東京の鉄道路線網はクモの巣のようだ。都心から郊外へ放射状に伸びる「タテ糸型」と、それらの路線を結ぶ「ヨコ糸型」かある。

南武線は「ヨコ糸型」の路線だ。川崎駅と立川駅を南北方向に結びつつ、川崎駅で東海道線・京浜東北線、ちょっと離れて京急線とも連絡し、武蔵小杉駅で横須賀線と東急東横線、武蔵溝ノ口駅で東急田園都市線、登戸駅で小田急小田原線、稲田堤駅で京王相模原線、分倍河原駅で京王線と交差する。立川駅で中央本線・青梅線などと連絡する。

もっとも、これは東京を中心とした見方だ。川崎都市圏として見れば、南武線もまた、川崎駅から郊外方向へ向かう「タテ糸型」路線といえる。列車ダイヤにもその傾向は現れている。まずは平日の全体像を眺めてみよう。

南武線(本線)の平日ダイヤ(2015年2月)。黒が各駅停車、緑が快速列車

南武線(本線)では、通勤時間帯に上辺にあたる川崎駅付近が色濃くなり、川崎駅発着を重視したダイヤだとわかる。川崎駅と登戸駅の間が最も濃く、次に登戸駅と稲城長沼駅の間が濃い。稲城長沼駅と立川駅の間は薄めだ。つまり、郊外路線として見れば、南武線沿線通勤客の傾向は川崎駅に偏っている。都心に向かうとしても、川崎駅から東海道本線に乗り換える人が多そうだ。東京方面だけでなく、逆方向の横浜方面の利用者も多いかもしれない。

一方、立川駅から中央線に乗り換え、新宿駅へ向かう人はさほど多くない様子。途中駅から小田急線・京王線に乗り換えれば新宿駅へ行けるので、新宿方面の利用者は分散しているといえそうだ。立川駅から新宿方面とは逆方向にある大きな都市といえば八王子。大学が多いけれど、オフィス街というよりはベッドタウンの中心という印象で、横浜ほどの通勤需要はないかもしれない。

南武線の快速列車は日中のみ。10時から16時までの運行となっている。ラッシュ時間帯に快速列車がない理由は、当連載でも何度か紹介した通り、大量の通勤客を輸送するために列車の速度をそろえたほうが運行本数を増やせるから。快速と各駅停車を混在させると、列車の運行間隔が不ぞろいになり、運行本数を増やせない。小田急電鉄や東武鉄道はダイヤをかなり工夫して急行を走らせているし、そのために複々線化も実施している。

「ヨコ糸型」路線としての配慮も!?

次に、南武線の通勤時間帯のダイヤを拡大してみよう。ここに「ヨコ糸型」路線の特徴が隠れている。

朝通勤時間帯を拡大

全区間を走る列車の他に、川崎駅と登戸駅を結ぶ列車が多い。利用者の多い区間に合わせているからだ。そしてよく見ると、下りに中間駅のみを結ぶ区間列車(武蔵中原発登戸行・武蔵中原発稲城長沼行など)がある。これは武蔵中原駅に車両基地がある関係で、車庫から出庫し、折り返して川崎駅行になる列車だ。稲城長沼駅は2面4線で折返し設備がある。

電車の出庫だけなら回送運転でもいいはず。旅客扱いすれば列車を移動する時間がかかる。それでも中間駅同士の区間運転で旅客列車とする理由は、武蔵溝ノ口駅や登戸駅で乗り換える人が多いからだろう。川崎駅ほどではないけれど、「タテ糸型」路線に乗り換える人の便宜を図っていると思われる。「ヨコ糸型」路線らしい配慮だ。

日中の快速列車運行時間帯を拡大

日中のダイヤはきれいにパターン化されている。下り快速列車は武蔵溝ノ口駅で各駅停車を追い越し、上り快速列車は武蔵中原駅で各駅停車を追い越す。現在の快速列車は稲城長沼~立川間は各駅に停車するけれど、2015年3月14日のダイヤ改正から、この区間も快速運転を実施する予定だ。途中停車駅は府中本町駅・分倍河原駅のみ。運行本数が少ない区間だし、駅の設備の様子からみて、この区間での普通列車の追い越しはないものと思われる。

貨物列車の時刻を反映させてみた

南武線は旅客列車だけではなく、貨物列車も設定されている。おもな貨車は石油用とコンテナ用だ。石油用は根岸線根岸駅や鶴見線安善駅の石油基地から中央線方面や拝島駅行。南武線支線の浜川崎駅を経由して、尻手駅から南武線を走るルートと、貨物専用の武蔵野南線を経由して府中本町駅から南武線に入り立川駅へ向かう便がある。上り列車は空になった石油タンク車を回送する貨物列車があり、「返空便」などと呼ばれているようだ。

こうした貨物列車の時刻は旅客列車用の時刻表には掲載されていない。しかし、鉄道貨物協会発行の「JR貨物時刻表」には掲載されている。そこで、「JR貨物時刻表」に掲載されている時刻を南武線のダイヤに記入してみた。貨物列車が合流する尻手駅の時刻が不明なため、支線の旅客列車の運行時間を参考に、尻手駅の通過時刻を設定した。

貨物列車を反映させてみた。紫色の線だ

ラッシュ時間帯や混雑区間を避けて貨物ダイヤが設定されている。じつは、「JR貨物時刻表」に記載された発車時刻で線を引くと、旅客列車を走行中に追い越すようなスピードになっていた。南武線で旅客列車が貨物列車に追い越される場面はなかったはずだから、これはかなり補正して、旅客列車の間を走ったり、長時間停車したりして旅客列車の出発を待つように変更している。もしかしたら各駅停車が貨物列車に追い越される場面があるかもしれない。

旅客列車の間に貨物列車が走っている

貨物列車の場合、必ずしもこのダイヤですべての列車が走るわけではない。積荷がなければ運休するからだ。それでも南武線の貨物列車を眺めたい人には参考になるだろう。