今はもう新卒で入社した会社にそのまま一生勤め続けるような時代ではありません。会社員をしていて、転職や独立のことを一切考えたことがないという人はもはや少数派でしょう。現時点では積極的に会社を離れることを考えていないという人でも、ある日状況が変化して会社を辞める日が訪れる可能性は十分あります。そういう意味で、「会社の辞め方」は誰もが知っておくべき知識です。

ところが、会社の辞め方は入社時のガイダンスでは教えてはくれませんし、社内のマニュアルを漁ってもあまり詳しくは書いていないのが普通です。法律的には原則として2週間前に退職の意志を労働者が事業主に対して表明すれば辞められることになっていますが、このことだけ知っていても具体的にどうやって手続きを進めればよいかはわかりません。僕も以前勤めている会社を辞める際に、どういう手順で事を進めればよいのかわからず少し困った経験があります。

会社の辞め方には、暗黙の型が存在します。基本的にはこの型に沿って事を進めていけば円満退職できます。円満退職することは、気持ちよく前に進むためにはとても重要です。「どうせ辞める会社なんだからどんな辞め方だって構わない」と思う人もいるかもしれませんが、退職時に話がこじれてムダなエネルギーを使っても損をするだけです。辞めると決めたら円満退職を第一目標に「大人な対応」で粛々と事を進めたいものです。

一番最初に退職の意思を伝える相手は直属の上司

退職の意思が固まったら、最初にそれを伝える相手は自分の直属の上司です。間違っても、いきなり退職届を人事部に提出してはいけません。上司に伝える前に他の同僚などに伝えるのもNGです。外国の場合はわかりませんが、少なくとも日本では直属の上司を最初の窓口にするのが、退職の際の暗黙の型になっています。

切り出し方ですが、「お話したいことがあるので、お時間をいただけませんか」といったような言い方をするのがよいでしょう。「相談したいこと」ではなく「お話したいこと」という言い方をおすすめするのは、これが「退職の相談」ではなく「退職の意思表示」だからです。細かいですが、この違いには意味があります。

上司に告げる時点で既に退職の意思は固まっているはずですから、本来であれば相談することなどないはずです(もちろん、引き継ぎの方法などは相談が必要なので、そういう意味では相談という表現も正しいのですが)。ここを「退職の相談」にしてしまうと、「辞めようかどうか悩んでいる」という意味に捉えられ、話が慰留の方向に流れがちになり辞めづらくなります。細かいですが、これは「相談」ではなく「意思表示」なんだということを自分でも確認する意味を含めて「お話したいこと」という言い方をすることを僕はおすすめします。

退職の理由をホンネで答える必要はない

上司に退職の意思表示をすると、ほぼ間違いなく退職の理由を聞かれます。人それぞれいろいろな退職理由があると思いますが、それを正直に答える必要はありません。

特に、ここで会社の不満を口にするのはやめるべきです。言っても意味がないだけでなく、退職日までの人間関係をギクシャクさせるリスクすらあります。どうせ辞めれば不満とはサヨナラできるのですから、「一身上の都合です」とか「個人的な事情です」という形で具体的な退職理由には言及しないようにするとよいでしょう。

転職先や、退職後に何をするかは言わなくても大丈夫

また、「辞めた後どうするつもりか?」といった質問も高確率でされると思いますが、これも正直に答える必要はありません。「私個人の問題ですので、お答えしません」とキッパリ言ってしまうのもよいですし、「新しい分野で自分の可能性を試してみようと思っています」といったような前向きかつ曖昧な表現でお茶を濁すというのもよいでしょう。

転職先や退職後に何をするかについて会社に話す・話さないの決定権は自分にあります。相手がいくら知りたいと言ってきても、こちらが言いたくないのであれば言う必要はありません。特に言っても問題がなく、積極的に知らせたいと思うのであれば言ってもいいでしょうが、少しでも嫌な予感がする場合は伏せておくのが無難です。

引き継ぎはしっかりと、ただし線引きも必要

退職の意思表示をしても、それですぐに次の日から会社に来なくていい、というようにはなりません。普通は仕事の引き継ぎを行うことになります。引き継ぎはいい加減にやるべきではありません。伝えられることは漏れなく伝達し、必要なものはしっかりと文書化します。

もっとも、「会社に残っている人に一切迷惑をかけない」というレベルを目指してしまうと、やることは無限に拡大するおそれがあります。そういう意味では「線引き」も必要です。基本的に、退職の意思が受理された時点から「新しく何か仕事をする」ことを要求されたら、それは引き継ぎの範囲を超えています。断っても問題ありません。

線引きをした範囲内の引き継ぎをしっかりと行い、気持ちよく前に進みましょう。


日野瑛太郎
ブロガー、ソフトウェアエンジニア。経営者と従業員の両方を経験したことで日本の労働の矛盾に気づき、「脱社畜ブログ」を開設。現在も日本人の働き方に関する意見を発信し続けている。著書に『脱社畜の働き方』(技術評論社)、『あ、「やりがい」とかいらないんで、とりあえず残業代ください。』(東洋経済新報社)がある。

(タイトルイラスト:womi)