「おめでた満タン2008」とマイコミジャーナルが共催する「年賀状デザインコンテスト」の締め切りまで後1週間。同コンテストの特別審査員であり、多摩美術大学で非常勤講師として教壇にも立つグラフィックデザイナー海津ヨシノリ氏にコンテスト応募作品に対する期待やプロのクリエイターとして活躍していくための鉄則を聞いた。

グラフィックデザイナー/イラストレーター・海津ヨシノリ氏。執筆活動、セミナー講師など幅広く活躍中

五感で感じる重要性

――まず、大学講師も務める海津さんには、現在のデザインやイラスト関係の仕事を志す学生はどう映っていますか?

「私が学生だった時代より、学生がまじめだという印象を受けますね。私たちが学生のときはもっと外で暴れていたりしていたので(笑)。それに、道具がすごく進化しているので、想像したイメージが昔と比べて形にしやすくなっている。昔は、イメージに技術が伴わなかった部分もあったから、そういう意味では表現が昔より簡単になりました。その影響からか、学生たちにあまり貪欲さがないと感じるときもありますね。緊張感が足りないというか」

――たしかに便利で簡単な道具が安く手に入る時代になっていますね

「簡単に表現できるツールが誰でも使えるんです。運動会のビデオとか子供の写真アルバムとかを、お父さんやお母さんが真剣に作っていたりするでしょ。そういう作品のほうが、かえっておもしろい作品になっていたりする場合があるんです。技術の進歩によって、デザインをする人と一般の人との垣根がますますなくなってきているともいえます」

――パソコンでデッサンや油絵も表現できる今、イラストにリアリティはあるんでしょうか?

「私が大学で担当しているのが『コンピュータ画像処理論』という講義。でも、そこで私自身が、けっこうパソコンを否定しているので学生はショックを受けているかもしれません(笑)。手を使って描けない人がパソコンを使っちゃうと上手な嘘がつけないんですよ。紙に向かって、手を汚して五感を使って絵を描いてこないと、画材の特徴を理解できないというのが私の持論です」

――手で描けないと、技術に振り回されてしまうわけですね

「ハリウッドのCGを見てもらうとわかるんですが、ゼロからコンピュータで描いてはいないんですよね。膨大な量のスケッチを使用したり、制作したミニチュアを元にモデリングしていったりと、ベースにあるのはアナログ。それは今後変わっていくことはないと思います。打ち合わせでも、ノートパソコンがいくら安くて高性能になったからといって、打ち合わせ資料の裏にラフをボールペンで描いちゃうほうが一般的ですよね」

人との出会いが「仕事」になる

―年賀状デザインコンテストもプロへの登竜門のひとつですが、プロとしての道を切り拓くにはどんな方法がありますか?

「デザイナー志望の学生ならば就職活動のときには企業を回ったり、あるいは学校から勤め先を紹介してもらえるチャンスがあります。でも、その機会がなかったり、あるいは単発の仕事が多いイラストレータを目指している人は"出会"いを模索するしかないでしょう。作品をもって売り込みにいくという方法もありますし、自分の作品を知っていた人が出版関係の人に紹介してくれて、それでつながる縁もあります。仕事に関わりそうな人たちが集まるような場に出向くのも大切ですね。プロとしてやっていくには、それなりの努力は必要だと思います」

――もし、全くそういう手蔓がない場合はどうしたらいいでしょうか?

「ダメもとでもいいからホームページで作品をアップするのは有効だと思う。どこで誰が見ているかわからないから、"こんな絵を描いている人間がココにいるぞ"とアピールしていくことが大切です。あとは、夜間に通えるスクールに行くとか、カルチャースクールにいくとか。運は自分が歩いて見つけるしかありません。肝心なのは、最初のトライがだめでも、次のところに行ってみるべきということです。皆が同じものを求めているわけではないので、3軒目、4軒目で自分の作品をいいという人が現れるかもしれません」

――やはりクリエイターとして稼いでいくには苦労もあったりするのでしょうか?

「そうですね。いちばん困るのは、なぜか仕事の注文は、集中してくるんですよ。しかも、それを断れない。断ると次がないですからね(笑)。そういう意味ではベタな話ですが、健康管理というのも重要になってきます。業界自体が夜型なので、自分で気をつけないといけません。収入を得るという面では、今回のコンテストの受賞者がライセンス販売権を得ることができる「DEXWEB」のようにインターネットを利用した登録販売は、コンスタントな収入を得られる貴重なチャンスです。「DEXWEB」のようなページビューが高いサイトで自分の作品を販売できれば、多くの人の目にとまるというメリットもあります。ですから、仕事をもらうという受身な姿勢ではなく、コネクションができたら、自分から積極的にアイディアや作品を出していくようにしていかないといけません」

描き続ければみえてくる

――プロになるためには、何がいちばん大切だと思いますか?

「やはり、個性。どんな方向性でも器用に描けちゃう人もいるけれど、それは少数派で、ほとんどの人は不器用なもの。その中で、一度見たら忘れられないタッチを築き上げていけるかどうかが分かれ目じゃないでしょうか。つまり、誰が見ても、この人の絵だ! と思ってもらえることですね」

プロクリエイターによる2008年度年賀状デザイン例。それぞれの個性がうまい具合に表現されている

――その"個性"を磨くためにはどうしたらいいでしょうか?

「普段からできるだけ数をこなしていくことが大切です。失敗しても投げ出してもいいから、とにかく描く。たとえば、毎日1点と決めて、自分で強制的にブログにアップしたり、同じ絵を描き続けるのもいいでしょう。年賀状デザインならば、来年の干支であるねずみの絵を延々と描き続けていくとか……。その行程の中で、ふっきれた線が描けたり、自分なりの形がかたまってきたりするんです」

――最後に、年賀状デザインコンテスト応募者にアドバイスをお願いします。

「プロの方、あるいはプロを目指されている方は、販売を前提としたオーソドックスな作品で応募することは大切です。しかし私は、"何コレ?"と思わせてくれるような突飛な作品にも期待したいと思います。現在は、嗜好も多様化しているし、いかにも年賀状的なものではなく、悪ふざけの一歩手前というか、"年賀状らしくないもの"もありなんじゃないでしょうか。来年は、干支が"ねずみ"で、書きやすいキャラクターですよね。かわいくも、意地悪くも描ける。あまり細かいことを考えないのであれば、どかんとワンポイントで勝負するとか……。キレイに収めるのではなく、一部分を上手に用いて、ちょっと見だとわからないけど、よーく見ると何かが混ざっている作品も面白いのではないでしょうか。1人3作品まで応募できるので、そういった遊びゴコロがあるものもお待ちしています」