東海道新幹線「こだま」は各駅に停まるから時間がかかる。しかし、「ぷらっとこだま」を使うと、かなりお得な料金で乗れるからありがたい。そこで、東京発「こだま」の時刻を眺めてみたら、同じ駅間でも所要時間が短い列車と長い列車があった。車両の性能に大きな違いはないはず。これはどういうことだろう? 今回も列車ダイヤで謎を解こう。

東海道新幹線の時刻表を入力してみた

早速、東海道新幹線の時刻表を表示させてみよう。注目したい列車は、「こだま631号」「こだま633号」だ。新横浜駅と小田原駅の発車時刻を比較してみる。

赤い丸の部分を比較すると、「こだま631号」は新横浜駅6時52分発、小田原駅7時8分発で、その差は16分だ。ところが、「こだま633号」は新横浜駅7時15分発、小田原駅7時36分発で、その差は21分である。ここだけを見ると、「こだま633号」は「こだま631号」より5分遅いと思ってしまう。

JTB時刻表によると、「こだま631号」の車両はN700系、「こだま633号」の車両は700系だ。性能はちょっと違うけれど、同じ駅間で走行時間が5分も違うとは考えにくい。

「こだま631号」はN700系

「こだま633号」は700系

この時刻表の表示にはトリックがある。小田原駅の時刻は「発車時刻」だけで、「到着時刻」は表示されていない。「こだま631号」も「こだま633号」もスピードはほぼ同じ。だから所要時間も同じはず。じつは、「こだま633号」は小田原駅で5分間停車している。だから発車時刻だけを比較すると、所要時間に5分も差があるように見えるのだ。この謎は、列車ダイヤを描画させると理解できる。

列車の速度は同じ、停車時間が長かった

「こだま631号」は小田原駅に停車するとすぐに発車する。「こだま633号」は、実際には7時31分に到着し、「のぞみ203号」と「ひかり461号」に追い越された後、7時36分に発車する。これで、「速いこだま」「遅いこだま」の謎が解けた。

ところで、ここでもうひとつの謎が生まれる。時刻表には小田原駅の発車時刻しか掲載されていない。だから、当連載で使用している列車ダイヤ描画ツール「OuDia(おおゆうだいや)」に対しても、発車時刻しか入力しなかった。しかし、ダイヤを表示させると、列車を表す線は発車時刻ではなく到着時刻を示している。

これが、「OuDiaが作るダイヤ」と「折れ線グラフ」の違いだ。エクセルで折れ線グラフを作ると、表に入力した数値に合わせて線が描かれる。だからエクセルでも列車ダイヤを描ける。しかし、「OuDia」には列車の所要時間を計算し、到着時刻を推測する機能がある。他の列車と比べて発車時刻が遅い列車がある場合、「停車時間が長い」と判断し、到着時刻を推定してダイヤを描いてくれるのだ。

「OuDia」は最短所要時間の列車(1)をもとに、到着時刻を自動的に設定(2)(3)する

すごい。人工知能か? と思うかもしれないけれど、しくみは簡単だ。「OuDia」は、複数の列車の時刻が入力されたときに、駅間の列車の時刻を比較して、最も短い所要時間を基準とする。たとえばA駅とB駅について、発車時刻の差が2分・3分・4分の列車があったとすると、基準となる最短の所要時間は2分となる。

このとき、A駅の発車時刻を「10:00」、B駅の発車時刻を「10:04」と入力すると、「OuDia」は所要時間の2分を基準として、B駅の到着時刻を「10:02」と判断する。ダイヤ上でこの列車は「2分間停車」するように描かれるというわけだ。到着時刻がわかれば、列車の追い越しや単線の駅で列車がすれ違う様子もダイヤに現れる。当連載第7回で紹介した相模鉄道のダイヤも、この機能のおかげで追い越し駅が明らかになった。

ちなみに、「基準となる所要時間」は、駅を表す線の間隔にも反映される。駅の間隔は距離ではなく、最短所要時間によって自動的に決まる。だから「OuDia」では、駅間距離の数値を入力する必要はない。この考え方は、方眼紙で列車ダイヤを描画するときにも応用できる。最短所要時間のみで走り、追い越しもなく、単線の待ち合わせもない列車は、ダイヤ上でまっすぐな線になる。

ただし、この考え方は、「すべての列車の性能が同じ」という前提になっている。路線によっては、電車だけでなくディーゼルカーや貨物列車も走る。実際にスピードが遅い列車もあるだろう。その場合は個別に各駅の到着時刻を指定する。これで列車ダイヤの線の傾きが変わり、スピードの違いがわかりやすくなる。

「最短所要時間を基準とする」機能によって、「OuDia」は列車ダイヤ描画ツールの定番となった。この「OuDia」は、Windows対応のフリーウェアだ。作者「take-okm」氏のサイトから無料でダウンロードできる。そして「OuDia」は16ビットPC時代のフリーウェア「WINDIA」がヒントになっている。「WINDIA」の作者「ふゆき」氏にも、この場を借りてお礼申し上げる次第である。