飲み屋で女同士、女子会とは名ばかりの場末の飲みを繰り広げながら「結婚したいー!」と半ば口グセのようになった言葉を発するとき、その言葉に対し、たまに鋭く切り込んでくる剣豪がいます。「結婚したいしたいって言うけどさ、じゃあなんで結婚したいの?」

この後に「結婚って共同作業だから、お互いが結婚に求めてるものが一致しないと、続かないよ?」とさらなる一撃が待っている場合もあります。もう「すみません熱燗もう一本!」と言うしかない状況ですが、ちょっと待って、「なぜ自分は結婚したいのか」を考えてみてはいかがでしょうか。

支え合うパートナー? 恋愛のゴール?

私の場合、まず頭に浮かぶのは「支え合う相手が欲しい」ということです。今、日本は不況のまっただ中。リストラに派遣切り、それどころか会社ごと倒産なんて話もゴロゴロしてます。私も原稿を書いていた雑誌が休刊になったり、会社ごとなくなってしまったり、まさに一寸先は闇。経済的に支えてくれとは言わないまでも、この不況の波の中で遭難するなら一人より二人のほうが心強いと考えるのが普通じゃないでしょうか。

そしてもうひとつ強く思うのは「もう恋愛は最後にしたい」ということです。私自身は、恋愛結婚をしたいと思っていますが、それで今まで結婚できていないということは、今までの恋愛はことごとく失敗に終わっているということです。

素晴らしい相手とのすてきな思い出もありますが、素晴らしい恋愛であればあるほど、「この人だ」と思えるほど好きな相手であればあるほど、別れのときにはもう「今ここで私の寿命、尽きてくれないかな……」と思うほど深く傷つきます。

最初から何かズレを感じた相手と、なんとなくズルズルと付き合ってしまい、結局「何が好きで付き合ったのかわからない」ほど疲弊して別れるのも、お互いに不毛です。「好きだけど……本当にこの人でいいの?」と悩みながらのお付き合いも、なんか微妙なものです。相手だって「そんな適当な気持ちで付き合うなよ!」と言いたいに決まってます。

恋愛というのは、楽しいけれどとにかく疲れるものです。さらに三十代も後半になると、恋愛の傷が治りにくいカラダになってきます。そうなると、心の底から叫びたくなるんです。「もう、次で恋愛は最後にしたい!」と……。

「この人」という相手と添い遂げると決めて、恋愛の戦場から引退したい。私の「結婚したい理由」は、そんなところかもしれません。

<著者プロフィール>
雨宮まみ
ライター。いわゆる男性向けエロ本の編集を経て、フリーのライターに。その「ちょっと普通じゃない曲がりくねった女道」を書いた自伝エッセイ『女子をこじらせて』(ポット出版)を昨年上梓。恋愛や女であることと素直に向き合えない「女子の自意識」をテーマに『音楽と人』『POPEYE』などで連載中。

イラスト: 野出木彩