今の家に引っ越してきて、一年と少したちました。東京の賃貸物件の更新は、二年に一度というのが一般的です。ということは、あと一年以内に、更新するかどうかを決めなくてはいけません。

この家に引っ越してきたときは、「更新までに結婚して、この家を出ていくんだ!」と思っていたのに、あれよあれよという間にタイムリミットが一年を切っています。

別に気に入っているので、住み続けてもいいのですが、このまま一人で生きていくのだとしたら、賃貸で家賃を払い続けるよりも、マンション購入を検討したほうが良いのでは……? ということも頭をよぎり始めるお年頃です。独身女性は、みんな、こういう人生設計をどうしているのでしょうか。

独身時代は、身の振り方が定まらないモラトリアム期?

「いつかはこんな暮らしがしたい」「こんな家に住みたい」というイメージは、多くの人が持っていると思います。

私は、猫を飼ってみたいと長年思っています。正直、一生独身だと決まっているならば、今の家の契約を更新せずにペット可の物件を探して引っ越し、猫との暮らしをスタートさせたいです。しかし、考えてしまうんですよね。もしも結婚したいと思った相手が、猫アレルギーだったら……。生き物を飼うというのは、その一生に責任を持つことだと私は考えているので、ついそこまで考えては、不安で飼うことを諦めてしまうのです。

もっとささいなことでも、迷うことはたくさんあります。例えば、私は今、ベッドの買い替えを検討しています。セミダブルに買い替えようかな~などと思ってますが、一年以内に結婚するとしたら、こんな時期に中途半端な大きさのベッドに買い替えてどうなるんでしょうか。そして、一年たっても二年たっても彼氏すらできないのだとしたら……別にシングルベッドのままでいいんじゃないかという気もしてきます。

食器を買うときだって、ペアにするか、お客さま用も含めて四つぐらいはそろえるべきなのかとか考えてしまうこともありますし、ベッド以外でも大きな家具を購入する際には「独身時代しか使わないかもしれないのに……」と迷いが出ます。こんなしょうもないことですら、こんな具合なのですから、保険や年金に至ってはもう思考が停止しそうです。

別に、家具やら保険やらそういうものについては、なるようにしかならない部分もあるのですし、好きなようにすればいいとは思うものの、ずっと一人で暮らしたいわけではないのに、一人の生活を充実させようと努力するのも、何か違うのではないかとふと思ってしまうのです。

何がつらいって、この「何に向かって生きているのかわからない、先の定まらないモラトリアム感」がつらいんです。自由と言えば聞こえはいいですが、一生使うとわかってるなら上等の家具を買いたいところなのに、これから一人の暮らしをするか、二人の暮らしになるのかすら定かではないわけです。

絶対結婚する、という意志のもとに、結婚生活を想定した人生設計をするぐらいの勢いがあったほうがいいような気はしますが、一人で生きることになるのなら、一人で生きるなりの用意は、二人で生きるのとはまったく違うものになります。

私は、最近は家のものを捨てるときも「自分がいきなり死んだとしたら、親が部屋のものを片付けるのは大変だろうし、できるだけものを減らしておこう」と、まるで生前に遺品を整理するような気持ちになってしまったりします。そこまで考えるのもどうかと思いますが……。

結婚したいと考えている独身者は、一人で立派に自活していても、どこか生活の基盤が定まらないような不安定な気分を常に薄く感じているのではないでしょうか。

<著者プロフィール>
雨宮まみ
ライター。いわゆる男性向けエロ本の編集を経て、フリーのライターに。その「ちょっと普通じゃない曲がりくねった女道」を書いた自伝エッセイ『女子をこじらせて』(ポット出版)を昨年上梓。恋愛や女であることと素直に向き合えない「女子の自意識」をテーマに『音楽と人』『POPEYE』などで連載中。

イラスト: 野出木彩