10月5日、Googleのロゴマークが時刻表になっていた。Googleのロゴマークは祝日や記念日などにアレンジ版が作られ、「Doodle」と呼ばれている。この日は「日本初の時刻表発行から121周年」を記念したデザインだったそうだ。

「Doodleアーカイブ」より「日本初の時刻表発行121周年

時刻表には日本の昔話にちなんだ駅名・列車名が使われ、列車の色分けで「GOOGLE」の文字が浮かび上がる。列車名に採用された「うさぎ」と「かめ」の逸話も盛り込むなど、しかけもいろいろ。列車番号を左から右へ追っていくと円周率になっている。この時刻表は鉄道ファンにとどまらず、大いに話題となった。

検索ページの時刻表の画像は小さく、細かい文字を読みにくい。でも、歴代ロゴマークを紹介する「Doodleアーカイブ」に文字を読めるサイズの画像があった。こんな時刻表を見せられたら、列車ダイヤファンとしてはウズウズするわけで……。早速、列車ダイヤ描画ソフト「OuDia」にデータを入力してみた。「OuDia」は列車種別ごとに表示色を設定できるから、ロゴの色に合わせてみた。

"Doodle時刻表"を「Oudia」に入力してみた

時刻を掲載した区間は、「足柄山」~「竜宮城」~「月の都」間だ。ただし、"Doodle時刻表"では「GOOGLE」の文字を表現するため、区間外の始発駅・終着駅も記載している。これがないと「GOOGLE」がきれいに見えないので、「OuDia」では路線に含めて記入した。始発駅は「みやこ」駅だけ、終着駅は「隠れ里」駅と「月の海」駅がある。

特急「こぶとり」「ころりん」を見ると、掲載された区間の時刻は同じで、終着駅だけ違う。つまり、掲載区間では「こぶとり」「ころりん」は併結されていて、どこかで行先を分割しているようだ。なかなか芸が細かい。

「月の海」「月の都」は駅名が似ている。たぶん列車は「イーハトーブ」駅から銀河鉄道になって、月へ昇っていくのだろう。だから「上り」の時刻表というわけだ。「月の海」は「月の都」に近いに違いない。そこで、掲載区間の路線図も作ってみた。

「本線」の路線図

ここまでの理解を踏まえて、"Doodle時刻表"のダイヤを描いてみよう。始発駅・終着駅を含めたので、意外にも長距離路線のダイヤになった。列車の色は時刻表の色分けをそのまま生かした。追い越しがわかりにくいので、特急列車は太線にしている。

「本線」列車ダイヤ(2015年10月)

"Doodle時刻表"と今回作成したダイヤとでは、駅名の掲載順が逆になっている。時刻表は「上り」だから、起点を上にするとこうなるわけだ。上り列車の情報しかないから、色とりどりの列車たちが「月の都」へ向かって上っている。「隠れ里」~「月の都」間がかなり長い。時刻表の「月の都」駅は到着時刻の表記だけなので、到着時刻と発車時刻を同じにしてみた。

駅間が省略されているけれど、少なくとも4つほど追い越し可能な駅がありそうだ。線の傾きから判断すると、各駅停車に比べて特急列車はなかなかの俊足である。ただし、18時台に「イーハトーブ」駅を発車する特急「おんがえし」2本が遅い。なんと各駅停車・区間快速・快速に追い越されてしまう。これはちょっと考えにくい。きっと「おんがえし」は迂回する別の路線を経由すると思われる。あるいは、実際には「月の都」駅で長時間停車し、発車時刻がもっと遅いのかもしれない。

「本線」の掲載区間を見ると、各駅停車・特急列車ともにほぼ等間隔だ。JRに例えれば、地方の幹線といえる規模だ。時間帯ごとの列車の密度の変化がないから、通勤ラッシュなどという夢のない現象はないらしい。掲載区間内の追い越しは2回。「イーハトーブ」駅または「八郎潟」駅で行われている。14時30分頃、列車番号338の各駅停車が停車している間に特急「こぶとり90号」「ころりん10号」が通過する。次は16時30分頃、列車番号842の各駅停車が停車している間に特急「ここほれ12号」が通過する。

