最近、身近でまたひとしきり結婚、出産ラッシュが巻き起こっています。春はすばらしい季節で、結婚式をするには最高ですし、梅雨はジューンブライド、夏は夏休みついでに海外挙式という人もいたり、秋は気候が良いので結婚式シーズン、冬の結婚式もロマンティック……。と、なんだかんだでいつでも結婚には最適には最適のシーズンなわけで、独身の身には、春の嵐のように吹き荒れる結婚ラッシュがことのほかこたえます。

30代後半まで独身でいると、20代とは違って、「同世代の中で私だけが取り残されてしまう」という不安はもうあまり感じません。自分の結婚願望が強まったぶん、嫉妬が強まるかというとそうでもありません。この年齢で感じる不安は「一人で死ぬのは私だけかもしれない」という不安であり、見事に相手にめぐり会え、結婚した人には、心の底から「おめでとう」と祝福する気持ちを持てます。

しかし、身近な人たちがペアになっていくのを見ていると「私、いつまで独身なんだろう……」と我が身の来し方行く末に思いを馳せて、ぼんやり部屋で壁を見つめたまま数時間が経過していたりすることも事実です。

つらいとき浮かんでくる「言ってはいけない言葉」

こういうとき、ふと頭に浮かんでくる「禁句」があります。それは……。「お互い○歳過ぎても独身だったら、結婚しようね」という、よくある口約束です。私自身は、たぶんこの言葉を誰かに言ったことはないと思うのですが、もしかしたら精神的に行き詰まったときに口にしていたことがあるかもしれない……と不安になる程度には、困ったときに言いたくなる言葉ではあります。

そして、言われたことのある人にとっては、「このままずっと一人なのかも」と不安になったときに、「そういえば、あの人とあんな約束したな」と思い出す言葉でもあります。私は、この言葉が好きではありません。口約束にもほどがあるというか、本気で守る気あんのか!? と詰め寄りたいほど、「約束」の意味をなしてない言葉だと思います。なのに、その約束は「結婚」という、人生の中でとても重いものについての約束なのです。こんなことを気軽に言うなんて、いったいどんな了見で生きているのか? と思います。

しかも、言われた側は「このままだと、あの人と結婚できるかも……」と、わりあいその気になりがちだったりするのに、だいたいこの言葉は、言った側が先に結婚します。言う側にとっては「万が一結婚できなかったときの保険」であり、言われる側にとっては「ささやかな希望」になってしまう言葉なのです。

若いときから、「こんなことを言い出したらおしまいだ」と思っていたのに、最近、気づくとふと「○歳までお互い独身だったら、結婚しようか」と、言いたい衝動に駆られ、そんな自分に焦っています。武士は食わねど高楊枝、じゃないですけど、独身でもそんな卑怯な言葉は使うまい、と思っていたのに……。

私の周りでは、「この言葉がきっかけで結婚した」というカップルの存在は聞いたことがないのですが、どれくらい効力があるものなのでしょうか。むしろ、投げ網のように誰にでも言っておいたほうが良かったのか、と最近ちょっと思い始めています。

<著者プロフィール>
雨宮まみ
ライター。いわゆる男性向けエロ本の編集を経て、フリーのライターに。その「ちょっと普通じゃない曲がりくねった女道」を書いた自伝エッセイ『女子をこじらせて』(ポット出版)を昨年上梓。恋愛や女であることと素直に向き合えない「女子の自意識」をテーマに『音楽と人』『POPEYE』などで連載中。

イラスト: 野出木彩