前回は、ブルーレイディスク(BD)は普及するだろうが、今ひとつ勢いが感じられないという話をした。では、なぜ勢いがないのだろうか。それは、BD以外の映像流通チャンネルが増えてきたということに尽きる。

従来、DVDを利用していた人たちは、ふたつの層にわけることができる。ひとつは、映画や海外ドラマなど、テレビ放送ではあまり放送されない番組を見る人たち。つまり、テレビ放送に不足しているものをDVDで補うわけだ。映画や韓国ドラマ、海外ドラマなどが多く、レンタル店で借りて観ることが多い。もうひとつは、特定のアイドル、アーティスト、アニメなどのファンで、コンテンツを所有したいというところからDVDを購入する。DVDには、このようなレンタル派とセル派がいた。

BDになってもセル派は健在だろう。むしろ、セル派は積極的にBDに移行している。すでにアニメファンの間では、BDが当たり前になっているという。映像の美しさがDVDとは段違いだからだ。その他、アイドルやアーティストのファンに関しては、BDへの移行がアニメファンと比べるとやや鈍いが、これはコンテンツ提供側がまだハイビジョン映像のBDを十分に供給できていないことにある。映画やアニメは、オリジナル映像はハイビジョン以上の画質を持っているものが多いので、過去の作品であってもリマスターするだけでBDを作ることができる。しかし、アイドルやアーティストに関する実写作品は、当時ビデオ撮影されていたものはどうやってもハイビジョン映像にすることができない。BDに適した映像コンテンツを作るには、新たに撮影から始めなければならないのだ。

セル派は、まだBD化が進んでいないものの、これから順調にBD化が進んでいくものと思われる。

一方で、レンタル派の間ではドラスティックな変化が起きている。それは、レンタル以外のサービスが登場し始めたことだ。ネットのオンデマンドサービスである。「GyaO!」「Apple TV」「Hulu」などが有名なところで、いずれもインターネットを利用したサービスだ。元来、GyaO!はアニメや韓国ドラマをCMつきで無料配信するサービスだった。現在も無料コンテンツは充実しているが、購入(実質レンタル)サービスも始まっている。基本的にパソコンのみのサービスだが、iPhoneやAndroidへも対応してきている。テレビには正式対応していないが、映像出入力端子を通じてパソコンから接続すれば、テレビで楽しむことも不可能ではない。ただし基本はテレビではなく、PCで楽しむサービスだ。

「Apple TV」は、Appleが発売しているテレビ用の周辺機器。Appleの映像サービスは、音楽などの販売で有名な「iTunes Store」で行われており、本来はPCやiPhone、iPadなどで映像をレンタルないし購入できるサービスだ。Apple TVを購入してテレビに接続すると、テレビでもレンタルしたり購入したりした映像を楽しめるようになる。Apple TVには、無線LAN接続機能が内蔵されているので、自宅に無線LAN環境を構築してあれば接続も簡単だ。テレビにApple TVを接続するだけで、大画面でインターネット経由のサービスが楽しめるようになる。しかもiTunes Storeでテレビ番組、映画がレンタル、購入できるようになるだけでなく、YouTubeやPodcast、ネットラジオなどが楽しめる。

Huluは米国の地上波テレビ局が共同出資して設立した映像配信サービス。月額1,480円で、米国のテレビ番組、映画などが見放題というものだ。パソコンやスマートフォン、タブレットなどで試聴できるのはもちろん、テレビやBDレコーダー、ゲーム機などにも対応している。ただし機種は限定され、自力でテレビにインターネット接続をしなければならない。

ここでふたつの道が出てくる。今ではインターネットに接続することは難しくなく、ほとんどの人がパソコンやスマートフォンなどでインターネットを利用しているだろう。自宅に無線LANを導入している人も多いはずだ。しかし、テレビとインターネットを接続するのはまだまだやっかいなところが残っている。無線LAN内蔵のテレビも数機種登場し始めてはいるが、多くの場合テレビは有線でインターネットに接続するのが基本で、リビングの中にLANケーブルを走らせる必要が出てくるからだ。

もちろん、最新のマンションではマルチコンセントが装備されていて、電源からテレビアンテナ線、LANに至るまで、ひとつのコンセントで賄うことができる。また、ケーブルテレビや光ファイバーによるテレビ配信を受けている人は、テレビをインターネット接続するのは難しくないだろう。しかし一般の家庭では、LANは電話系のコンセントから取るので、テレビまでは結構な長さのケーブルを使わないと接続できない。部屋の中をケーブルが走っていても気にならないという人もいるだろうが、多くの人は、特に子供のいる家庭では、ケーブルをきちんと始末しておきたいだろうし、できれば見えないように壁の中を通したいとも思うはずだ。

そこで、米国ではすでに“テレビ離れ”が起こり始めている。Huluも米国では無料コースが用意されている(観られる映像に制限がある)ので、テレビ放送をテレビではなくパソコンで観る人が増えているのだ。たとえば、夫婦ふたりとも仕事をしているとすると、平日は帰ってくる時間も違えば、観たいテレビ番組も違う。少ない時間を有効に使おうとすれば、一緒に一台のテレビで観るよりも、それぞれが自分のパソコンで好きな番組を好きな時間に観られた方が便利だ。ノートパソコンであれば、リビングでもダイニングでも、ベッドの中でも観ることができる。もちろん、一緒に暮らしているのに別々に行動しているというのは若干薄ら寒いものを感じないではないが、忙しい人にとっては、平日の夜の使い方としてその方が賢い気もする。週末にゆっくりと二人で過ごせばいいのだから。

このようなインターネットサービスを利用することによる“テレビ離れ”は、いずれ日本でも起きてくるだろう。テレビから離れてしまえば、好きなときに好きな番組を手軽に見ることができる環境はすでに整っているのだ。

一方で、あくまでも映像は大画面テレビで楽しみたいという人には、Apple TVのような手軽にテレビにインターネット接続できる機器がオススメだ。また、無線LANを内蔵したテレビも登場し始めているし、「PS3」や「Wii」といったゲーム機も無線LANを利用できる。今後は、ゲーム機経由でインターネット映像サービスが利用できるようにもなっていくだろう。

こう考えると、DVDレコーダーから素直にBDレコーダーに買い換えればOKというわけでもないようだ。むしろ、BDが再生できるPS3の方が、将来的にはさまざまな映像サービスが楽しめるようになるかもしれない。こういった面も、BD普及にはずみがつかないひとつの要因になっていると思われる。

もし、現時点でBDレコーダーの購入をお考えの方がいらっしゃったら、無線LAN機能が内蔵されている機種を選ぶことを強くお勧めする。それであれば、今後続々と登場するインターネット系映像サービスを利用できるからだ。

BDの普及にブレーキをかけている要因は、この他にももうひとつある。それは衛星放送やCS放送が、“テレビ放送”というよりも“コンテンツ配信”的な編成にシフトしていることだ。次回は、衛星放送、CS放送の新しい動きについてご紹介したい。

このコラムでは、地デジにまつわるみなさまの疑問を解決していきます。深刻な疑問からくだらない疑問まで、ぜひお寄せください。(なお、いただいた疑問に個々にお答えすることはできませんので、ご了承ください)。

GyaO! Apple TV Hulu
サービス形態 無料、レンタル レンタル、購入 見放題
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日本でも「GyaO!」「Apple TV」「Hulu」などのインターネット系映像サービスが利用できる。レンタル価格は一般のレンタル店とほぼ同じなので、一般レンタル店は毎日のように半額キャンペーンなどを行って対抗している