今のテレビのリモコンには、いろいろなボタンがついていて、その中に「d」というボタンがある。これを押すと、データ放送が見られるのだが、みなさんは普段データ放送をお使いだろうか。私の場合、一時期、かなり頻繁にデータ放送を利用していた時期もあるが、今はほとんど使わなくなってしまった。「使えるのに、使えない」。それがデータ放送に対する感想だ。

各テレビ局とも、データ放送には力を入れていて、手抜きのいい加減なサービスは提供していない。思ったよりも、使えるサービスが揃っている。なのに、なぜ「使えるのに、使えない」になるのかということは後回しにしておき、まずは優れたサービスをいくつか紹介していこう。気に入ったサービスがあれば、ぜひ使っていただきたい。なお、紹介は関東圏のものになってしまうことをご了承いただきたい。

まず、NHK総合は、天気、渋滞情報、夜間休日医療機関の検索など生活情報が充実している他、地震、津波などの災害情報も厚い。災害が起きたときは、やっぱりNHK総合にチャンネルを合わせて、なおかつデータ放送を見ると、詳しい情報が得られるだろう。ユニークなのは「お知らせ雨です」機能。自分の住んでいる場所の郵便番号を登録しておくと、雨が降り始めると、チャイムでお知らせてくれる。データ放送を見ていなくても、NHK総合を見ているときなら知らせてくれるのだ。

これは便利で、今でも使っている。が、私の家のリビングにはテレビの横に窓があり、雨が降ってくるとすぐわかる。「あ、雨が降ってきた」と思っていると、それから「お知らせ雨です」のチャイムが鳴る。5分ぐらい前に予測してお知らせしてくれると、いいのだが…。もちろん、家の造りによっては便利な機能だ。NHKのデータ放送は、各局の中でもいちばん充実していると思うので、ぜひ一度、のぞいてみることをお勧めする。使えるサービスがいくつか見つかるはずだ。

また、NHK教育は、子供向けのサービスが充実していて、教育的なクイズゲームや、ちょっとしたパズルゲームなどがある。小学校低学年ぐらいまでのお子さんがいる家庭では、安心して子供を遊ばせることができるだろう。

日本テレビは、通勤通学の交通情報が充実している。首都圏の鉄道で、30分以上の遅延が生じている場合は、リアルタイムで知ることができる。また、鉄道の駅、都営バスの主要バス停を4つまで登録しておき、そこの時刻表を現在時間に合せて表示することもできる。家から駅まで歩く時間を考慮に入れて、○時○分の電車に間に合うかどうかなどがわかる。朝は、日本テレビに合わせ、データ放送を表示しておくと、通勤通学の役に立つだろう。

また、フジテレビは交通情報が充実している。特に高速道路の渋滞情報は、簡易地図で表示されるので非常にわかりやすい。さらに、羽田空港の遅延情報もあり、私の場合は、休日の朝はフジテレビに合せることが多かった。

この他、他の民放も、番組連動のデータ放送には力を入れている。その中でも、楽しいのがスポーツ中継だ。中継番組中に、データ放送を表示させると、選手のプロフィールや過去の対戦成績、他球場の現在の状況などがわかる仕組みになっている。アイススケートの中継では、その選手がやる予定になっている技(ルッツ)などの解説が表示された。スポーツ中継の楽しさを増す試みとして可能性を感じさせる。

また、ドラマなどでは人間相関図など、ドラマをより楽しめる情報がデータ放送に表示される場合もあり、これもいい試みだと思う。

ニュース番組や討論番組では、ツィッターと連動している例も増えてきた。視聴者からのツイートをピックアップして、データ放送画面に表示するというもので、これも可能性を感じさせるアイディアだ。

さらに、アンケート、懸賞、ショッピングなどの双方向のサービスもかなり充実してきている。「データ放送なんてたいしたものはないだろう」と考えていると、意外に使えるサービスが見つかるのだ。

