JR西日本が三江線を廃止する意向と報じられた。三江線は島根県の江津駅と広島県の三次駅を結ぶ108.1kmの長大なローカル線だ。単線で普通列車のみ。全線の所要時間は約3時間半。列車の本数が少なくて、下り8本・上り9本。全線を通しで乗ろうとすると、上り・下りとも3便ずつしかない。列車ダイヤ描画ソフト「OuDia」に時刻表を入力してみた。

三江線のダイヤ(2015年10月)

圧縮しても、それぞれの列車がはっきりわかる閑散ぶり。単線だから単純往復する列車ばかり、というわけでもなくて、需要に合わせて区間列車を設定している。ちなみに、三江線沿線の高校は、石見川本駅付近に島根県立島根中央高校、三次駅付近に広島県立三次高校がある。朝の通勤通学に使える列車はどの駅も上下1本だ。江津発の次の列車は6時間半後、三次発の次の列車は4時間後。通学生の皆さんは、朝5時台・6時台の列車に乗らないといけない。他に選択肢がないなんて気の毒だ。

下り列車を見ると、江津駅6時0分発の列車が7時45分に浜原駅に着く。この先に直通するけれど、すでに通学時間帯としては遅い。そこで浜原駅6時1分発の列車が設定されている。上りも同様で、三次駅5時46分発の列車は浜原駅に7時45分に着く。この先は通学には遅いとみて、浜原駅6時27分発の列車がある。浜原駅を始発とする列車は、前日の21時までに浜原駅に到着し、ここで滞泊して朝を迎えるのだろう。

次の運行時間帯は午後から夜にかけて。これは帰宅列車で、早い時間から遅い時間にかけて3本の選択肢がある。帰宅部の生徒用、部活ありの生徒用だろう。江津発・三次発ともに終列車が19時台である。アルバイトをする時間はない。

全線を直通する列車は、下りが江津駅6時0分発・15時17分発の2本。江津駅16時38分発の列車は浜原駅止まりに見えるけれど、実際は浜原駅18時51分発の列車となる。停車時間が長いから、別の列車として扱っているらしい。上りも同様で、三次駅5時46分発が江津行。三次駅9時57分発は石見川本駅止まりだけど、約1時間半後、同駅13時43分発となって江津駅に行く。同じく江津駅16時56分発の列車は、浜原駅で30分停車して、列車番号を変えて江津駅に行く。

さて、こんなに閑散とした三江線だけど、以前はもっと乗客も多かったという。では、開業時から3年後、1978年10月号の時刻表からダイヤを作ってみよう。1978年といえば昭和53年、「ゴオサントオ」ダイヤ改正の時刻表だ。全国で特急列車が増え、逆に貨物列車とローカル列車は削減された。国鉄の施策の転機となった時刻表だけど、まだまだ地方の列車はたくさん走っていた。

三江線のダイヤ(1978年10月)。比較のため長谷駅を記入しているけれど、当時はなかった

現在と比べると、江津~浜原間の列車が多い。通学列車も朝練用と1時限目用を選べる。現在のダイヤではわかりにくかったけど、三江線は江津~浜原間が江津の生活圏、口羽~三次が三次の生活圏だとわかった。浜原~口羽間は閑散としている。当時は貨物列車もあった。三江線は、それなりに移動手段としての役割を果たしていたようだ。三次~浜原間は、当時も現在もほとんど変わっていない。

三江線が1978年当時の輸送力を発揮できたら、全線廃止ではなく、三次~浜原間の部分廃止で済むかもしれない。しかし列車の本数の低下が、利用者数の減少を物語っている。乗客が少ないから列車が減ったか、列車が少ないから乗客が減ったか。それを見極めるために、2012年10月から同年12月まで、バスによる増便実験が行われた。参考までに、そのバスも含めたダイヤも紹介しよう。

三江線のダイヤ(2012年10月)

赤い線が増便バスだ。ほぼ倍増といえるほどたくさん走らせたけれど、実際には1便あたり平均で約3.7人、最も乗客が多かった便が期間の平均で約9.1人。もちろん乗客ゼロの便もあった。バスにしても赤字になりそうだ。また、実際はこのダイヤ通りに列車を増発できない。バス同士は道路ですれ違えるけれど、鉄道はすれ違い設備が必要になる。そして、それだけの投資ができる結果にはならなかった。

三江線の車窓、江の川の景色はきれいだし、地上20m、階段だけの高架駅・宇都井駅など、鉄道ファンの名物も多い路線だ。しかし、残念な未来しかなさそうだ。