自宅のテレビをスマートテレビに変えてしまえる「Slingbox PRO-HD」の紹介を前回からしている。Slingboxは自宅のレコーダーに接続するだけで、インターネット回線を経由して、パソコンやiPhone、iPad、Androidスマートフォン、Androidタブレッドなどで、自宅のテレビ放送、録画した番組が見られるようになる機器だ。自宅内でワイヤレステレビ的な使い方もできるし、出張先や旅先で自宅のテレビで受信した番組や、レコーダーに録画しておいた番組が観られる。もちろん、海外にいてもそれらを観ることが可能だ。

前回は画質について紹介した。Slingboxは1080iまで対応しており、地デジ放送が1080iなので、画質の点ではほぼ問題ない(ブルーレイディスクにはさらに高画質の1080pのものがあり、その場合は画質が劣化することになる。といっても、マニアがこだわるレベルの話だ)。今回は、「レコーダーをどうやって操作するのか?」というテーマで話を進めたい。実は、ここが、Slingboxを買うか買わないか判断するための最大のポイントになると思う。

Slingboxは自宅のレコーダーに接続するのが基本だ。もちろん、地デジチューナーに接続することもできるが、この場合はテレビ放送しか観られないので、海外に赴任するのでもなければあまり意味はないだろう。多くの人は、レコーダーに接続して録画した番組をどこにいても再生できるという点に魅力を感じるはずだ。ところで、遠隔地からどうやってレコーダーを操作するのだろうか。これが意外と単純な方法だ。

Slingboxをいちばん必要としているのは、海外赴任者や、留学している人だろう。大都市であれば、日本のテレビを観られるケーブルテレビなどもあるが有料だ。しかし、Slingboxを日本の自宅に設置してしまえば、費用は0円。日本に帰ることができない場合でも、訪問設置サービス(12,000円、本体同時購入なら7,000円)を利用すれば、海外にいたままで実家の親元などに設置、設定をしてもらうこともできる。なお、Slingboxのウェブサイトには、無料で画質チェックができるコーナーが用意されているので、事前に試してみるのも良いだろう

Slingboxには赤外線ケーブルが付属しており、このケーブルの先には赤外線の発信ユニットが付いている。これを自宅のレコーダーの赤外線受光部に取り付けるのだ。もちろん、角度をつけて取り付けられるように設計されているので、レコーダー付属のリモコンを使う際にもジャマにはならない。おそらく一般的には、レコーダーの天井部分から少し発信ユニットを手前に引きだすような形でテープ止めすることが多いだろう。つまり、遠隔地からであっても、リモコンの操作命令を出すと、Slingboxがリモコンが使っている赤外線信号を出してレコーダーを操作するというわけだ。一般的なレコーダー用のリモコンでは、電源のオン・オフも行えるが、この操作ももちろんSlingbox経由で操作できる。つまり、レコーダーの電源がオフになっていても、録画番組の再生操作を遠隔地から行えるというわけだ。

このようにリモコンの信号をシミュレートする仕組みなので、当然対応機器というものがある。どの機器に対応しているかは、Slingboxのサイトに一覧表があるので、自分のレコーダー(厳密にはリモコンの型番)が対応しているかどうかをまず調べよう。

もし、対応していない場合はあきらめなければならないのか。実は、Slingboxは原理的にはすべての赤外線リモコン操作機器に対応できる。というのは、Slingboxにはリモコンを学習する機能があるからだ。手持ちのリモコンをSlingboxの赤外線受光部にあてて、リモコン操作を行うと、Slingboxがその信号パターンを覚えてくれるのだ。しかし、実際にやってみると、なかなか学習は難しい。基本的にリモコンの全操作をしなければならないので手間がかかるし、どうしても外部からの光が撹乱要因になって、なかなかきちんと学習させられない。しかし、Slingboxの発売元であるイーフロンティアでは、要望の多い未対応リモコンの設定ファイルを作成し、配布することもやっている。つまり、対応リモコンはどんどん増えていっているわけで、自分のレコーダーが対応機器になっていない場合でも、しばらく待っていれば対応する可能性もあるのだ。

Slingboxは遠隔地からでも、レコーダーの全操作ができる。電源のオン・オフ操作から録画した番組の再生、果ては番組表を利用した録画予約まで行えるのだ。パソコン側の画面には、リモコンそっくりのグラフィックが表示され、そのリモコンボタンをクリックすることで、すべての操作ができるのだ。

ただし、遠隔地からは若干の問題が発生する。というのは、インターネット経由でリモコン信号を送る操作をした際に、その結果表示の画面が返ってくるのに、どうしても多少の時間差があるのだ。これは回線状況によるのでなんともいえないが、状況が良い場合でもゼロコンマ数秒、状況が悪い場合では数秒のタイムラグが生じてしまう。つまり、リモコンボタンを押して反応が分かるまで、数秒掛かってしまうことがある。録画した番組を探して再生する操作では大きな問題ではないが、番組表を表示して録画予約を行う場合、ボタンを押すたびに数秒待たなければならないので、さすがに煩わしく感じるだろう。録画予約はあくまで海外出張などの代替手段がないときに使うものと考えておき、一般的な利用者は自宅のレコーダーで録画操作を行い、再生は遠隔地から行うという使い方を想定しておくべきだろう。

自宅でSlingboxを使い、会社の休み時間や国内出張、たまに海外出張で、録画した番組を見るという使い方であればまったく問題はないと思う。しかし、海外に赴任していて、録画予約、再生の全てを海外から行いたいという場合には少々の使いづらさが残ることになるだろう。ただしこの場合でも他の手段はある。インターネットメールで録画予約が行えるレコーダーを使えばいいのだ。このようなレコーダーを自宅に設置し、録画予約はメールで行いさえすればいい。インターネットさえ使えれば、日本のテレビ番組表などはいくらでも観ることができ、番組表からワンクリックで録画予約メールを自宅のレコーダーに送ることができるサービスも存在している。

消費者の本音をいえば、全てのテレビ局がインターネットでも同時放送を行い、過去に放送された番組もいつでもネットで観られるようになれば言うことはない。レコーダーも不要だし、録画予約などという面倒なことをする必要もなくなる。しかし、制作者や出演者の権利というものも尊重しなければならない。そのため、「インターネット同時放送」「無料オンデマンド配信」の両方を行っている先進国は存在しない。インターネット同時放送をしている国は増えてきていて、むしろそちらの国の方が多くなっているが、さすがにオンデマンド配信は有料で、一部の番組に限られるというのが一般的だ。日本では、今やこういった「テレビのネット対応」が遅れている先進国のひとつになってしまった。しかし、Slingboxを自宅に置くだけで、あなたのテレビ環境は、一挙に最先端にすることができるのだ。「レコーダーにまだ観ていない番組がたまってしまって仕方がない」という人は、間違いなく“買い”だ。

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