京急電鉄の本線は列車ダイヤファンにとって楽しい路線だ。普通、エアポート急行、特急、快特、エアポート快特、「京急ウィング号」と列車種別が多い上に、線路は複線だけ。優等列車の追い越しも多く、ライバルのJR東海道線・京浜東北線を横目に時速120kmで駆け抜ける。まさにデッドヒートといえそうな展開だ。

列車種別ごとに色分けして全体像を見ると、時間帯と区間によってカラフルな色分けになった。細部には大量の列車をさばく工夫がいっぱいだ。今回は各駅に停車する普通を黒、エアポート急行を青、特急を赤、快特を緑、「京急ウイング号」をピンク色に設定した。緑の快特のうち、京急蒲田駅を通過する「エアポート快特」は太線にした。まずは全区間・全時間帯を圧縮して俯瞰しよう。

京急本線の平日ダイヤ(2015年)

時間帯や区間ごとにきれいに塗り分けられた。まるでオランダの抽象画家ピエト・モンドリアンが描いたようだ。京急電鉄のダイヤ職人は美大出身か……と思ってしまう。もちろんこれは美しさを狙ったものではない。鉄道職員が使うダイヤ表は薄い色の1色刷だ。以前、鉄道イベントで入手した使用済み時刻表を見たら、赤鉛筆と青鉛筆でびっしりと書き込みがあった。いかにもプロフェッショナルの道具という印象だった。

さて、遊びで作ったこのダイヤ(笑)は、色分けの結果、時間・区間によって最も多い列車種別が現れた。列車ダイヤ描画ソフト「OuDia」はダイヤ画面で下り列車を描画後に上り列車を描画するというしくみのようで、右上がりの線が強調されている。

朝夕のラッシュ時間帯は赤い特急が多く、深夜も特急が分布している。快特よりも停車駅の多い特急のほうが利用者が多いようだ。京急の特急は並行するJR京浜東北線の駅に合わせているようだ。日中の京急蒲田~金沢八景間は青が目立つ。エアポート急行である。普通や快特も走っているけれど、エアポート急行の存在感が大きい。京急本線の急行はすべてエアポート急行だ。起点の泉岳寺駅から横浜駅までを通しで走っているように見えるけれど、実際は京急蒲田駅で分断されている。「エアポート」というだけに、下り・上りともに空港線に乗り入れ、羽田空港と京急本線沿線を結んでいる。

緑色の快特は、京急本線を通して走る列車と、泉岳寺~羽田空港間を結ぶ列車の2系統。羽田空港方面はさらに2種類あって、品川~羽田空港国際線ターミナル間をノンストップで結ぶ「エアポート快特」も設定されている。日中の10~15時台、泉岳寺駅から京急蒲田駅まで緑のタイルのように見える。京急電鉄の羽田空港輸送の意気込みが表れている。この区間のライバルは東京モノレールだ。

快特の緑のタイルは、同じ時間帯の金沢八景~堀ノ内間にもある。この快特は本線の品川駅・泉岳寺駅からの直通列車で、ほとんどの列車は堀ノ内駅から久里浜線に入る。ライバルは東海道線や横須賀線だ。金沢八景駅まではエアポート急行ががんばっているので目立たなかったけれど、エアポート急行が設定されていないこの区間で顔を出した格好だ。

堀之内~浦賀間は普通だけ。この普通は区間列車ではなく、ほとんどの列車が品川駅を発着している。通勤時間帯など、優等列車の待避回数が多い列車ほど所要時間が長い。長距離幹線の末端区間で区間列車を往復させる路線は多いけれど、京急はほぼ全区間直通の普通を走らせている。

優等列車は混雑しているから、のんびり普通で行く人も多いのだろうか? いや、たぶん、なるべく折り返さない方針といえそうだ。過密ダイヤで区間運転を設定した場合、折り返しでポイントを渡るときに上下線の線路をふさぎ、優等列車の運行に支障が出る。その顕著な例が品川駅だ。通勤時間帯の普通は3番線の折り返しで、下り列車が上り線をふさぐ。これがダイヤ設定の苦心の産物となっている。品川駅は再開発で、地上駅に変更して2面4線とする構想がある。実現すればダイヤが大きく変化しそうだ。

