データの保護ソリューションはデータが破損した場合に初めて活用される保険のような役割として価値のある働きをします。その反面、データ破損などの障害が発生しない場合は無駄な投資として見られがちです。そのため、データ保護はよく保険にたとえられます。

そこで、「バックアップデータをデータ保護だけではなく他の用途に活用できないだろうか」という検討が始まっています。

既に開始されているアプローチとして、「全データセンターのデータを見える化」と「複製データ管理とバックアップのデータ共用連携」がありますが、前回は「全データセンターのデータを見える化について説明しました。

最終回となる今回は、2つ目のアプローチである「複製データ管理とバックアップのデータ共用連携」について、詳しく紹介します。

バックアップを前向きな投資に転じるアプローチ

バックアップと複製データ管理は異なるもの

開発コストを抑え、開発期間を短縮化するプロセスとして、DevOpsという考え方が注目を集めていますが、この運用を支援するために複製データ管理というソリューションが提供され始めています。

具体的には、DevOpsにおいても、バックアップデータの活用、もしくはその逆で複製データを復旧用のバックアップとしても活用するという試みが始まっています。

もともと複製データ管理とバックアップはそれぞれの目的が異なるため、一般的には別のソリューションとして実装されます。

複製データ管理システムをバックアップの一種と見なそうとする向きもありますが、その場合、バックアップとしてのデータ保護に最も重要な点が抜け落ちてしまいます。

ところで、データ保護に最も重要な点とは何でしょうか? バックアップの迅速性、自動化、保存領域の最適化などはもちろん重要ですが、最も重要な点は「どのサーバのいつの状態のバックアップをどこに保存してあるかをカタログ化し、必要な場面で迅速に確実に必要なデータを必要な時点に必要な場所に復旧できること」です。

一般的な複製データ管理では、このバックアップとしての重要な点が網羅されていません。バックアップシステムではなく複製データ管理システムなのですから、当然と言えば当然です。

以下に、バックアップと複製データ管理の特徴をまとめてみました。

バックアップ:本番データのフルバックアップを短時間で作成し、データ破損時に迅速確実に復旧

  • 本番データからフルバックアップを作成する際、永久増分と仮想合成を利用して短時間でフルバックアップイメージを作成
  • 各バックアップイメージの履歴をカタログで管理し、どのサーバのどのデータをいつの時点に戻すかという指示を与えるだけで、迅速に対象データを復旧

複製データ管理:本番データの複製を短時間で作成し、開発者に迅速に提供

  • 本番データから複製を作成する際、永久増分と仮想合成を利用して短時間で新たな複製を作成
  • 複数の複製データは重複排除技術により最低限のストレージ容量で維持
  • 開発者は許可された複製データを自分でいつでも迅速に利用可能

バックアップも複製データもそれぞれ重複排除技術によりデータ量や作成時間は最適化されますが、バックアップと複製データをまたがっての最適化はなされません。

加えて、運用もバックアップと複製データ作成管理では別に行うことになります。

そこで、バックアップシステムからバックアップ管理を行い、作成されたバックアップデータがそのまま複製データとして開発者に迅速に提供できたらどうでしょうか。

データ保存先のストレージも一元化された重複排除で容量とコストが最適化され、開発者からの複製データ利用もいつでも行え、リストアもバックアップシステムの持つ保存履歴によって迅速かつ確実に行えるようになります。

このように、バックアップシステムをデータ破損時だけに活用される後ろ向きな投資から、データ削減によるストレージコスト削減や、運用を複雑化させずストレージも一元化しつつ業務アプリの開発を短期化させることでビジネスの競争力を高め、ひいては収益性を拡大させるという前向きな投資に転換するアプローチが始まっています。

さて、本連載ではこれまで「ハイブリッドクラウド時代のデータ保護」についてシリーズでお送りしてまいりましたが、いかがでしたでしょうか? 本連載で解説した内容のポイントをまとめると、以下になります。

  • オンプレミス+クラウド(プライベート&パブリック)で複雑化するインフラをどの様に簡単確実に統合保護をするか

  • 災害対策に焦点を当てた時、何に気を付け、どのようなソリューションを適用すべきか

  • バックアップを保護に加えて活用に転じるために何が始まっているか

今後も急速に増え続けるデータ容量、利用者の意図とは関係なく複雑化するインフラ、今まで以上に高まるビジネスやコンプライアンス観点での事業継続性の要求、対投資効果の最大化など、インフラ設計者、構築者、管理者にとって困難な課題が山積みです。

プロジェクトやシステム単位の要件や要望だけに目を奪われず、大局的かつ網羅的にインフラ全体を俯瞰し、最適なハイブリッドクラウド環境の保護と対投資効果の最大化を実現頂くために、本連載がその一助となりましたら幸いです。

勝野 雅巳(かつの まさみ)

ベリタステクノロジーズ合同会社

テクノロジーセールス&サービス統括本部

バックアップ & リカバリーアーキテクト


1989年に日商エレクトロニクス株式会社に入社。UNIXによるメインフレーム端末エミュレータ、E-mail専用アプライアンス、NAS製品、バックアップ製品の保守、デリバリー、プリセールスSEを歴任。その後2001年EMCジャパン株式会社にバックアップソリューション担当SEとして入社。 2013年、株式会社シマンテックにバックアップソリューション担当SEとして入社。2015年、株式会社シマンテックからベリタステクノロジーズ合同会社の分社に伴い、現職となる。

IT系商社時代から約20年にわたり、データ保護の専門家として業種の如何を問わず、提案活動を通してお客様のデータ保護に関する課題を数多く解決してきた。現在は提案活動と併せて、豊富な経験をもとにセミナーなどにおける講演活動やメディアへの記事執筆を行い、社内外にデータ保護のあるべき姿について啓発を続けている。趣味はテニス。