近年、ビジネスシーンで「デザイン思考」というフレーズが多く見られる。これは、デザイナーの思考法を取り入れ、ブレインストーミングによるニーズの洗い出し、プロトタイプの開発、ユーザーを交えたフィールドワークといった3つのフェーズを柔軟に行き来して、新規性のあるモノ・コトを作っていく手法を指す。

世界的なデザインエージェンシー・IDEOがフレームワーク化したこともあって、日本企業の中にも取り入れているところは増えてきている。しかしながら、大きなうねりになっているとは言えず、「自社では/自分の業界では耳にしない」という人もいるかと思われる。

本連載は今回が最終回。クリエイティブエージェンシー・ロフトワークの棚橋弘季氏と渡部晋也氏に、日本という土壌における「デザイン思考」的取り組みの浸透について伺った。

――少し前までは佐藤可士和さんがデザインした何か、などのような、有名デザイナーの作ったプロダクトやロゴマークが話題になっていたことが多かったですし、実際弊社媒体でも取材をしていました。こうした社会状況自体が、デザイン思考の浸透とは相反するものになってしまうのでしょうか?

棚橋: 実はIDEOなどでもそうだと思うのですが、デザイン思考で作られたプロダクトって、ビジュアルという観点でデザインがすごいかというと、そんなこともないと感じます。一方、機能や利用価値の革新性、新しい体験の創出などの面ではやはり卓越している。

月並みですが、デザインという言葉を「意匠」「スタイリング」と捉えるか、「企画」「設計」として捉えるかということではないでしょうか。あまりに月並みなので、そこを議論の俎上にあげて、日本でのデザインは云々ということ自体、もういいのではないかと思います。

――デザイン思考に端を発したこうした流れの中で、企業内のデザイナーの職域は今後変わっていきそうでしょうか?

棚橋: うーん…分からないというのが率直な答えですね。そして、僕たちがそうした意味での変革を目指していないというのもあります。デザイナーの仕事の中に「デザイン思考」的なものが取り入れられてスタイリングだけでないところに広がるかどうかというのは、僕たちの取り組みの目的でもないし、意識もしません。

逆になぜ、そこにこだわっていないというと、僕らはそもそも普段いっしょに仕事をしているデザイナーさんたちの「カタチにする力」を信じているからです。

だって、それこそが本来、デザイン思考として求められていたことであって、それを僕らはいっしょにパートナーとしてプロジェクトを進めているデザイナーさんたちといつもやっている。アイデアソンでもそこにデザイナーがいるのといないのでは発想のクオリティは大きく違うし、何よりクリエイティブ・エージェンシーであるロフトワークのプロジェクトはデザイナーなしでは何一つまともなクオリティが出せません。

その意味では、デザイナーといっしょに考え、いっしょに作っていくということがロフトワークのデザイン思考なんでしょうね。そういうデザイナーさんとのコラボレーションが仕事を進めるスタンダードな方法になっているからこそ、「デザイン思考」という言葉を使わなくてもよいくらいにデザイン思考がしっかり根付いているのかもしれません。