近年、ビジネスシーンで「デザイン思考」というフレーズが多く見られる。これは、デザイナーの思考法を取り入れ、ブレインストーミングによるニーズの洗い出し、プロトタイプの開発、ユーザーを交えたフィールドワークといった3つのフェーズを柔軟に行き来して、新規性のあるモノ・コトを作っていく手法を指す。

世界的なデザインエージェンシー・IDEOがフレームワーク化したこともあって、日本企業の中にも取り入れているところは増えてきている。しかしながら、大きなうねりになっているとは言えず、「自社では/自分の業界では耳にしない」という人もいるかと思われる。

そこで今回は、多くの企業とタッグを組んで新規事業の創出に取りくんでいるクリエイティブエージェンシー・ロフトワークの棚橋弘季氏と渡部晋也氏に、「デザイン思考」というキーワードや同社の取り組みについて語ってもらった。

ロフトワークの棚橋弘季氏(右)と渡部晋也氏(左)

――近年、デザイン思考というキーワードがビジネスシーンで使われるようになっています。御社でもアイデアソンなどを多く開催されていますが、社内外でデザイン思考について取り組まれることはあるのでしょうか?

棚橋: 現在、ロフトワークで、デザイン思考という言葉を掲げて活動することはほぼないです。

――確かに、直近開催のイベント名に「デザイン思考」という単語が含まれるものは見受けられないですね。いわばバズワードである「デザイン思考」をあえて掲げない理由は?

棚橋: バズワードであるからあげないというのではありません。そもそも「デザイン思考をやる」という意識が本当になくなっているんです。だから、ロフトワークの中でも、今回のプロジェクトではデザイン思考を取り入れよう、といった会話がされることもないです。

僕は2009年に「ひらめきを計画的に生み出す デザイン思考の仕事術」という書籍を出したのですが、その当時、デザイン思考はまだ特別なものだと感じたので書名にも使いました。ですが、今はもうデザイン思考はもっと日常的なもの、普通のことになっていると思っています。例えるなら、料理に砂糖を入れるようなものです。

必要だから入れる。でも、この料理、砂糖入ってるよねとは言わない。甘みこそ残ってはいるけれど、形もないし、砂糖を入れた料理という意識もない。そんなイメージで、ごくごく普通のことになってしまったんだと思います。

――御社では言葉にするまでもなく、空気のようになっているということですね。他社とのコラボレーションやクライアントワークではどうでしょう?

棚橋: クライアントワークでも同じです。まあ、意識してないのだから口にすることはないというのが大きいですが、もうひとつの理由としては、「デザイン思考」という言葉を使うと「それって何ですか?」と、僕らが本当にやりたいことよりも、その言葉にフォーカスされてしまうということがあるからです。

「デザイン思考」という言葉がフォーカスされると、それを説明する必要が出てくる。でも、僕らはその説明に時間をかけたくはないなと思うんですね。僕らはデザイン思考がやりたいわけではなく、発想が必要な場面でその一部のメソッドを使っているだけなので、できるだけすっと発想のワークに入ってもらいたいんです。そういうことも含めて今は「デザイン思考」という言葉を使うことはありません。