【連載】
仮想環境でデータ復旧が必要となった事例にはどういうものがあるのだろうか? 「やはり人為的なものが多いですね。最も多いのはスナップショットファイルを誤って削除してしまったケースでしょうか。設定画面が簡単になるほど、"チェックをうっかり付け損なった"、"押すつもりではないボタンを押してしまった"といった小さなミスが大事件につながることも多いのです」と、ワイ・イーデータの技術者である吉川氏は語る。
ここで、同社に持ち込まれた事例を2つ紹介しよう。1つは、RAIDを再構築しようとして誤ったドライブを入れ替えてしまったというものだ。ドライブを入れ間違えたことに気付き、即座にドライブを引き抜いてはみたものの、やはりある程度再構築が進んでしまっていたという。この状態で生きているデータを救出してほしいというのが依頼だった。仮想環境という複雑さはあったが、RAIDのデータ復旧に十分な経験がある同社は無事にデータを復元した。
もう1つは、仮想マシンのファイルの格納場所が記録されている「MAP情報」を削除してしまったというものだ。これも人為的なミスだが、HDDにはすべての情報が残っているが、どこに何の情報が保存されているのかがわからないという状態である。そこで、同社ではどういうつながりでデータが保存されているのかを検証しながら復旧作業を行った。こうした事例も、きちんとした環境設定情報などが残されていれば、ある程度のデータ復旧は可能だという。
「"うっかりフォーマットしてしまった"といったケースもあります。小さなミスかもしれませんが、その被害は甚大です。仮想HDDの復旧は、当社でもさすがに通常のPC用HDDとは同じ扱いにできず、別の料金体系をとっています」と、同氏は仮想環境におけるHDDの慎重な取り扱いを訴える。
同社が用意している仮想環境で使われていたHDDのデータ復旧メニューは、最終的には個別見積りとなる。なぜなら、一般的なHDDのように容量単位で受け付けられないほど、作業内容が複雑だからだ。
「まずは、復旧が可能かどうかを判定します。可能ということになったら、どの仮想マシンを優先的に復旧したいかという順位付けをしていただきます。そのうえで、"1つのOS当たりいくら"といった見積りを行います」と同氏。設定記録がまったくない場合や設定に不具合があった場合は、データ復旧不能という判定が出てしまうことも当然ある。
仮想化が企業で本格導入され出してからまだ日が浅いこともあり、データ復旧経験を持っている業者は少ないのが現状だ。なかには、引き受けてしまったものの、結局お手上げ状態になってしまう業者もいる。
「見切り発車で請け負ったとしても、手に負えなかったら正直に言ってくれる業者はよいのですが、なかにはヘンに頑張ってめちゃくちゃにしてしまう業者もいます。また、復旧方法を手探りで見つけながら作業を進めていく場合もあります。後者は最終的には復旧に漕ぎ着けることが可能かもしれませんが、時間がかかりすぎてユーザー側が引き上げてしまうことも多いようです」と、同氏は仮想環境におけるデータ復旧の現状を語る。
このように、データが復旧できずにお手上げ状態になったHDDが同社に持ち込まれることもある。しかし、他社が中途半端に作業を行ったHDDが扱いづらいのはPC用HDDと同じだ。内部のデータ構成が複雑である分、仮想HDDのほうがリカバリも難しいという。
「仮想HDDの復旧作業を依頼する際は、仮想環境対応をうたっている復旧業者を選択すべきです。他のケースでも最初に選択する業者が重要なのは確かですが、仮想環境では業者選びを間違えると本当に取り返しがつきません」と同氏。内部に複数の仮想マシンデータが格納されているとなれば、失われるデータ量も膨大になる。最初の業者選定が本当に重要なのだ。
複雑なデータ構成になっているとはいえ、なぜ業者間で対応力に差が出てしまうのだろうか? 単純な経験不足だけの問題ではなさそうだ。
「個人的な意見ですが、仮想HDDの復旧には普通のHDD復旧と比べて3段階くらい上の技術が必要とされる気がします」と同氏は仮想HDD復旧の難しさを語る。仮想マシンが複数台入ったHDDを復旧するには、複数台のHDD内データを混ぜ合わせた状態から復元を行う技術が必要になる。これは通常のHDD復旧ではまったく必要とされない技術であるため、通常の復旧作業をいくら手がけても身につけられるスキルではない。
また、案件ごとに必要な技術が違うという問題もある。設定はもちろん、「1台のHDDにいくつの仮想マシンが入っているのか」、「それをどのように使っていたのか」という情報が案件ごとに異なる。現在は、仮想化ソフトとしてシェアが高いVMwareによる仮想環境のトラブルが目立っているが、今後は他の手法で仮想化されたものも増えるかもしれない。仮想環境はPCやサーバ以上に使われ方に差が大きく、それに伴い求められる復旧技術も幅広いのだ。
現場で実案件にあたって技術を磨くしかない。しかし、失敗をすれば取り返しがつかない。データをサーバにコピーして作業するオントラックの独自技術を活用している同社だからこそ、経験を蓄積して確実なデータ復旧へとつなげることができるのだろう。
もちろん、実地で作業能力を磨くだけではない。それ以上に大切なのは、仮想環境そのものへの理解だ。「どういう設定がされている可能性があるのか」、「どういう風にデータが扱われているのか」ということを知らなければ、複雑なデータを扱うことができない。そのため、同社ではVMwareの基礎技術の習得にも積極的だ。
「現在、VMware認定プロフェッショナル(VCP)を取得すべく、勉強を始めています。日本語でも取得できるようになり敷居が下がりましたが、内容はやはり難しいですね。今までは、わからないことがあると、VCP取得者のいるオントラックへ問い合わせたりしていましたが、私が取得することでより迅速かつきめ細かな対応が可能になると思います」と同氏は語る。
なお、VCPはVMwareの設定が行えて活用するための技能を有することを認める資格であり、その取得者が即座に仮想環境で使われていたHDDの復旧技術を持っているということではない。しかし、技術を磨きつつ、VMwareについて十分な知識も蓄えているということは利用者にとって心強いはずだ。
* * *
これまで5回にわたってお届けした本連載も今回で最後となる。データ復旧は一般に馴染みの薄いサービスでありその技術も複雑だが、ワイ・イー・データの技術者の方々に話をうかがって、高いレベルで仕事をされていることを感じた。また、データ復旧は属人的な要素が多いため、技術の習得には相応の時間がかかり、短期間の講習を受けただけでレベルが上がるものではないということもわかった。今後、データ復旧が必要になった時は、大袈裟なキャッチで煽るWebページでユーザーを引きつけようとしている業者ではなく、長い年月をかけて実績を積んできた業者に依頼することをお薦めした。今回の連載がその一助になれば、幸いである。
ワイ・イー・データ オントラック事業部
1994年末、データ復旧サービスの世界最大手である米オントラック社と独占的技術導入契約を締結し、ストレージ機器の製造・開発技術・経験・設備を活かしたデータ復旧サービス事業に進出。1995年、国内で最初のデータ復旧専用ラボを埼玉県入間市に開設し、国内及びアジア地区の拠点として、デジタルカメラ用メモリーカードからHDD、大規模サーバ、NAS等データなどの復旧サービスを提供している。業界で唯一の東証上場会社でもある。
参照:ワイ・イー・データ データ復旧サービス
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