通過待避の時間がほとんどなく、かなりぎりぎりのダイヤ設定に見える。ただ、ほとんどの途中駅は発車時刻しか掲載されていない。すべての駅で「竜宮城」駅と同じく2分程度の停車時間があるとしたら納得できる。あるいは複々線区間だったりして。この列車本数で複々線はもったいないけど、Googleは儲かっているらしいからなあ(笑)。「竜宮城」駅でも追い越しがあるように見えるけれど、じつは「鬼ヶ島」発の区間列車だ。特急列車から乗り継ぐ利用者のために、1日2本設定されている。

「うさぎとかめ」のエピソードに痛恨のミスが

夕方から区間快速「かめ」と快速「うさぎ」が発車する。ここでニヤリとした人も多かったはず。「うさぎとかめ」の昔話では、うさぎが足の遅いかめに油断している間に追い越されてしまう。それを列車で再現しているのだな……と。

時刻掲載ミスでエピソードが台無し!?

しかし、ここで"Doodle時刻表"は痛恨のミス。列車ダイヤが乱れているのだ。なんと、「うさぎ14号」が時間をさかのぼって走っている。時刻表を確認すると、「鬼ヶ島」駅の発車時刻が19時58分、「竜宮城」駅の到着時刻が19時3分。いくらおとぎ話でも、過去に向かって走れない。「鬼ヶ島」駅の発車時刻は18時58分が正しいと思われる。

「うさぎとかめ」の再現は、この時刻表企画の重要ポイントのはず。これは残念。ちなみに、本物の時刻表を出版しているJTBパブリッシングの乗り鉄向けアプリ「レールブック」の公式Twitterアカウントが、"Doodle時刻表"の『JTB時刻表』風デザイン版を発表していて、こちらはこっそり修正していた。大人だ。でも駅名がひとつ違い、列車も1本足りない。やっぱり残念……。両社とも、後日、本物の時刻表そっくりな黄色いページを作って訂正すべし。なんちゃって。

さて、時刻を修正した上で、改めて「うさぎとかめ」のダイヤを見てみよう。わかりやすくするために、「うさぎ14号」を太線にしてみた。

「うさぎ14号」と「かめ12号」に注目

先行する区間快速「かめ12号」は、「丹後国」~「大江山」間で「うさぎ14号」に追い越される。その後、「うさぎ14号」は再び「かめ12号」に追い越されてしまう。これで昔話を再現できたけど、うさぎが油断して昼寝している間にかめに追い越されるお話なので、せっかくだからこれも再現したい。

最初の追い越しで「かめ12号」の停車時間を少し増やし、次の追い越しで「うさぎ14号」を長時間停車させてみる。「月の都」駅は到着時刻のみの記載だから、発車時刻は調整してもかまわないだろう。後発の「うさぎ16号」は「月の都」~「隠れ里」間を2時間19分で走るから、この所要時間をもとに「うさぎ14号」の「月の都」駅発車を20時26分に設定した。

正しい(?)「うさぎとかめ」のダイヤ

「うさぎ14号」が「月の都」駅で昼寝している間に、「かめ12号」は懸命に走り続ける。「うさぎ14号」がそれに気づいて後から追いかけても追いつけない。こうして、「うさぎとかめ」を再現したダイヤができあがった。蛇足だけど、最終列車の「うさぎ18号」は夜行列車で、「隠れ里」駅には6時54分に着く。「みやこ」駅は21時0分の発車だから、約10時間の旅である。乗ってみたい。

"Doodle時刻表"は良い企画だ。鉄道や時刻表への関心も高まった。架空の時刻表作りは面白い。願わくは、列車ダイヤを使って検証してくれたらよかった。列車ダイヤの重要性を再認識した。今回は図らずもミスを指摘する形になってしまい、申し訳なかった。