横浜市営地下鉄ブルーラインで7月18日から快速運転が始まった。全区間走破の所要時間を8分ほど短縮した。

通勤電車、しかも地下鉄で快速運転を行う場合、運転間隔の長い時間帯で、途中の駅を通過するだけ。途中駅の追い越しは無し、という場合もある。だからダイヤのおもしろさという意味ではあんまり期待できない。

横浜市営地下鉄ブルーラインも、当初から快速運転を想定していなかっただろうし、8分程度の短縮なら追い越しはないな……と思った。しかし、「MyLine時刻表8月号」を見て、快速と普通の時刻を比較したら、ちゃんと追い越していた。列車ダイヤ描画ソフト「OuDia」に入力してダイヤを描いてみたら、快速通過駅のフォローアップのため、普通列車の運転パターンも変更していた。よく考えられたダイヤだ。

まずは快速運転を開始する前のダイヤを見てみよう。

横浜市営地下鉄ブルーライン(平日、7月のダイヤ改正前)

これが改正前のダイヤだ。普通列車だけの通勤路線。朝と夕方のラッシュ時間帯が濃くなっている。上大岡駅と踊場駅の間が濃くなっていて、このあたりが最も混んでいるのかと思ったけれど、これは踊場駅の折り返し列車によって時間が詰まっているからだろう。後述の拡大図を見ると、路線の中央部、新羽~上永谷間までが偏らずに増発されている。

この混雑区間には、東海道新幹線と接続する新横浜駅、横浜市の中心である横浜駅、根岸線と接続する関内駅、京急電鉄本線の快特が停まる上大岡駅がある。つまり、横浜付近を東西に走る路線を南北に結ぶ役割を持っている。

この路線がダイヤ改正後はこうなった。

横浜市営地下鉄ブルーライン(平日、7月のダイヤ改正後)

日中に描かれた緑の線が快速だ。そして下のほう、上永谷駅に注目。南行も北行も、上永谷駅で快速が普通を追い越している。上永谷駅は車庫があり、入出庫する電車のために、初めからホーム2面、線路4本の構造だった。この設備を追い越しに使えた。

快速運転を実施すると、列車の運行間隔が乱れてしまい、運行本数は減ってしまう。だからラッシュ時間帯を避けて、日中のみ快速運転を実施している。セオリー通りの快速運転といえる。

快速運転といっても日中だけ。通勤利用者には時間短縮効果がない。それでも快速運転は横浜市にとって大きな意味がある。横浜市北部の人々は、あざみ野駅から東急田園都市線で東京都心へ向かう人々が多い。かつて横浜市北部のほとんどが緑区だった頃には、「東京都緑区」とまでいわれていた。上大岡駅付近の人々も京急電鉄で、湘南台駅付近の人々も小田急電鉄で都心へ向かう。

せっかく港北ニュータウンを大規模開発し、横浜市営地下鉄ブルーラインを開通させても、住む人々の意識が東京に向いている。通勤だけではなく、買い物も遊びも。だから「横浜市の南部と北部から横浜駅や新横浜駅へのスピードアップ」は、横浜市をまとめるためにも必要な施策だった。

さて、この快速列車のダイヤを詳しく見てみよう。

快速運転時間帯を拡大(ダイヤ改正後)

快速運転時間帯を拡大(ダイヤ改正前)

ダイヤの傾きの違いも大きく、快速はかなりスピードを上げて走る。先行する南行の普通は逃げ切れず、上永谷駅で追い越される。北行の場合、普通列車は上永谷駅でさっさと快速に道を譲る。そこから快速はスピードを上げて、新羽駅で先行する普通に追いつく。この普通は新羽駅止まり。そこから先は快速に進路を渡して引き返す。

ブルーラインの快速は、文字通り普通列車を抑えて快走しているのだ。これは気持ちいいダイヤだ。景色の見える区間は少ないけれど、乗ってみたくなる。

ところで、快速が走ったら快速通過駅の利用者は不便ではないか? 改正前のダイヤと比べると、あざみ野~新羽間と踊場~湘南台間で、1時間4本のうち1本が快速になってしまった。でも大丈夫。この区間では快速も各駅に停まる。ただし、これらの区間から途中駅の快速通過駅へ行く場合は不便だ。快速通過駅の人々も本数が減って困るはず。

その対策もちゃんと実施されている。快速運転が行われる時間帯の北行、南行を別々に表示してみよう。

快速運転時間帯の南行

快速運転時間帯の北行

快速列車の前後に、新羽~湘南台間、あざみ野~踊場間の普通が設定されている。改正前は、この時間帯のすべての普通があざみ野~湘南台間の全区間を走っていた。改正後は、快速の前後に区間列車を仕込んで、快速通過駅の利用者の便宜を図っている。こうして、ほとんどの駅で改正前の1時間あたり4本を維持しているのだ。

しかも、普通列車の一部は桜木町駅と上永谷駅で停車時間を長く取り、運行間隔をそろえている。なんて細かい気配りだろう。素晴らしい。秀逸な鉄道車両には「ブルーリボン賞」「ローレル賞」があるけれど、秀逸な列車ダイヤにも、なにか賞をあげたい。