8823
【ブログ】コスプレで女やってますけど
【Facebookページ】北条かや

イラスト: 安海