JR山手線は東京都心を周回する通勤路線だ。すべての列車が各駅停車。折返しもなく、次から次へと列車がやってくる。そんな路線のダイヤは趣味的に見て面白くなさそうだと思っていたけれど、実際に描いてみると興味深かった。ダイヤの線の密度から、都会の人々の生活が透けて見えそうだ。

「Oudia」の駅時刻修正ダイヤログ。「時刻の繰上げ・繰下げ」をチェック

全国版の時刻表では、山手線の時刻表は省略されている。始発列車と終電の時間帯の列車が数本掲載され、その間は「3~6分間隔」と注記されるだけだ。運行頻度が高いから、乗り継ぐにしてもこれで十分というわけだ。しかし、こんな表記の山手線だって、列車の時刻はすべてきちんと決められている。「今日はお客さんが多いから列車を追加しよう」「今日はお客さんが少ないから間引こう」などと、気まぐれに列車を投入しているわけではない。

交通新聞社の「MyLINE東京時刻表」では、山手線の全列車の時刻が掲載されている。今回はこの時刻表を「Oudia」に入力した。膨大な数だけど運行パターンは同じだから、1つの列車を入力したら、あとはコピー&ペーストで列車を増やせばいい。その後、始発駅の時刻を修正するとき、「時刻の繰上げ・繰下げ」にチェックを入れると、次の駅以降すべての駅時刻が自動的に修正される。時刻表の時刻と比較して微調整すれば、列車1本の入力完了となる。

それでは平日のダイヤ全体を作ってみよう。山手線の正式な起点は品川駅で、渋谷駅・新宿駅・池袋駅を経由して終点は田端駅。品川駅と東京駅の間は東海道本線、東京駅と田端駅の間は東北本線だが、山手線は専用の線路で乗り入れている。これは鉄道ファンの基礎知識だ。実際には環状運転だから、時刻表も環状運転する全駅を掲載している。ただし、駅の始まりは起点の品川駅ではなく大崎駅となっている。その理由は、大崎駅が山手線の車庫へ出入りする駅になっているからだ。

山手線の平日ダイヤ。始発から終電まで

あまりにも列車本数が多いので、1日のダイヤ全体を1つの画像で表示すると、列車の線を判別しにくい。それでも色の濃さで、朝夕のラッシュ時間帯がはっきり現れている。朝のラッシュ時間帯は7時台から9時頃までの約2時間がピーク。一方、夕方のラッシュ時間帯は16時から21時までの5時間にわたる。出勤時刻や登校時刻は誰もが同じ時間帯だけど、退勤時刻や下校時刻は人それぞれによって事情が違う。すぐに帰宅する人もいれば残業を抱えた人もいる。同僚と飲んで帰る人もいるし、放課後の部活動に参加する学生もいるだろう。山手線のダイヤは、東京の中心で活動する人の事情に合わせている。

入力してみると、全列車の所要時間が同じではないこともわかった。列車によって、池袋駅・上野駅・秋葉原駅で停車時間の長い列車がある。これはラッシュ時間帯とその他の時間帯の境目に多かった。運行間隔を変化させるため、乗降客の多そうな駅で時間を調整しているらしい。ダイヤを表示すると、通勤時間帯と日中時間帯の境目で平行ダイヤが乱れている。一部の列車の停車時間を長くして、運行間隔を変化させていた。

下り列車のみ表示。9時から10時の間で線が乱れる

早朝には池袋駅と田町駅からの始発列車がある。ラッシュ時間帯に列車を大量に投入するために、大崎駅からだけではなく、池袋駅・田町駅からも列車を投入している。池袋駅は付近に車両基地があり、山手線と埼京線の電車が待機する。

田町駅はちょっと不思議な始発駅だ。ここには山手線の車庫はない。この駅で折り返す列車もない。もし田町駅で折り返す列車があるなら、田町行と表示された列車があるはずだけど、実際には設定されていない。では、田町駅始発列車の車両はどこから来るのだろう?

早朝に池袋駅と田町駅から発車する列車がある

答えは品川駅だ。ただし、品川駅のホームではなく、山手線ホームと京急線の高架線に挟まれた留置線からやってくる。あらかじめ留置線に列車を待機させておき、いったん田町駅方面へ回送列車として出発する。回送列車は田町駅を通り過ぎて、田町駅の北側、山手線内回り・外回りの線路の間にある引上げ線に入り、折り返して外回りの田町駅始発列車となる。

田町駅始発の列車は回送したり折り返したりと手間がかかっている。しかしこの方法で、山手線は大崎駅、池袋駅、田町駅から同時に3本の列車を投入できる。大崎駅だけでは増発が間に合わない。それほど山手線の朝のラッシュアワーは混雑する。田町駅始発列車は、通勤ラッシュ対策の機動力を高める役割を持っている。山手線の通勤ラッシュ大増発の様子は、列車ダイヤの色の濃い部分が物語っている。

ところで、山手線は品川~田町間に新駅を設置する予定だ。また、線路も東海道本線に寄り添うように東側へ移設される。さらに、品川駅では京急線ホームを地上に降ろし、線路を1本増やす構想がある。これらを実現するために、品川駅の留置線の数や、留置線から田町方面へ向かう線路にも変化があるかもしれない。もしかしたら、品川~田町間の新駅開業のタイミングで、山手線の田町駅始発列車に変化が起きるかもしれない。