自分の悪口を人づてに聞いたりするのは、もちろんぞっとする体験ですが、直接自分に対する悪口でなくても、聞くとぞっとする言葉があります。それは、自分と同じく「三十過ぎて独身」な女性に対する悪口です。

「なんか、結婚に必死って感じで、ガツガツしてて怖いんだよね~」
「こないだも飲み会で、○○が独身って聞いたらすげー食いついてたでしょ。引いたわ」
「イイ女ぶるのがまたイタいんだよね。さばけてる風にしてるけど、全然さばけてないっしょ」

飲み会などで、お酒が入って油断した男たちがこのような「男子トーク」を始めた場合、私はたいてい、顔では笑って、心では震え上がっています。そのうち、私が恐怖でピクピクしていることに気づいた男性が「あ、雨宮さんは独身でも違うよ~!」などとフォローしてくれたりするのがまたつらさに拍車をかけてきます。

重くても軽くても疲れる独身

「三十過ぎて独身の女は重い」「うかつに手を出すと結婚を迫られる」。昔からよく言われている言葉です。しかし、だからと言って、軽さを演出するとどうなるでしょうか。みんな知っていますよね。軽さを演出すると、近づいてくるのは割り切った関係を求める既婚者ばかりという地獄のような状況になることを……!

結婚向きの堅実な女であることをアピールすればするほど「重い」と言われ、軽さをアピールすれば今度は真剣な交際への芽が芽生えにくくなる。真剣な交際や結婚を望んでいる独身女性にとって、これは深刻な問題です。

でも、「重い」と言われると、仕方ないよなぁ……と思う部分もあるのです。自分自身、自分の結婚願望が重くて仕方ないと感じるところがあるからです。

何にも考えず、後先考えずにいられたらどんなにいいだろうか、と思うこともありますし、でもそんなことをしていたら、また実りのない恋愛に傷つくばかりで、今までと同じことを繰り返してしまう、と不安になったりもします。

「重い、と思われたくない」「結婚を焦っていると気づかれたくない」という気持ちは、必ずしも「男をひっかけるための打算」とは限りません。独身だって、恋愛をするときには、純粋な気持ちを持っています。

好きな相手に「結婚だけが目当てで近づいてきた」とは思われたくないし、恋愛になるかならないかわからない、ほのかな好意を「もしかして結婚狙い?」と勘ぐられたりしたら、それはつらいものです。そして、「結婚が目当てだと思われたくない」という気持ちが、さらに見えない防御壁になっていくのです。

オープンでありたいと思いながらも、どこかでこのようなガードの姿勢を取っている。それこそが独身女性の周りに、うかつに触れにくい"重さ"を醸し出している原因なのではないか、と思います。こんな重さを醸し出すくらいなら、「いつまでも独身でかわいそー」「そんなだから結婚できないんだよ!」とバカにされていたほうが、まだマシかもしれないという気もします。

自然体で独身でいる、というのは、なかなか難しいものなのだなぁ……と、この歳になって、つくづく思うのでした。

<著者プロフィール>
雨宮まみ
ライター。いわゆる男性向けエロ本の編集を経て、フリーのライターに。その「ちょっと普通じゃない曲がりくねった女道」を書いた自伝エッセイ『女子をこじらせて』(ポット出版)を昨年上梓。恋愛や女であることと素直に向き合えない「女子の自意識」をテーマに『音楽と人』『POPEYE』などで連載中。

イラスト: 野出木彩