IT組織に属している人であっても、「数年後のITはどうなっているのか?」の質問に窮したり、ITの将来像を具体的に描けないでいたり…と、将来のITを読むことは困難を極める。今回は、過去の技術の変遷を振り返りながら、将来のITに思いを巡らせてみることにしよう。

コンピュータの専門家が企画に関わっていれば違っていたかも!?

1号、2号、3号…あなたの好みのサンダーバードはどれ?

1966年、NHKの夕方の番組でジェリー・アンダーソン氏の名作「サンダーバード」が放送された。個人的には裏番組の「シャボン玉ホリデー」にも惹かれたが、オープニングの「5、4、3、2、1、Thunderbirds are go!」 に心踊る思いがしたものである。何度か再放送されたことと、最近、劇場版映画でリメイク版が出たこともあり、ご覧になられた方も多いかもしれない。とにかくこの番組ですごいのは、1966年という時代にあって描かれた飛行機のメカニズム。もちろん人類は未だ月に立っていないし、新幹線が開業した東京オリンピックの年からわずか2年後のことである。

ちょうど英国で開発途中であった垂直離着陸機(VTOL)で、可変翼を持つサンダーバード1号がマッハ20で飛び、地球の真裏であっても1時間以内で到達するというリアリティ。そして装備をつんだ巨大コンテナを飛行前に選択し、同じくVTOLで前進翼を持つサンダーバード2号。着陸後コンテナから出てくるいろいろな装備類。リモートコントロールされた車両群。宇宙ステーションのサンダーバード5号とそこへ行く宇宙ロケットであるサンダーバード3号などなど、彼の頭の中の100年後である、西暦2065年に設定された航空機が、現代において見事にフィットすることに驚くばかりである。

しかし……番組で描かれたコンピュータ"らしき"ものにはかなり違和感を覚える。サンダーバード5号の中の磁気テープ群や、ちかちか光るランプなど、当時の技術から想像されたそれらしきものは、わずか40年足らずで様変わりしていることが伺える。

そういう意味で見ると、最新鋭のボーイング787のコックピットは大型ディスプレイが並び、コンピュータディスプレイそのものとなってきている。実際に2065年になれば、さらに高度な処理が行えるようになり、アニメの攻殻機動隊ではないが、パイロットの電脳の世界に直接働きかけるようなインタフェースになっているかもしれない。

ではネットワークの世界を振り返ってみるとどうか。今から12年前、標準でネットワーク接続を備えたWindows 95が登場し、そこからネットワーク接続が本格的に普及した。最初はダイアルアップのモデムで9.6kbpsという恐ろしく遅いスピードだった(もっと前は音響カプラーと呼ばれるものを受話器に付けていたが)。

今や当時垂涎の的、いや、家庭用途で実現可能なのかも不明だった光ファイバが多くの家庭に引き込まれて、水道の蛇口をひねって出てくる水と同じように自然にブロードバンドが使われる時代になっている。さすがにここまでネットワークが社会インフラ化するとは、正直、専門家でもまず考えられなかったはずだ。

変わる部分と変わらない部分を見定めて、トレンドを読む

最初の話に戻ると、将来を推測するのに役立つものの1つとして年表がある。自分の調べたい分野、キーワードを過去から並べてみる。そうすると、ある時点で発明され、失敗しながらもその技術が熟成されてくるのが見えてくる。そして、現在を越えて将来はどうなるか、おぼろげながら推測できるはずである。たとえば、予測できない自然災害の代表である火山の噴火であっても、過去のデータを調べ分析することによって長いトレンドをつかめるように、世の中のITもトレンドからある程度は読める。まさに歴史は未来を語るのだ。

さらにあるスポットを見ると、火のないところに煙は立たず、何にでも必ず予兆が存在する。つまり2つめのポイントは、予兆に対してセンサーを張り巡らせているかどうかということである。今後、どんな事態が起こりうるか - 自分の見張っているエリア以外でも起こることがあるので、予兆を掴むといっても、前述のネットワークの事例のように困難ではあるが、まったく不可能ではない。常に興味と好奇心を持つことだ。日進月歩のITであるが、そのITを作っている人間も、しょせんは脳の中の電気信号で動いているコンピュータそのものなのだから。

紀元前79年にイタリアのベスビオ火山が噴火して、生活をしている人がそのまま溶岩の中に埋もれてしまったポンペイを訪れた際に、人々の暮らしが今とほぼ変わらなかったことに驚かされた。衣食住という人間の欲望を満たすための家の構造、娼婦のいる店、夜でも道が見えるように光る石を埋め込んだ道、喉の渇きを癒やすための公衆水道…2000年もの歴史があろうとも、人の行動、頭の構造は大きくは変わっていないのだ。

「私の予言はあたる。なぜなら私が未来を作るから」という驕れる人も過去にいたが、そこまで行かなくてもある程度のことは読めるのだ。もっとも…最近の若手に「あと5年後にどうなりたい?」とよく聞いてみると、「考えたこともありませんでした」とか「なるようにしかなりませんよ」とか、曖昧な答えを困惑の表情とともに返す人が少なくない。自分に関わることなのだが…こんな状況では、将来のITを読むどころの騒ぎではないかもしれない。

ベスビオ火山が噴火する直前、地震や小噴火、天候不順などの予兆から危険を察知し、街から逃げることができた人々がいた一方で、培った富を捨てる勇気をもたず、最後まで"自分だけは大丈夫"と信じたまま、瓦礫の下敷きになった富裕層も多かった。今起こっていることをありのまま受け入れ、分析→予測を行えば、"不測の事態"は避けられる…か!?

(イラスト ひのみえ)

執筆者プロフィール

中村 誠 NAKAMURA Makoto
日立コンサルティング シニアディレクター。 情報システム部門での開発/運用の実務経験、データベース、ネットワーク、PC等の導入、会社全体の情報システム基盤設計経験を通じたITに関するコンサルティングが得意分野。