すごい臨時列車を見つけてしまった。JR四国の土讃線開通90周年記念列車「龍馬おもてなし号」だ。「沿線探検スロー列車」と題し、高知駅から須崎駅まで、運行距離42.1kmを6時間かけて走る。特急「しまんと1号」なら40分しかかからない。そんなスロー列車なのに、使用車両はキハ185系。イベント列車だから乗り心地の良い特急形車両を使うのだろう。しかし、ダイヤを作ってみたらもうひとつの理由がわかった。

青字が「龍馬おもてなし号」。高知駅を8時56分に発車する

列車ダイヤ描画ソフト「Oudia」に、土讃線高知~須崎間の時刻表を入力する。「龍馬おもてなし号」は市販の時刻表には掲載されていない。JR四国のプレスリリースによると、運転日は11月15日と12月14日、2015年の1月18日と2月22日の4日間だけ。運行時刻はパンフレットに記載されていたから、これを入力する。

スロー列車といってもゆっくり走るわけではなく、駅での停車時間が長い。伊野駅で1時間30分、佐川駅で2時間40分も停まる。この停車時間で、乗客は「ご当地ゆるキャラと町歩き」や地元特産品の買い物を楽しむという趣向だ。ちなみに土讃線の中でも高知~須崎間が早めに開業した理由は、須崎港で鉄道建設用の資材を陸揚げしたからだ。

列車ダイヤ表示にしてみた

「龍馬おもてなし号」は下り列車のみ設定されている。列車ダイヤを表示してみた。青い太線が「龍馬おもてなし号」だ。線の傾きは他の列車とほとんど同じ。停車時間が長すぎて、運行区間別に見ると別の列車のようだ。

単線区間なのにすれ違っている!?

さて、ここで不思議な現象が起きている。高知~伊野間に注目。対向列車3本とすれ違っている。特急列車は入明駅ですれ違っているようだけど、普通列車は駅間ですれ違う。でも、これは無理。なぜなら土讃線は単線だから。列車名が表示されているとわかりにくいから、非表示にしてみよう。

列車名を非表示にしてみた

緑の円がすれ違うところだ。これはおかしい。実際には列車が駅で待機して、対向列車に譲っているはずだ。しかしJR時刻表11月号を見たところ、上り列車の停車時刻変更の表記がなかった。どうやら「龍馬おもてなし号」は、パンフレットに記載されない駅ですれ違いだけのための停車「運転停車」をしている。なんだか西村京太郎氏のミステリー小説みたいな展開になってきたぞ……。

運転停車を予測してみよう

疑惑の区間である高知駅から伊野駅までを拡大表示した。これで不自然なすれ違いがはっきりわかった。上り特急「あしずり2号」とのすれ違いも入明駅ではなさそうだ。

高知駅から伊野駅までを拡大表示

ところで、「龍馬おもてなし号」のスジ(線)と他の下り列車のスジを比較すると、「龍馬おもてなし号」の傾きが大きい。つまり速度が遅い。よく見ると普通列車よりも遅いぞ。しかし、この列車はキハ185系特急形車両を使うから、最高速度は高いはず。ということは、入明駅にもっと早く到着して、特急列車のすれ違いを待つはずだ。普通列車とのすれ違いも、旭駅・高知商業前駅・朝倉駅・桂川駅のどこかになる。他の列車を見ると、旭駅と朝倉駅ですれ違いが行われている。

普通列車の高知駅から入明駅までの所要時間は3分。「龍馬おもてなし号」は高知駅を8時56分に発車するから、入明駅には8時59分頃に着き、ここで特急「あしずり2号」とすれ違って、9時2分に発車する。入明駅から旭駅までは普通列車で5分だから、旭駅到着は9時7分になる。ここで上り普通列車とすれ違う。旭駅から伊野駅までは、普通列車の時刻を参考にすると遅すぎて、次の普通列車とすれ違えない。そこで高知駅を8時20分に発車する特急「しまんと1号」の時刻を参考にすると、朝倉駅ですれ違えるようだ。

「龍馬おもてなし号」の時刻を修正してみた。しかし…

こうして単線のすれ違いが無事完了。すっきりしたダイヤができあがった……と思いきや、まだミステリーが残っている。修正したダイヤでは入明駅ですれ違うことにしたけれど、じつは入明駅も、隣の円行寺口駅も、高架駅で線路が1本しかない。実際にはすれ違いができない。だけどパンフレットには、高知駅の発車は8時56分と明記されているし、特急「あしずり2号」は旭駅8時58分発、高知駅9時2分着となっている。時刻表には時刻変更の記載がない。2つの列車はどこですれ違うのだろうか?

考えられる方法は2つ。ひとつは「龍馬おもてなし号」の運転日だけ、特急「あしずり2号」は旭駅を2分遅れの9時0分発とし、「龍馬おもてなし号」とすれ違いを行う。高知駅には2~3分程度遅れて到着する。

もうひとつは、「龍馬おもてなし号」が8時56分に発車(ドアを閉め)、ホームを離れた後、実際には高知駅構内に留まって、特急「あしずり2号」の到着を待つ。「龍馬おもてなし号」は臨時列車だし、団体旅行客を扱うから、発車時刻を早めに案内しているかもしれない。その後、「龍馬おもてなし号」はスピードを上げて次のすれ違い駅へ急ぐ。

どちらにしても、「龍馬おもてなし号」は定期列車のダイヤを縫うように走る。かなりスピードを上げて走らないと他の列車とすれ違えない。「龍馬おもてなし号」が特急形車両を使う理由は車内設備だけではなく、スピードを出す必要があったからといえそうだ。