JR山陰本線は京都駅と山口県の幡生駅を日本海沿岸経由で結ぶ。営業キロ673.8kmで、JRの在来線としては最長距離。ちなみに、新幹線を含めた日本最長距離の路線は東北新幹線で、営業キロは713.7km、実際の距離は674.9km。東北新幹線が距離を延ばすまでは、東北本線の739.2kmが日本最長だった。東北新幹線が八戸駅まで延伸し、東北本線盛岡~八戸間が第3セクター鉄道に移管されたとき、最長距離記録を失った。それまで2位だった山陰本線が在来線距離ランキングのトップとなった。

山陰本線は全区間がJR西日本の管轄だ。大都市の京都駅周辺から、鳥取県・島根県の県庁所在地を経由する。ダイヤを描いてみたら、異質の路線が並んでいるように見えた。あまりにも長いため、全区間を走行する列車はない。

山陰本線列車ダイヤ(2015年12月)

全駅、始発から終発までを本誌規定サイズ限界まで圧縮して表示した。最長距離路線だけに駅数が多く、駅名欄は潰れて見えない。そこで今回は「Oudia」で描画した後、ペイントツールで主要駅を目立たせた。山陰本線の駅は両端駅を含めて160。この数字には支線の仙崎駅が含まれている。今回は長門市~仙崎間の支線を省いたため、159駅となるところだけど、終点・幡生駅の1駅先、下関駅まで描画しているから、やっぱり160駅のダイヤである。幡生駅と下関駅は山陽本線で、山陰本線の列車は下関駅を発着している。

列車の線は赤が特急列車、緑が快速列車、青が寝台特急「サンライズ出雲」だ。「サンライズ出雲」は1日1往復だけど、年末年始に臨時列車「サンライズ出雲91・92号」が走るため、ダイヤでは4本になっている。ちなみに「サンライズ出雲91号」は東京発12月27日・12月30日・1月3日の運転で、山陰本線を走行するのは翌朝の12月28日・12月31日・1月4日。「サンライズ出雲92号」は出雲市発12月26日・12月29日・1月2日の運転となっている。同じ日に走らない。

黒は普通列車。そのうち、列車名が付いた普通列車を太線で示した。福知山~豊岡間の太線は「リレー号」という。スジを追っていくと、福知山駅を発着する特急列車に接続している。特急列車と普通列車で、乗客というバトンを受け渡しするから「リレー号」だ。『JTB時刻表』は山陰本線について、「京都~福知山」「福知山~鳥取」「鳥取~益田」「益田~下関」に分割して掲載している。だから時刻表だけ見ると、「リレー号」がどの列車をリレーしているかわからない。ダイヤを描いて区間をつなぐと、ひと目でわかる。

下のほう、長門市駅と下関駅を結ぶ太線は観光列車「みすゞ潮彩」。海岸沿いの風景を楽しむ特別仕様の車両だ。眺望の良い場所で停車するサービスもある。スジの傾きを見て、所要時間が長い区間で停車しているようだ。運行はおもに土休日。ただし、平日もほぼ同じ時刻で普通列車が設定されている。列車名の由来は仙崎出身の詩人、金子みすゞ。東日本大震災の後、大量に放送されたACジャパン(公共広告機構)のテレビCMにも採用された詩『こだまでしょうか』でも知られている。

山陰本線の列車ダイヤは「多段構成」になっている。いくつかの拠点駅があり、その駅周辺の運行密度が高く、拠点駅間の運行密度が低い。長大路線の典型だ。これに対して大都市近郊路線の場合、起点駅から終点駅まで、少しずつ運行本数が減っていく。今回までのべ72路線のダイヤを眺めてきたので、列車ダイヤを描く前からなんとなく予想できた。