では、なぜ「使えるのに、使えないのか」というと、スマートフォンの存在だ。ここで紹介してきたサービスは、ほとんどスマートフォンのアプリにもある。テレビのデータ放送を見るよりも、ポケットの中にあるスマートフォンで見た方が楽なのだ。特に、天気予報や渋滞情報などは、スマートフォンの方が早く詳細だ。番組連動情報も、公式サイトを見れば、ほぼ同じ情報が掲載されている。ツイッターとの連動企画も楽しいが、考えてみたら、テレビを見ながら、スマートフォンのツイッターを見ればいいことだ。

データ放送の不便なところは、チャンネルごとにサービス内容が異なっていることで、使いたいサービスが、どこのテレビ局のものなのかを記憶しておかなければならないことだ。フジテレビの交通情報は便利で、よく使っていたが、それがフジテレビのサービスであることが最初はなかなか記憶できず、チャンネルをあちこち換えて探していたことがよくあった。だったら、スマートフォンの方が便利になってしまうだろう。

さらに、朝方や出かける前に、天気や渋滞情報をちょっと確認したいというときには、データ放送はイマイチの使い勝手になる。テレビを起動する、あるいはチャンネルを合わせて、数十秒はデータ受信が必要で、その間はデータ放送は見られない。ちょっと確認してから出かけたいという場合は、やはりテレビよりもスマートフォンになってしまう。

結論からいうと、データ放送は素晴らしいサービスだし、テレビ局もがんばっていると思うが、10年遅かったと思う。10年前なら、家庭内の情報センターの地位を、電話からテレビに奪うことができただろう。しかし、今ではパソコンが普及し、さらにはどこにも持って歩け、数秒でほしい情報にアクセスできるスマートフォンが手元にある。「使えるのに、使えない」というのは、そういうわけだ。

ただし、スマートフォンでもなかなかカバーできないデータ放送の機能がひとつある。それは、緊急時の災害情報だ。地震、津波、洪水といった災害が起きた場合、インターネットの情報サイトはアクセスが集中し、つながりづらくなることはじゅうぶん予想ができるし、携帯電話回線もつねにいっぱいの状態になるだろう。そのようなとき、放送電波で発信できる災害情報は、極めて効率がいいのだ。受信機の数がいくら増えても、トラフィックが混雑することがないからだ。

そもそも、地デジ化する理由のひとつは「データ放送で詳細な災害情報を見られるようになるので、安心安全」だった。しかし、使っていただければわかるが、データ放送は決して使い勝手が分かりやすいとはいえない。普段、携帯電話などの操作に慣れている人にとってはどうということもないが、ビデオの録画予約が苦手という人は、少し手こずると思うし、膨大なメニューから必要なサービスを探すのは手間がかかるだろう。

少なくとも、大規模な災害時には、各テレビ局が独自のメニュー提供を一時的に停止して、全局共通のメニューで災害情報を配信した方がいいと思うが、いかがだろうか。

また、地デジ対策として無料配布される簡易チューナーには、データ放送の機能が備わっていない。データ放送が受信できない、あるいは受信できるけど操作できないという情報弱者がかなりの数生まれてしまうと思うが、ここに対する対策は今のところ、あまり考えられていないようだ。

地デジ化の意義は、「電波の有効利用」と「安心安全社会の実現」で、電波の有効利用についてはどうも怪しいという話は、このコラムでもなんどか触れた。もうひとつの「安心安全」のかなめであるデータ放送も、情報弱者に対する配慮が薄いと思う。地デジ難民は生み出さないけど、情報弱者は生み出しますでは、安心安全社会は作れない。あと半年、地デジ化運動も、そちらに舵を切っていただきたいものだ。

このコラムでは、地デジにまつわるみなさまの疑問を解決していきます。深刻な疑問からくだらない疑問まで、ぜひお寄せください。(なお、いただいた疑問に個々にお答えすることはできませんので、ご了承ください)。