泉岳寺~京急川崎間付近を拡大(8~10時)

京急本線は列車種別ごとに異なるライバルが存在する。快特は東海道線・横須賀線、特急は京浜東北線、エアポート快特は東京モノレールがライバルといえるだろう。都内の駅間距離は短いから、普通のライバルは路線バスといえそうだ。ライバルに勝つためには、それぞれの列車を最適な時間帯に増発する必要がある。ただし京急本線は複線しかない。東海道線と京浜東北線は複々線の関係だし、品川~横浜間は横須賀線もある。3複線に対して京急本線は複線のみ。京急はがんばっているなと思う。

品川~京急川崎間を拡大表示すると、京急電鉄の工夫が見える。鮫洲駅・平和島駅・京急蒲田駅では普通が必ず待避して優等列車に譲る。それも1本だけではなく2~3本に抜かれる。これでは普通の乗客は不満だろうと思うけれど、そこをエアポート急行が補っている。普通の乗客は途中の駅で急行に乗り継げば、特急や快特に準じた時間で目的地に到着できる。

エアポート急行は特急・快特の合間を縫って、ほとんどの列車が追い越されずに走っている。ただし、京急蒲田駅から空港線に入ってしまうから、品川方面と横浜方面を直通しない。ダイヤを見ると、エアポート急行を京急蒲田駅から空港線へ逃がしたおかげで、本線の快特はスムーズに直通できているともいえる。普通の乗客はいったん急行に乗って京急蒲田駅に行けば、そこから特急や快特に乗り継げる。乗換えは面倒だけど、同じホームの移動だから苦にはならない。

ただし、京急蒲田駅での普通と優等列車のホームは離れているから、乗継ぎを急ぐ人はホームを走っている。直後の後続列車を羽田空港行とし、次の優等列車を本線直通として、乗継ぎ時間を確保する工夫もあるけれど、すべての時間帯を同様にはできないらしい。

泉岳寺~京急川崎間付近を拡大(夕刻下り列車)

最後に、京急電鉄の有料列車「京急ウィング号」を見てみよう。1992年から運行を開始した定員制の列車だ。座席指定はなく、200円の着席整理券が必要だ。列車の愛称は発車時刻順に「京急ウィング1号」「京急ウィング2号」……となる。上り列車がないため、下り列車にも偶数の数字が付いて通し番号になっている。この列車は品川駅を発車すると、上大岡駅までノンストップという思い切りの良さ。途中の主要駅、京急蒲田駅・京急川崎駅・横浜駅には停まらない。

上大岡駅は三浦半島の入口にあたり、京急電鉄にとっては駅ビルにデパートを収容する拠点駅でもある。横浜市営地下鉄にも接続する。三浦半島で京急が開発した住宅地に向けたサービスともいえる。朝ラッシュ時は列車の密度が高く、上り列車の設定はできないけれど、比較的余裕のある夕方以降だから高速運転ができたともいえる。ただし、京急蒲田駅・京急川崎駅・横浜駅という乗降客の多い駅を通過するため、品川駅では「京急ウィング号」の直後の快特や特急が大混雑しているという。ダイヤに余裕がありそうだから、もう少し増発しても良さそうではある。

都心から郊外へ向かう大手私鉄の多くが複々線化している中で、京急は複線のみ。このダイヤに大健闘の様子がうかがえる。ただし、JR東日本がライバルとはいえ、どちらも乗客が多く、競争や奪い合いというよりも飽和状態。どちらかが事故などでストップすると、乗客が偏ってダイヤが混乱する。ダイヤ好きとしては現在のほうがおもしろいけれど。京急本線の品川~京急蒲田間は複々線化すべきだろう。