山陰本線京都~鳥取間を拡大

最も運行密度の濃い区間は京都~園部間。京都駅への通勤圏で、複線区間になっている。綾部~福知山間も複線区間。ここは舞鶴線の列車が乗り入れている。

園部駅から先は特急列車が目立つ。京都~福知山間の特急「はしだて」(福知山駅から京都丹後鉄道線へ乗入れ)、京都~城崎温泉間の特急「きのさき」、福知山~城崎温泉間は新大阪駅発着の特急「こうのとり」、和田山駅から香住駅・浜坂駅、さらに鳥取駅まで走る特急は大阪駅発着の「はまかぜ」だ。城崎温泉の観光価値の高さを示している。

いまの季節はなんといってもカニだ。上り列車に乗ると、温泉旅館でカニ三昧を楽しんだ人々が、手土産のカニ入り発泡スチロール箱を抱えて乗ってくる。もちろん駅弁はカニ飯系。車内はカニ市場のような香りで満たされる。海産物が苦手な筆者は涙目で堪えた。もう二度とこの時期には乗りたくない。……あ、いや、カニ好きにはおすすめだ。臨時特急「かにカニはまかぜ」も走るカニ。

山陰本線鳥取~益田間を拡大

次に特急列車が目立つ区間は鳥取~益田間。特急「スーパーまつかぜ」と、益田駅からさらに山口線に乗り入れ、新山口駅に至る特急「スーパーおき」が走る。中でも米子~出雲市間が高密度だ。岡山駅と出雲市駅を結ぶ特急「やくも」が15往復。前述の寝台特急「サンライズ出雲」も加わる。これらの列車は伯備線経由で、実際には米子駅の少し上、伯耆大山駅から山陰本線を走る。ただし伯耆大山駅で停車しないため、時刻表で時刻が明記されず、ダイヤにも描画できない。

これだけ特急列車が走ると、当然ながら単線ではさばききれない。複線区間があって、伯耆大山~安来間、東松江~松江間、玉造温泉~来待間の3区間だ。

鳥取~倉吉間も特急列車が多め。智頭急行線・因美線経由の特急「スーパーはくと」が乗り入れるからだ。「スーパーおき」「やくも」「スーパーはくと」、そして播但線経由の「はまかぜ」は、陰陽連絡特急列車として山陽新幹線に接続する。山陰本線は全区間通しで走る特急列車はなく、区間ごとに陰陽連絡特急が乗り入れる形になっている。

これら「特急街道」から外れた区間は閑散としている。城崎温泉~鳥取間は特急列車や快速列車があるけれど、普通列車は1~2時間に1本。益田~長門市間は4時間も普通列車の空白時間帯がある。貨物列車も走らないから、廃止されそうな三江線並みの寂しさだ。山陰本線の一部だから生き残っているともいえそうだ。長門市~下関間も少ないけれど、下関駅付近では日中の運行本数も確保されている。

山陰本線は盛り上がる区間と寂しい区間が同居する。ただし、寂しい区間も車窓は良い。いや、寂しい区間だからこそ自然の風景を楽しめそう。「みすゞ潮彩」がその好例だし、なんといっても2017年春から「TWILIGHT EXPRESS 瑞風」が走る。

ところで、山陰本線といえば、1984年まで日本最長普通列車だった「824列車」が知られている。門司発福知山行だった。それ以前には山陰本線を全線走破する普通列車もあった。最後まで残った全区間列車は、京都駅と下関駅を結ぶ「829列車」「826列車」。時刻表1968年10月号によると、「829列車」は京都駅22時3分発、下関駅には翌日の18時42分着。京都駅から出雲市駅まで寝台車を連結していた。「826列車」は下関駅8時58分発、京都駅には翌朝の5時24分着。出雲市駅から寝台車を連結していた。

「TWILIGHT EXPRESS 瑞風」が走り始めると、山陰本線の全区間を走る列車は、1972年3月に運行終了した「829列車」「826列車」以来、じつに45年ぶりとなる。どちらの列車のダイヤも描いてみたい。いつか読者の方々にもご覧いただきたい。