相模鉄道は横浜駅を起点に、神奈川県を貫き海老名駅に至る本線と、途中の二俣川駅から分岐するいずみ野線を運行している。東京都に乗り入れないため、関東の大手私鉄の中では知名度は低めだが、横浜近郊の通勤路線として、10両編成の電車も走らせる頼もしい存在だ。最近は「帰ってきたウルトラヒーロー号」で話題だし、将来は西谷駅から分岐して、JR東日本と東急電鉄に乗り入れる予定も。開通すれば、都心へ乗換えなしで行ける路線になる。

横浜周辺の路線の概略図。赤が相模鉄道、黄緑がJR東日本、青が小田急電鉄、ピンクは東急電鉄

相模鉄道は、「潔いダイヤ」でも知られている。本線の急行は起点から二俣川駅まで8つの駅を通過。所要時間は11分で、各駅停車の18分に対して7分短縮される。じつに気持ちいい走りっぷりだ。この急行は二俣川駅から先は各駅に停まる。これが相模鉄道の潔さ。本線の利用者はほぼすべて横浜に向かう。ならば「二俣川を境にお客様が利用する列車を分けてしまおう」という考えだ。

その相模鉄道で、4月27日から「特急」が新設された。いままでに急行が各駅に停車していた二俣川~海老名間において、特急の停車駅は大和駅のみ。これまた大胆である。いままで急行がなかったいずみ野線にも特急が導入されてスピードアップ。また、従来はいずみ野線用だった快速が本線にも登場している。

ダイヤ改正前の列車種別。わかりやすい

ダイヤ改正後の列車種別。特急のスピードへのこだわりがわかる

さっそうと走る「急行」よりも、さらに速い「特急」は、どんな走りを見せてくれるだろうか? 相模鉄道本線の新旧ダイヤを比較してみよう。

ところで、相模鉄道はユニークな時刻表を公開している。列車が走る順番が変わると、掲載順序も入れ換えるスタイルだ。この時刻表なら、列車の追い越しがわかりやすい。今回は列車ダイヤを作らなくても……、いや、やっぱり作ってみよう。

相模鉄道が公開している時刻表

シンプルでわかりやすい旧ダイヤ

まずは旧ダイヤを見よう。通勤時間帯の終わりから日中時間帯にかけて再現した。黒い線が各駅停車、青い線が急行だ。通勤時間帯は急行と各駅停車のみ。むしろ急行ばかり。もっとも、急行は二俣川~海老名間の各駅に停まる。横浜~二俣川間は各駅停車と急行の2種類。急行は星川駅で各駅停車を追い越す。各駅停車は二俣川止まりに見えるけれど、これは本線のダイヤだから。実際はいずみ野線に乗り入れている。

相模鉄道本線の旧ダイヤ

下り列車だけ表示した

横浜駅から乗車する場合、海老名方面に急ぐ人は急行に乗る。湘南台方面に急ぐ人は急行に乗り、二俣川で各駅停車に乗り換える。「乗換えが面倒だ。ゆっくり座っていきたい」という場合は各駅停車に乗ればいい。わかりやすいダイヤだ。

日中は緑色の線の快速が走り始める。これはいずみ野線方面へ急ぐ人のための電車だ。快速は星川駅で各駅停車を追い越すけれど、停車して乗換えを可能にしている。これで星川~二俣川間の人々も、買い物などで横浜に行く時間を短縮できる。

快速が日中だけ設定されている理由は、ダイヤにゆとりがあるから。通勤ラッシュ時間帯は、なるべく列車種別を少なくする。そのほうが運行間隔を短くできて、運行本数を増やせるのだ。これは当連載第2回でも紹介した通りである。

特急は日中だけ、二俣川駅以遠の追い越しはなし

次に現行のダイヤを、同じ時間帯で作ったみた。なんと、特急列車は通勤ラッシュ後の運行だった。通勤時間帯は旧ダイヤとほぼ同じで、各駅停車と急行のみ。その理由は前述の通り、列車の種別を少なくしたほうが、運行本数を増やせるからだ。忙しい通勤時間帯にこそ特急がほしいところだけど、運行本数を減らすわけにはいかない。

相模鉄道本線の新ダイヤ

下り列車だけ表示した

日中には特急の他に快速も走る。今回のダイヤ改正から、本線(海老名方面)の快速も走り始めた。色分けするとカラフルだから、ダイヤが複雑になったように見える。しかし実際は、快速も二俣川~海老名間で各駅に停まる。つまり、日中の横浜~二俣川間は「各駅停車」「快速」「特急」の3種類、二俣川~海老名間は実質的に「各駅停車」「特急」の2種類となった。ダイヤはシンプルなままだ。

本線では、特急を運行する代わりに急行が消えたが、それを補う形で快速が本線に乗り入れている。大和駅止まりの各駅停車が海老名まで延長されているため、大和~海老名間は実質的に増発だ。「急行が特急に変わった」ではなく、「急行は快速になり、新たに特急が増発列車として運行開始した」が正解のようだ。

この特急は二俣川駅で各駅停車を追い越す。二俣川駅に停まるから、各駅停車との乗換えは可能だ。さらに特急・急行・快速とも、二俣川駅で本線・いずみ野線の各駅停車と乗り換えられる。非常に工夫されたダイヤである。横浜から遠い地域の人々にとっても、相模鉄道はますます使いやすくなったといえそうだ。