「努力」は重要なことだとよく言われます。成功している人が、大変な努力家であるということは少なくありません。マルコム・グラッドウェルによれば、「天才」と呼ばれる域に達するには、どんな分野でも1万時間ぐらいは練習の時間が必要なのだそうです(いわゆる「1万時間の法則」)。1万時間に達するためには、毎日3時間ずつ練習しても10年、毎日8時間を費やすことができても4年は必要ということになります。これは一朝一夕でどうにかなるようなものではありませんので、この法則が正しいとすれば、やはり継続的な「努力」は重要ということになりそうです。

もっとも、会社で仕事をする場合には、安易に努力に走ってしまうのも問題です。僕がまだ会社員をしていた頃、安易に努力に走ってしまったために、連日の残業や休日出勤を繰り返していた同僚を何人か見たことがあります。実際、努力が苦にならない人は、「社畜」になりやすい人でもあるので注意が必要です。

会社での仕事に努力は向かない

基本的に、会社での仕事に努力はあまり向きません。これが受験勉強のようなものであれば愚直な努力を続けることでそれに見合うだけの成果が上げられるかもしれませんが、仕事では必ずしも努力が成果に結びつくとは限りません。

会社での仕事には多くの「ムダ」がつきまといます。本当はやらなくてもいいような仕事を振られることは少なくありませんし、どうでもいいことばかり何時間も話し合っている会議は山ほどあります。会社は人が何人も集まって仕事をする場所なので、どうしてもコミュニケーションの分だけ仕事は複雑性を増し、ムダが大量に生まれます。そういう場所で成果を上げていくためには、努力よりも「効率」を重視する必要があるのです。問題に直面した時に、安易に努力によって切り抜けようとしてしまうのは、仕事の進め方としては間違った姿勢だと言えます。

「頑張る」ことで「あいつならやってくれる」というイヤな期待が生じる

もっとも、日本の会社では必ずしも努力よりも効率を重視した人が評価されているとは言えません。むしろ、多くの会社ではまだまだ「頑張っている」という姿勢だけで周囲からいい評価が受けられるという場合が少なくないでしょう。テキパキと仕事をすばやく片付けて定時退社をする人が「頑張っていない」と非難され、ダラダラと残業をしてからゆっくり退社した人が「いつも遅くまで残って頑張っている」と評価されてしまうような職場は、残念ながらまだまだたくさんあります。

「頑張っている」という姿勢だけで周囲から評価を受けられるとすれば、努力が苦にならない人はすぐに「頑張る」ことによって問題を解決しようとしてしまいます。深夜残業や徹夜によって仕事を片付け、時には休日をつぶして働きます。こういう働き方を続けていると、「あいつなら多少は無理なお願いをしてもやってくれる」という周囲の期待のようなものも生まれてしまいます。夜の10時ぐらいに「まだ終電まで時間あるよね?」と言われて新しく仕事を頼まれたり、金曜日の夜に「これ、月曜日までにお願いできる?」とむちゃぶりをされたりするようになります。こういったイヤな期待に応えてしまうと、ますます仕事は集中し、悪循環に陥ります。いずれ完全な社畜に転落してしまいます。

脱社畜には意図的に「怠惰」になることも必要

周囲から「あいつならやってくれる」という迷惑な期待をかけられないためにも、会社での仕事で安易に努力をしてしまうのは避けるべきです。そのためには、意図的に「怠惰」になることも必要です。

誰でも多かれ少なかれ「めんどくさいなぁ」「やりたくないなぁ」という気持ちを持っていると思いますが、この気持ちを押し殺すのではなく最大限尊重するように心がけましょう。上司から仕事を振られて「やりたくないなぁ」と感じたら、それを我慢するのではなく、「どうすればやらないで済むだろうか」を真剣に検討するべきです。このような気持ちが逆に仕事の効率を高め、時には発明につながります。

僕は元々はプログラマーをやっていたのですが、プログラミングの世界には「怠惰は美徳」という箴言のようなものがあります。プログラミングでは、本来ならばやらなくても済んだことにムダに労力をかけることはよくないこととされています。これは別に、プログラミングの世界だけに限ったことではありません。ムダな努力はいかなる場合も避けるべきです。

基本的に、努力をするのは最後の手段だと考えなければいけません。安易に努力によって解決しようとせずに、なんとかラクして済ませることはできないか、常に考えることを忘れないようにしたいものです。


日野瑛太郎
ブロガー、ソフトウェアエンジニア。経営者と従業員の両方を経験したことで日本の労働の矛盾に気づき、「脱社畜ブログ」を開設。現在も日本人の働き方に関する意見を発信し続けている。著書に『脱社畜の働き方』(技術評論社)、『あ、「やりがい」とかいらないんで、とりあえず残業代ください。』(東洋経済新報社)がある。

(タイトルイラスト:womi)

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