7月24日のアナログ停波を終え、早3カ月。あちこちのメディアが「テレビが売れなくなった」という報道を始めている。さらには、日立製作所がテレビ事業からの撤退、パナソニックが事業の縮小を検討し始めているという報道も流れ、何だか「日本のテレビ産業の終わりの始まり」のような具合だ。でも、本当にそんなにテレビ市場は冷え込んでいるのだろうか。

もちろん、販売台数がこの3カ月で激減していることは事実だ。アナログ停波直前の駆け込み需要があまりにも大きすぎたためにその反動がきていることも事実。しかし、それで日立やパナソニックは大慌てしているのだろうか? いや、そんな馬鹿な話はないと思う。テレビを生産・販売している各社は、7月がピークでその後は落ちこむことぐらい織りこみ済みだろう。日立やパナソニックの動きも、数年前から計画していた事業計画を粛々と実行しているだけの話だと捉える方が常識的だ。

では、テレビの販売台数はどのくらい落ちこんでいるのだろうか。電子情報技術産業協会(JEITA)が発表している月ごとの「民生用電子機器国内出荷統計」によると、9月は前年同月比で52.1%、29型以下の小型製品は59.6%、30~36型の中型が58.6%、37型以上の大型が36.7%となっており、大型モデルの落ち込みが目立つ。

この「前年に比べて大幅減」というフレーズは、年内ずっと聞き続けることになるだろう。なぜなら、2010年の9月以降のグラフ(【図1】)を見てもらえば一目瞭然だが、10年末のテレビの売上は史上最高だったからだ。これと比べられたら、大幅減になるのも当然のこと。

【図1】電子情報技術産業協会(JEITA)「民生用電子機器国内出荷統計」より作成した薄型テレビの出荷台数のグラフ。出荷台数が落ち込んだというよりは、平年並みに戻ったと考えた方が正しいことが分かる。ただし、小型テレビの出荷台数が落ち込んだままなであることは注目すべき情報だ

一方で、2009年の薄型テレビの年間売上台数は1,300万台程度。ということは、月100万台ちょっとが平年並みのテレビの販売台数なのだ。グラフのようにサイズで3つに区分した場合、それぞれ40万台程度が”平年並み”ということになる。グラフを見ていただきたい。今年9月の29型以下は「平年並み」、30~36型は「平年を上回る」、37型以上が「平年を下回る」状況だといえないだろうか。もともと大型テレビは、それほど台数が出るわけでないことを考えれば、「昨年末と今年7月という2つのビッグウェーブが過ぎ去り、平年並みに戻った」とするのが正しい見方であるように思う。

このような推移は各テレビメーカーとも予測していたことで、各社とも予測通りの動きをしているだけなのだ。日立とパナソニックは大型テレビに力を入れてきただけあって、撤退や縮小のアクションを早めに取ったということにすぎないだろう。

今後、報道では、「テレビ不況」「メーカーの撤退、事業縮小」のニュースをよく耳にすることになるだろうが、それを「テレビ市場の終わり」と捉えては誤りだと思う。各社は、数十年の一度の地デジというビッグウェーブに乗った後で、予定通りの後始末をしているだけなのだ。

といっても、このまま事業規模を適正なものに戻していくことしかしないのであれば、テレビ事業に未来はない。いずれ(その傾向はとっくに始まっているが)、韓国メーカーや中国メーカーが本格上陸を果たし、“日本のテレビの終わり”の始まりがやってきてしまう。どのような打つ手があるのだろうか。

未来への一手として、メーカー各社が行ってきたのが「3Dテレビ」だった。しかし皆さんがご存知の通り、3Dテレビは成功しているとはいえない。今後もよほど思い切った手を打たない限り、普及するのが難しい状況になってきている。

この“未来への一手”を考えるために、出荷台数のグラフを見ていくと、気になる箇所が二つ見つかる。ひとつは「薄型テレビ出荷台数」で、29型以下の小型テレビの台数が伸び悩んでいることだ。小型テレビは、単身者のメインテレビとして、家庭ではサブテレビとして、台数ベースではもっと大きな数字となっても良いカテゴリーの商品だ。例えば、一家四人の戸建住宅であれば、リビングに大型テレビが1台、寝室や子供部屋に小型テレビがそれぞれ1台ずつというパターンも多いはずだ。つまり、小型テレビは大型テレビよりも多く売れてもおかしくない。

なぜ、小型テレビがあまり数がでなかったのか。その理由は二つある。ひとつは中型テレビの価格がどんどんと落ち込み、エコポイント政策などもあり、小型テレビとの価格差がほとんどなくなってしまったこと。小さいテレビを買おうと電気店に行っても、あと1万円足らずの追加出資で32型が買えてしまうのだ。最近、いろいろな人に聞いてみると、ワンルームマンションに住んでいる単身者なのに、32型や37型を置いているという人や、子供部屋や寝室にも32型を置いているというケースが多いように思う。薄型テレビなので、部屋が狭くても場所の確保は何とかなってしまう。

もうひとつは、“テレビ離れ”である。特に小型テレビを買うような学生や単身者の間ではその傾向が強い。多くはパソコンに流れている。特に学生の場合は、授業や就職活動などで今やパソコンがないと話にならない状況になっているので、パソコン保有率は極めて高い。少し高いお金を出して地デジ対応パソコンにしている例もあるが、一人暮らしでテレビ視聴をやめてしまう人もいる。テレビがなくても、「GyaO!」や「Hulu」「ニコニコ動画」で事足りてしまうのだ。さらに、中にはインターネットすら加入せず、スマートフォン一台ですべてを賄っているという強者もいる。もし私が今、大学1年生だとしたら、スマートフォン1台で済ませてしまうと思う。テレビの購入代金、毎月のNHK受信料など諸々の点を考えると、結構なお金が浮くからだ。

もうひとつ気になるデータが「DVD/BDレコーダー、プレイヤーの販売台数」だ(【図2】)。BDレコーダーの出荷台数推移はテレビと密接にリンクしているものの、BDプレイヤーの出荷台数が低迷したままなのが気になる。今やBDプレイヤーは1万円を切っている低価格商品まであるのに、なかなか台数が伸びていかない。これは、多くの人がBD以外のものにコンテンツを求め始めているということを示している。それは、インターネットのオンデマンドサービスや、テレビ放送をハードディスク録画するタイムシフト視聴だ。

【図2】DVD/BDレコーダー、プレイヤー出荷台数。同じくJEITAの「民生用電子機器国内出荷統計」より作成。BDレコーダーの出荷台数はテレビの台数にリンクしているが、BDプレイヤーの出荷台数が低迷したまま立ち上がってこない。これも注目に値する情報

このような情報を読み込んだうえで次回は、「これからは、どんなテレビだったら売れるのか」というテーマについて考えてみたい。

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