「Men's Precious」2014年春号

女も知らなかった男性誌のなかみ

これまで、男が知らない女性誌のなかみについて書いてきましたが、従来の連載に加え、女も知らなかった男性誌のなかみについても見ていこうと思います。

女性誌に関しては、ある程度、雑誌のカラーなりを知った上で書いてきましたが、男性誌に関しては、しばらくは「へー、こんなこと書いてるんだ!」という新鮮な驚きを持って書くことが多くなると思いますが、こちらもどうぞよろしくお願いいたします。

"イタリアは知性(エロティック)だ!"

さて、今月気になって手にとったのは、「Men's Precious」という男性誌です。買ってから知ったのですが、これは小学館の女性誌「Precious」の男性版なのですね。

なぜこの雑誌が気になったかというと、表紙のド真ん中に「イタリアは知性(エロティック)だ!」とあったからなのです。

最近の「知性」は「解決」にシフト

「男が知らない…」の連載でも、何度となく「最近の女性誌は知的路線に向かっている」と書いてきました。今月も「CREA」は、「そろそろ本気でお勉強!? たのしいガクモン」という特集を組んでいるくらいで、まだまだこのトレンドは続いていくと思われます。でも、世代や男女でも、その捉え方は違っているのではないでしょうか。

例えば、以前ならば知性というと「教養」を意味するものだったと思います。だからファッション誌の知性と言えば、モノの生まれた背景や歴史やそれを生みだした人のことを知ろうという形になると思います。

ところが最近の知性は「解決」にシフトしているように思います。マイケル・サンデルの「ハーバード白熱教室」のように、議題があってみんなで問題を解決していく。以前「男が知らない…」の「Mart」のときにも書きましたが、議題を出すのは雑誌側、問題を解決するのは読者というのが「解決」の方の知性の在り方のひとつだと思います。

この「Men's Precious」はどっちの「知性」かというと「教養」系の知性であると思います。イタリアというテーマで、その道の専門家が名品についての教養や思想を教えてくれるからです。

では、この雑誌では、イタリアはなぜ知的で、知的ということはエロティックなのかも見てみましょう。

特集のコピーによりますと、イタリアから生まれたスーツ、靴、クルマ、ワインはどこかエロティックであると。また、それは「曲線」からきているんだそうです。確かに曲線がエロティック、わかります。その曲線に触れたくなり、愛撫したくなるんだそうですが、それは「知性が欲するエロス」なのだそうです。

これを自分なりに咀嚼すると、本来なら直接エロスではない物体(靴やクルマ)の曲線を見ただけで、エロスとして受け取ることのできる想像力、これが知性だっていうことなのかもしれません。

雑誌は男女で見せ方や語り口が違う

そのほか、読んでいて女性誌にはない部分だなあと思ったのは、ファッションでも機能やディテールを紹介したページが多いところ。これが女性誌ならどう着こなすか、どう着まわすかにあてられている部分かと思います。

例えば、イタリアのブランドのパンツひとつとっても、「シルエットの変化」として股上、ワタリ、すそ幅などを詳細に説明したり、「ディテールの進化」として、裏地プリント、ステッチ、ワンポイントなどを紹介したりするなどしています。

また、同ブランドの自転車をテーマにしたパンツにはヒップポケットにリフレクターがついているんだとか。読んでも意味がさっぱりわからなかったのですが、リフレクターが何なのか調べてみたら、光に反射する物体を指すのですね。夜道をサイクリングするときに役にたつようです。

パンツひとつとっても、「ここ便利でしょ」「ここ凝ってるでしょ」「ここ機能的でしょ」ということでアガる男性がいるからこそ、こういうアイテムがあり、ページがあるのだと思います。女性誌には機能がここまで詳細に取り上げられることはないけれど、その代わりに「ここがかわいいでしょ」というものに置き換わるのだと思います。

雑誌のターゲットやコンセプトにもよるとは思いますが、男女の雑誌でここまで見せ方や語り口が違うものなんですね。これからも、知らなかった男性誌の世界を少しずつ見ていきたいと思います。

<著者プロフィール>
西森路代
ライター。地方のOLを経て上京。派遣社員、編集プロダクション勤務を経てフリーに。香港、台湾、韓国、日本などアジアのエンターテイメントと、女性の生き方について執筆中。現在、TBS RADIO「文化系トーラジオLIFE」にも出演中。著書に『K-POPがアジアを制覇する』(原書房)、共著に『女子会2.0』(NHK出版)などがある。