内定を取った学生がする定番の質問に、「入社するまでに、何かしておくべきことはありますか?」というものがあります。これには「学生のうちしっかり遊んでおけ」とか「英語だけは勉強しておいたほうがいい」など、人によってさまざまな回答があるでしょう。

僕がこの質問をされたら、「特にこれをやっておけというものはないけど、とりあえず入社までに以下の3つのことだけは少し考えておいたほうがいい」と答えます。その3つとは、(1)いつ辞めるか、(2)会社で何を盗むか、(3)会社でどんな人と付き合うか、です。

これらの事項について自分なりの考え方を持ってから入社をするのとしないのとでは、入社後の「社畜になりやすさ」に大きな差がでます。

(1)いつ辞めるか

入社する前から辞めることを考えるのはものすごく後ろ向きに見えるかもしれませんが、実際にはそんなことはありません。むしろ、「◯年後に辞める」と決めることで、その会社とのつきあいをメリハリのある有意義なものにすることができます。

例えば「3年で辞める」と決めておけば、その3年間の過ごし方を真剣に考えることができます。「3年でここまで行こう」という目標も持つことができます。逆にこのような期限がないと、なんとなくダラダラと働いて時間を浪費してしまうかもしれません。期限を切ることは重要です。

もちろん、ここで決めた年数はあくまで目安なので、実際に働きはじめてからの状況次第でいくらでも見なおして構いません。思っていたよりも居心地がいいというのであれば延長すればいいでしょうし、逆に会社が自分にあってないと思うのであればもっと早めに辞めるのもアリでしょう。

大事なことは、「定年までひとつの会社で働くのがあたりまえ」と考えないことです。新卒で入社した会社に定年までいると考えると在籍期間は大体40年ということになりますが、これは人間には予測不可能な期間です。現実的な計画を立てるためにも、もう少し短いスパンで会社と自分との関係は考える必要があります。

ちなみに、僕の場合は「とりあえず2年」と入社時に決めていました。実際にも、大体2年ぐらい働いてから辞めました。それなりにメリハリのある会社員生活になったのではないかと思っています。

(2)会社で何を盗むか

「盗む」と言っても、会社の備品を自宅に持って帰れという意味ではありません(それは犯罪です)。ここで言う「何を盗むか」は「会社で仕事を通じてどんなスキルを身に付けるか」という意味です。これは入社前にある程度の方針を決めておいたほうがいいです。

一般的に、会社にはたくさんの資金があり人員も豊富です。それゆえ、個人ではあまり経験できない仕事に携わることができます。せっかく会社で働くのなら、これを利用しない手はありません。

どんなスキルを身につけたいかは個人個人の好みもあるとは思うのですが、大事なことは「市場で求められているスキル」を身につけることです。「その会社の中でしか使われていないローカルなスキル」は、いくら身につけても自分の財産にはなりません。

ちなみに、僕の場合は「大規模ユーザーを抱えたウェブサービスの運営スキル」を盗もうと思って最初の会社に入りました。会社でしか経験できない仕事という点で、いい目標設定だったと今でも思います。

(3)会社でどんな人と付き合うか

「スキル」だけでなく「人」も会社で仕事をすることで得られる貴重な財産です。どんなタイプの人と知り合いになりたいかも、入社前に方針を決めておくとよいでしょう。

もっとも、人間関係については実際に入ってみないとわからないことも多いので、これは「なんとなく」で構いません。「◯◯の技術に詳しい社員がいるみたいなので、そういう人に話を聞いてみたい」ぐらいでも大丈夫です。

一番大事なことは、「社畜っぽい人」になるべく近寄らないようにすることです。社畜は往々にして自分の価値観を他人に押しつけようとするので、関わっているといつか自分も社畜になってしまうおそれがあります。このように、誰と付き合うかだけでなく、誰と付き合わないかもなんとなく考えておくとよいでしょう。

受け身ではなく主体的に

以上の3点について自分なりの考え方を持ち、「会社と主体的につきあう」という意志を忘れないことが大切です。「入ったらあとは会社の言うことを聞いて、なすがままに」という受け身の姿勢では、いつか「社畜」にされてしまうかもしれません。


日野瑛太郎
ブロガー、ソフトウェアエンジニア。経営者と従業員の両方を経験したことで日本の労働の矛盾に気づき、「脱社畜ブログ」を開設。現在も日本人の働き方に関する意見を発信し続けている。著書に『脱社畜の働き方』(技術評論社)、『あ、「やりがい」とかいらないんで、とりあえず残業代ください。』(東洋経済新報社)がある。

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