「2010年度ヒット商品ベスト30」にも入った「ダイソン エアマルチプライアー(Air Multiplier)」。羽根がないのでこのようにワンちゃんが中に入っても安全。もちろん子供が羽根に指を挟むこともない

羽根のない扇風機はちょっと高い…でも興味津々

「羽根のない扇風機」の売り文句で注目を浴びた「ダイソン エアマルチプライアー(Air Multiplier)」。この製品のニュースが初めて報じられたのは2009年10月(発売は11月2日)。この話を聞いたときには「プロペラがないのにどうやって風を起こすの?」と首をひねったものだ。11月に新型の扇風機を発売するというダイソンの勇気にも驚いたが…。サイクロン掃除機のダイソンの製品なんだからきっと凄い仕組なんだろうけど、羽根がないのにどうやって風を出すの? とか、掃除機並みに音が大きいの? とか、犬の毛が詰まったりしないの? という疑問もあって興味津々だった。

2009年に発売されたテーブルタイプの「ダイソン エアマルチプライアー AM01」。左は「ホワイト/シルバー」で右は「アイアン/サテンブルー」。この製品は世間でかなり話題になった。しかし、3万7000円の扇風機を買うには勇気もかなり必要だ

この時発売されたのが「AM01」というテーブルタイプのモデル。風を出す円形部分の直径は25cmで高さは50cmというコンパクトな製品だった。ダイソン オンラインストアで3万7000円から購入できるが、正直なところ扇風機の価格としては高い。量販店に行けばテーブルタイプは2000円ぐらいで買える時代なので、かなりの価値を見出さないと買えないなあというのは皆さんも同じだろう。

とは言いながら、こんな面白い製品はそうあるものではない。使ってみたい…でも高い…と悶々としながら過ごしているうちにダイソンは2010年6月に追加モデルを発表した。今度はフロアタイプとタワータイプだ。でも、発売予定は9月1日となっており、夏も終盤の頃。前回に比べるとだいぶ季節に合った時期の発売だ。でも、サイズがビッグになった分価格もビッグになり5万4000円。しかし、テーブルタイプはちょっとうちでは使いづらいなあと思っていたのでこれは実用的でかなり良さそうだ。

2010年6月に発表された「エアマルチプライアー AM02 タワーファン」(左、中央)と「エアマルチプライアー AM03 フロアーファン」(右)。サイズも大きくなり、床に置いて使用するモデルが登場した

どちらにしても9月発売だと今年は買わないだろうなあと思っていたが、今年の夏は暑かった。皆さんもよくご存知のとおり、記録的な猛暑がいつまでも続いた。部屋の大きさに比べてパワーが足りないうちのエアコンでは、いくら動かしても部屋の温度が下がらない。なんとか、エアコン+扇風機で凌いでいたのだが、やってくれましたうちのワンちゃん達。3匹でタオルを取り合っているうちに長年愛用していた扇風機にぶつかって倒してくれました。

扇風機って頭が重いから倒れやすいんだよね。ドカン、ガシャン、と音がして前面のガードが吹き飛び、さらにスタンドのロック装置が割れて高さ調節ができなくなってしまった。動かなくはないけど、テーブルタイプみたいな使い方しかできず、しかも前面ガードは首を振っているうちに外れてしまう。なんてことをしてくれるんだ、お前達! 扇風機のおかげでなんとか凌いでいたのにこれじゃあ危なくて使えないじゃないか! まずいなあ、犬も魚も熱中症になっちゃうよ。

これが長年愛用していた扇風機。倒されたおかげで前面ガードはちょっと触れただけでもポトリと落ちて羽根が露出してしまうようになり、高さ調節もできなくなった。暑さで横たわるワンコ…っていうか、お前達が壊したんだよ!

ということで、量販店に扇風機を買いに行くことになったのは8月下旬。海外メーカーの安いのよりも日本製のちょっといいやつにしようかなあ、と考えつつ売り場に到着したらなんと扇風機の在庫がない。いや、2台ほど置いてあったが、どう見てもデザインがダサくて数年で壊れそうな不人気機種だ。作りも華奢で間違いなく数年で粗大ゴミになりそうで買う気にならない。

もともと季節家電としては終わりに近い時期であったことに加えてこの猛暑で売り切れてしまったのだ。サーキュレータでは代わりにならないしなあ…そんな時にふと目に入ったのが端に置かれていた妙な形の扇風機「ダイソン エアマルチプライアー」である。おお、これが噂の羽根のない扇風機か、とさっそく風に当たってみると、これがなぜかとても気持ちイイ。しかも羽根がないのにかなりの強さで空気が顔に当たる。他のお客さんも私が風に当たっていたら「ああ、これが」という感じで立ち止まって見ていた。イイな、これ。ヤバイ、欲しくなった…。

扇風機の在庫がないんだから仕方ない…注文!

いろいろと考えたけど仕方ないよね。扇風機壊れちゃったし、Amazonも見たけどちゃんとした扇風機はやはり在庫がないし。5万円を超す出費は痛いけど、羽根がないのでワンちゃんの安全対策としてもバッチリだから、お前達のためだ…と自分なりに買う理由を正当化し、ついに注文しちゃいました。羽根のない扇風機「エアマルチプライアー AM03 フロアーファン(ホワイト)」。さすがに今回は思い切った買い物だなあ。

さて、製品が到着するまでにダイソンの扇風機の仕組について勉強することにした。羽根がない理由は枠から風を出しているからのようだ。枠には約1.3mmの狭い隙間(スリット)が空けられていて、扇風機の根元から吸った空気がここから放出される。しかし、ただ隙間から放出するだけでは強い風にはならない。この隙間からは想像以上に少ない風が出ているだけだが、飛行機の翼のような傾斜を通る際に円形の気流になり、背面からの空気がこれに合わさり、さらに周囲の空気を巻き込むことによって吸引時の15倍の風量になるということだ。なるほど、さっぱりわからない。まあ、単純に円形の枠から空気を出しているだけではないということである。

エアマルチプライアーの根元から吸い込まれた空気は、わずか1.3mmと狭い枠のスリットから高速に放出される。その後、15度でカーブしている飛行機の翼のような枠の内側を通る際におそらくベルヌーイの定理によって圧力が低下して周囲の風を巻き込んで風量が15倍にもなるらしい。なんのことだか全然わかりませ~ん

また、エアマルチプライアーはこの仕組によって普通の扇風機とは違ってムラのない風を出すことができる。簡単に言えば普通の扇風機は「バタバタバタ」という小刻みな風を出すが、エアマルチプライアーは「スー」と言った感じで途切れのない風になる。これが自然と同様の心地よい風になる秘密らしい。量販店に置いてあったエアマルチプライアーは確かに他の扇風機とは違った感覚の風を出していた。

普通の扇風機(左)は数枚の羽根によって風を送りだすため、羽根の枚数を増やしてもどうしても断続的な風になってしまう。エアマルチプライアー(右)は下から吸い込んだ空気を枠のスリットで圧縮して放出するため連続した風になる。これが心地よい風の理由だ

他にもエアマルチプライアーのメリットとして挙げられているいるものは、「羽根がないので手入れが簡単」「無段階の風量調整」「角度調整が容易」というものだ。このあたりは実際に試してみなければわからないが、私としてはとても気になるのが犬の抜け毛。目詰まりして動かなくなるんじゃないかという心配がある。これは、どこにも情報がないから、自分で実際に試してみるしかない。

では、次回は届いたエアマルチプライアーを隅から隅まで解剖してみよう。