これまで、多くの知的財産に関する誤解について取り上げてきた。具体的には、第1回では、知的財産を軽視することから生じる誤解、第2回では、知的財産の利益を「具体的な金銭的利益」としてのみ考えてしまう誤解、第3回では、知的財産が自社に存在しないという誤解、前回の第4回では、「知的財産は外部の専門家に任せれば良い」という誤解をとりあげ、読者の方々にも、知的財産に関する誤解の根深さをお分かりいただけたに違いない。

今回は、企業における知的財産の人的資源に関わる次のような誤解を取り扱う。

外部の専門家を有効に活用できれば、社内に知的財産の知識を有する専門の人材を抱える必要はない。

このように考えている企業は、実は非常に多い。だが、これは大きな誤解である。どこに誤解があるのだろうか。

知的財産の「専任者」はいらなくても「担当者」は必要

知的財産の「専任者」を置いていない企業は少なくないであろう。例えば、従来型の商品分野において価格競争で勝負している会社や、独自の営業秘密(ノウハウ)で勝負している会社など、特許出願がほとんどないような会社がその典型といえる(第1回参照)。

特許出願が全くないか、あるいはぽつぽつとあるだけで継続的にない会社では、知的財産を管理するという専門的な仕事を日常的に行う必要のあるケースは、確かに想定しにくい。

だが、そうは言っても第4回で述べたように、外部の専門家を「必要に応じて活用する」ためには、社内における知的財産に関する専門的な判断が必要不可欠なのだ。

したがって、特許出願がほとんどないような会社であっても、少なくとも1人は、最低限の知的財産の知識を持ち、外部の専門家とのインタフェースとなれる担当者が必要である。

ただし、ここで強調したいのは、担当者は、専任者でなくてもいいということであり、「兼任者」でも構わないということである。兼任者とはすなわち、通常は別の業務を行っているが、知的財産の問題も必要に応じて行う者を指す。

こうした兼任者であれば、専任者を置くことによる固定費(人件費)の心配をする必要がない。わざわざ新しくこのような知的財産担当者を採用する必要もなく、社内の誰かに知的財産の基礎知識を身に付けさせさえすれば良いというのがポイントである。

誰をどのような方法で、知的財産担当者とするか

では、「誰を」「どのような方法で」知的財産の担当者とするべきであろうか。

「誰を」という点を検討する上では、現在の大手企業の知的財産部は法務部から発展したものと技術部門(特に開発部門)から発展したものの2つに大別されるという事実を頭に置いていただきたい。つまり、知的財産というのは、この両者にまたがる境界領域だということである。例えば、商標に関する業務は法務的な仕事である一方、特許に関する業務は発明を生み出す開発部門と密接な関わりがある。

企業の知的財産業務においては、専任者は置かなくても、普段法務部門や開発部門で業務を行っている社員を、知的財産の担当者としてうまく育成する必要がある

したがって、こうした背景を考えれば、法務(あるいは総務)担当者か、開発部門の担当者のいずれかが、担当者として適任と言うことができる。

「どのような方法で」という点については、各種研修機関が行っている知的財産に関する研修会に、担当者候補を出席させるという手段があるが、この方法では本当に知識が身についたのかどうか確認できないのが難点である。

一方、弁理士試験に合格させるというのは、同試験が非常に難関となっており、合格率が1桁であることを考えれば、そのコストとリスクを考えれば、あまり現実的ではない。

ここでお尋ねしたいのだが、「知的財産検定」という試験をご存知だろうか。聞いたことがないという経営者の方も多いと思うが、同検定は、企業における知的財産業務の実務能力を測る検定試験として、2004年に日本弁理士会の後援を受けてスタートし、今年7月から実施される試験からは、国家資格「知的財産管理技能検定」となることが予定されている。

同検定は、まさに企業の知的財産管理や戦略を行う担当者向けの検定であり、試験内容も、企業内で起こりうる様々なビジネスシーンを想定した内容の試験となっている。

英語におけるTOEICが、教養のための英語ではなく、ビジネスで使う英語を想定しているのと同様、知的財産検定も、知的財産法の学問的な側面というよりもむしろビジネスにおける知的財産法の活用管理を対象にしている。

すでに、キヤノンやセイコーエプソンなど、大手企業の知的財産部が企業単位で受検しており、受検者数も累積で既に3万5,000人を超えている。同検定をご存じないという方は、ぜひ知的財産教育協会のWebサイトをご覧いただきたい。

以上で、知的財産の担当者を置く必要性と、誰をどのような方法で担当者とするかについて、お分かりいただけただろうか。

次回は、ソフトウェア特許やデジタル著作権など、ITとの関連での知的財産の問題について取り上げる予定である。

(イラスト: 牧瀬洋)