【連載】

ITとの付き合い方、教えます

4 若者は再びITに夢を描くことができるのか - 秋葉原ITの栄枯盛衰に思うこと

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パソコン全盛期の秋葉原

秋葉原の駅の電気街の2階に「古炉奈」という喫茶店がある。昭和40年代を思わせるような落ち着いた店内で、音楽を聴きながらコーヒーを飲むことができる素晴らしいところである。煙草は燻らせることができるが、携帯は厳禁である。ここは1990年ごろ、日本のパソコンに関する主要メンバーが集まり、次世代のパソコンや世界中で使われていたパソコンで日本語表示を可能とするDOS/Vについて語りあったと言われる、知る人ぞ知る場所でもある。昭和時代の名残を残すこの店の窓から見える近代的な秋葉原ダイビル、巨大な建造物であるUDXビルを眺めると、その落差にやはり隔世の感がある。

今では見る影もないが、秋葉原電気街は戦後、進駐軍の電気ジャンク品の売買から生まれたところである。当時は無線用の真空管、巨大なコンデンサ、使い古しのケーブルの山、古びたマイクロフォンなど、いろいろなものが売られていた。

それから「趣味の王様」と言われたアマチュア無線の人気、オーディオの興隆に伴って販売されるものは少しずつ変化してきたが、一貫して電気製品であった。

その街がパソコンの出現で、少し変わってきたのは、DOS/Vパソコンが出始めたころであった。マザーボード、CPU、メモリ、グラフィックカード、ハードディスクなどのパーツを選んで自作する人が秋葉原にあふれてきた。ベンチマークソフトで最速を謳うパソコンに、食い入るような視線を投げかける人々がいた。

90年代にアキバを徘徊していたオタクはけっこう活動的だった!

Windows 95の出現で、大量のパソコン関連雑誌が発刊され、本屋の一番大きいスペースはパソコン雑誌のコーナーという時期もあった。秋葉原の部品販売を行っていたT-ZONEが、アメリカに進出し、シリコンバレーのローレンスフリーウェイのそばにテナントを出したり、ラオックスのコンピュータ館のように建物全体がコンピュータ関係の物を売り始めるなど、90年代後半はITの盛り上がりが最高潮となっていた。休日の秋葉原はパソコン自作派の老若男女でごった返していた。皆、これから出るソフトウェア、ハードウェアにどきどきして、雑誌を読みあさったり、秋葉原を徘徊していったものだ。

社内でも、便利なフリーウェアをダウンロードしたり、それぞれのノウハウを披露したり、新製品の話をしたり…と、パソコンはITの中心に位置し始めた。それまで"密室"の中で作られ、使われていたコンピュータは一気に市民権を得て、誰もがパソコン=ITを使うようになった。

こうなるとITを使って情報システムを作る人は、目の肥えた人たちから非常に高いレベルの実現を要求されるとともに、稼動までのスピードをも求められるようになった。また高度な情報処理技術者が欠かせなくなり、若手の「趣味の王様」がコンピュータという時代が到来した。さらにコンピュータの価格も下がり、ネットワーク化も進んで、家庭においても職場と同じように仕事ができるような環境になってきた。

ITに"どきどき"から"びくびく"する時代になってきた!?

ところが今は状況が少し変わってきたように感じる。

内部統制、セキュリティ、個人情報保護、コンプライアンスなどさまざまな縛りが出てきて、ほとんどの人は、会社から与えられたコンピュータをそのまま使うことを強いられている。昔は起動を簡単にするランチャーを入れて使い勝手をよくしたデスクトップでも、今では勝手にインストールすると怒られてしまう。しかし、だからといってデータを持ち帰って、自宅のPC上で仕事をすることも最近はままならない。社外のマシンにデータを移すことを禁じる会社が増えたからだ。車上荒らしなどによるパソコンの盗難をおそれて、持ち出すのも最小限度に留めるなど、限られた範囲での利用になりつつある。筆者の知人では会社の寮を荒らされてパソコンを盗まれた人も存在する。

このような時代が何年も続くと、コンピュータに可能性を感じて「どきどき」しなくなった。むしろ「びくびく」し始めた。あんなに自由で、パーソナルに使えたはずのコンピュータが、一番管理のやっかいな単なる"お仕事のツール"と感じたり、休日、夜間まで追いかけてくるような電子メールの山に埋もれながら、おびえながら、ITをむしろ疎ましいと思う人も増えてきている。また、コンピュータなしでは仕事ができないと思っていた が、今ではメールを含めてコミュニケーションが携帯電話でできてしまうことから、以前よりも"コンピュータ"を意識せずに仕事ができるようになっていることもある。

ITはどこでも使われる常識と化した。しかしITを使う人、支える人が興味を失うようなことであってはならない。輸出できる資源が少ない日本では、知的生産物であるITをもっと発展させていくべきである。ところが先日、先進の技術に期待をときめかせるはずの新卒のシステムエンジニアから「勉強ができないからSEしかなれなかった」という発言を聞き、ITの将来に本当に憂いを持ってしまった。つまり、ものすごく高度のことをさせる割に、納期も厳しく、縛りもきついコンピュータの仕事をする人は、Kitsui×Kitsui×Kitsuiの3Kと感じる人が出始めている。

高度な技術と業務のセンスを必要とするITは、今まで通り中核の技術として認められるべきであるし、若い人が楽しく、夢を持てる職業のはずである。経営者もIT部門長もITにスポットライトを当て続け、特に若手の目が輝くようにしてほしいものだ。

常に先端のモノが存在する秋葉原は、パソコン、コンピュータゲームを経て、今やコミックの聖地と変わってきている。これからの世の中でITがどうなっていくのか、古炉奈から外の風景を眺めながら、考えていきたい。

スタバやタリーズとはひと味違う、まさしく"珈琲喫茶"といったおもむきの古炉奈。アキバで歩き疲れたら一服したい

(イラスト ひのみえ)

執筆者プロフィール

中村 誠 NAKAMURA Makoto
日立コンサルティング シニアディレクター。 情報システム部門での開発/運用の実務経験、データベース、ネットワーク、PC等の導入、会社全体の情報システム基盤設計経験を通じたITに関するコンサルティングが得意分野。

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インデックス

連載目次
第16回 情報システムにも人にも型(スタイル)がある - 良きスタイルを作るには
第15回 経営のスピード化にITはどう対応すべきか - バランスを考慮した性能改善を
第14回 「取って、戻す」でワンセット - バックアップは双方向で
第13回 壁にぶつかったときに乗り越える力を - IT技術者に求められる特性
第12回 守れないのにはワケがある - 明確化しにくいセキュリティ規則
第11回 情報システムの基本は「漏れなく、ダブりなく」 - "業務体系"作成の重要性
第10回 システム担当者に必要な"地図を描く"能力とは - 今こそ"EA"を再評価する
第9回 投資対効果の比較がなぜ困難か - それでも数値化する努力を忘れずに
第8回 見た目より中身が大事なのは人間も情報システムも同じ - データの保護
第7回 システム人材は"論理思考"が決め手
第6回 システム完成は戦いの始まり - 開発費用をムダにしないための保守/運用を
第5回 短気な経営者、己の世界にこもるIT屋…あなたの会社、足下は大丈夫?
第4回 若者は再びITに夢を描くことができるのか - 秋葉原ITの栄枯盛衰に思うこと
第3回 ITの特性を理解しよう - 食わず嫌いの"アナログ"人間へのメッセージ
第2回 将来を読みにくいIT - 故きを温ねて新しきを知る
第1回 ITは経営者の敵か、味方か、それとも…

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