会社員として働く場合、「上司」はとても重要な存在です。指示が的確で、人間としても尊敬でき、困った時には相談にものってくれるような「良い上司」の下で働ける人は幸せです。しかし実際には、そんな良い人ばかりが上司になるとは限りません。

その時の気分によって言うことがコロコロ変わる気分屋上司や、労働時間でしか人の頑張りを測ろうとしない社畜上司など、いわゆる「困った上司」の下で働くことになった場合は悲惨です。仕事自体に満足していても、こういった上司との人間関係に悩んで会社に行くのが嫌になってしまうという人は、意外と多いのではないでしょうか。

今は上司に満足しているという人でも、いつ異動などによって困った上司の下で働くことになるかわかりません。そういう意味で、職場の困った上司の問題は誰にでも関係がある問題です。

友人の遭遇した「職務放棄型上司」

これは友人から聞いた話なのですが、彼の職場には「まったく仕事をしない上司」がいたそうです。

その上司は朝から晩まで私用のネットサーフィンをしつづけ、たまに会議に出てもただそこに「いるだけ」。仕事の指示もまったくせずに、何か相談をしても「よくわからない」と答えるだけで、「上司の役目をまったく果たしていない」状態だったそうです。

これはいわば上司の「職務放棄」です。上司が放棄した分の仕事は周囲にそのまま振りかかるので、彼の部署では上司を「いかに管理するべきか」にみんな手を焼いていたそうです。これではどちらが管理職なのかわかりません。

「誰でも年齢を重ねれば上司になれる」のがそもそもの間違い

日本の会社だと、このような「明らかに上司になるべきではない人」も、年齢を重ねることで簡単に上司になってしまいます。これがそもそもの間違いです。

上司の仕事は、誰でもできるようなものではありません。人に仕事を振り、相手を適切に導くためには高度なコミュニケーションスキルが必要です。これは年齢さえ重ねれば自動的に手に入るようなものではありません。正直な話、一生かかってもできない人にはできないのです。会社員の中には一定数、上司になるべきではない人が含まれています。

これは別に、「上司になるべきではない人」が劣っているという話ではありません。向き・不向きの違いです。マネージャーには向いていなくても、プレイヤーとして一流という人はたくさんいます。日本の会社の間違いは、「プレイヤーとして一流の人は、マネージャーとしても一流だろう」と勝手に思い込んでしまっているところにあります。多くの場合、困った上司はこうした「プレイヤーとしての能力とマネージャーとしての能力のミスマッチ」から生まれるのです。

「困った上司」への対処法

さて、では実際に「困った上司」の下で働くことになってしまった場合、どのようなことに気をつければいいのでしょうか。具体的に考えてみましょう。

まず、「やりとりの証拠を残す」ことを意識するとよいでしょう。「困った上司」との間では、往々にして「言った言わない」の争いが生じることがあります。明らかに上司の方が間違っていたとしても、証拠がなければ部下の立場では絶対に勝てません。仕事の依頼などは、口頭で受けるだけでなくメールでも同じものを流すなどして、「文字ベース」で証拠を残すような仕事の仕方をすると、トラブルが減ります。困った上司を「信頼」してはいけません。

また、できるだけ「上司の上司」を巻き込んで仕事をするようにするとよいでしょう。メールを送る際にはできるだけCCに上司の上司を追加するようにし、上司が暴走しないように上からも監督してもらうようにするのです。あまりにも上司の行動が目に余る(上述した「職務放棄」など)というのであれば、直接「上司の上司」に相談しに行ってしまうというのもひとつの方法です。

さらに、「周囲と協力して対処する」ことも重要です。上司が問題人物だという場合、普通は自分だけでなく同僚も同じように迷惑しているはずです。そうであれば、自分だけで悩まずに周囲と協力しましょう。1人では言いにくいことも、徒党を組むことで言いやすくなったりするものです。

忘れてはならないのは「上司もしょせんはただの人間だ」ということです。上司と部下という関係は、あくまで会社内における一時的な関係に過ぎません。別に、人間的にどちらかが偉いとか偉くないということはないのです。人間と人間の問題ですから、相性だって当然あります。上司との関係については、あまり深く考えすぎずに「割り切り」の気持ちを持つことも大切です。


日野瑛太郎
ブロガー、ソフトウェアエンジニア。経営者と従業員の両方を経験したことで日本の労働の矛盾に気づき、「脱社畜ブログ」を開設。現在も日本人の働き方に関する意見を発信し続けている。著書に『脱社畜の働き方』(技術評論社)、『あ、「やりがい」とかいらないんで、とりあえず残業代ください。』(東洋経済新報社)がある。

(タイトルイラスト:womi)

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