このコラムで何回も触れているが、スムースに地デジに移行したいのであれば、この11月ぐらいまでにはなんとかしておくべきだ。地デジ化するのに必要なのは、テレビを購入することと、アンテナを準備すること。このうち、テレビを購入することは難しくない。購入して配送してもらえばそれでおしまいだ。しかし、アンテナの準備はけっこう面倒だし、時間がかかる。アンテナ工事会社に頼んでも、現在では1週間ほどまたされることが多くなっているし、ましてや戸建て住宅で、アンテナからの配線を1階にも2階にもというように数ヶ所に分けるのであれば、屋内配線も交換する必要が出てくる場合もある。こうなると、工事が数日にわたる可能性もあるし、工事費もそれなりの負担が必要になってくる。さらに、賃貸住宅の場合は、家主と相談しなければならないし、工事費の負担をだれが支払うのかというややこしい問題も出てくる。

一方で、地デジのアンテナ工事の人員は足りていない(あるいはギリギリ)なので、今年の年末のボーナス時期には、工事の人員が足りず、工事実施までに長時間待たされることになるだろう。工事要員は、アンテナ工事の専門業者も多いが、現実には電器店の店員が兼ねていることが多い。つまり、テレビアンテナだけでなく、洗濯機の設置やエアコン工事なども兼ねている。来年4月からは引っ越し関連、5月以降はエアコン工事、6月以降は地デジの駆け込み需要と、忙しくなるので、工事までに相当な時間待たされることが予想される。つまり、スムースに地デジ化をしたいのであれば、可能ならば今年11月中、最悪来年3月中にカタをつけておくことが望ましいのだ。

しかし、そうは言っても、簡単に地デジ化に踏み切れない事情がある人も多いだろう。いちばん多いのは、マンション、アパートなどの賃貸住宅の方で、自分は地デジ対応テレビを買うつもり満々なのだが、住宅の共同アンテナが地デジ化に対応していないというケースだ。これは、地デジ化の政策にも問題があって、普及の状況を見て助成金などの対策を対症療法的に行っているので、待てば待つほど、助成金の額が大きくなる状況がある。賃貸住宅を数多く抱えている企業、家主にしてみれば、できるだけこのような助成制度を最大限利用したいと考えるのもしかたのないことだろう。

あるいは、近々引っ越しを考えている、建て替えを考えているという場合にも、アンテナ工事をするのに躊躇する気持ちがあるかもしれない。

このように、アンテナ工事に消極的にならざるをえない理由がある、あるいは工事を申し込んでみたら、高額な見積りになった、工事までに数週間待たされるという事態になったら、室内アンテナという方法を考えてみるのも悪くない選択だ。

アナログ時代の室内アンテナとデジタル時代の室内アンテナは、根本的に違っている。アナログ波で問題になるのは、ゴーストだった。電波は、山やビルに反射してアンテナに届くものがある。このような間接的に届く電波もアンテナが拾ってしまうと、二重映りのゴーストの原因となる。そこで、アナログ時代の室内アンテナは、指向性を極めて鋭くする設計になっていた。一定方向からの電波しかとらえないことで、間接的な反射波をできるだけ拾わないようにしていたのだ。その代償として、チャンネルを変えるたびに、アンテナの向きを手で調整してやらないときれいに映らないということになっていた。

しかし、デジタルでは、このようなゴーストが発生しない。間接波は、演算によってカットできる仕組みになっているためだ。そのため、地デジ用室内アンテナは、無指向性のものが多く、最初に置くときにある程度の方向を決めておけば、あとはそのままにしておけばよく、チャンネルを変えるたびに、向きを調整するなどという必要はない。

こういう性質があるので、窓辺や棚の上、ベランダのひさしの上など、手が届かない場所に設置してもよく、見た目もすっきりさせることができる。もし、本格的なアンテナ工事ができない理由があるのであれば、室内アンテナという手段はじゅうぶん考えていいだろう。価格も1万円以下のものがほとんどなので、出費の面からも安上がりになる。

ただし、室内アンテナ最大の問題は、「ちゃんと映るかどうか」だ。いきなり買ってみて設置ではギャンブルになってしまう。特に鉄筋作りの建物、ガラス内に鉄線が入った窓などは、電波を遮蔽する原因になるので、テレビ塔に近い地域でも室内では受信ができないということもけっこうある。

まず、チェックしてほしいのがデジサポのサイトにある「地デジ受信可否連続調査」だ。これは約2mの高さにアンテナを設置した測定車が道路上を巡回し、NHKの地デジ放送がクリアに受信できるかどうかを調査した結果を、地図上にまとめたものだ。青い線で描かれているのが受信良好、オレンジの線が要詳細調査(つまりは受信に問題あり)なので、自宅付近の地図を表示させて、周辺が青い線ばかりであれば、室内アンテナでも受信できる可能性が高い。

しかし、これはあくまでも道路上の測定結果であるので、そのまま室内で受信できるかどうかはわからない。そこで、もうひとつ利用してほしいのが、「地デジアンテナキット無料貸し出し制度」だ。1週間無料で、地デジ室内アンテナとチューナーの他、必要なケーブルなどを貸してくれるというもので、申込書はデジサポのサイトからダウンロードでき、郵送またはFAXで申し込みを行う。申し込みには、免許証、健康保険証、パスポートなどの身分証明書のコピーを添付する必要がある。これを利用して、映るかどうかを確認して、それから室内アンテナでいくか、あるいは本格的なアンテナ工事を頼むかを考えても遅くないだろう。

関東圏では、2012年に東京タワーから東京スカイツリーへの移行が予定されている。今、アンテナ工事をすると、過剰な工事になる可能性があったり、2012年に再度アンテナの調整が必要になる可能性もゼロではない。ビル陰などの影響が、電波塔の位置が変わることで変わってくるからだ。もし、室内アンテナでいけるのであれば、今は室内アンテナで対応しておいて、東京スカイツリーからの電波発射が始まった後で、アンテナ工事をうするというのもひとつの考え方だ。その頃になれば、アンテナ工事の混雑も解消されているだろう。

アナログ時代の室内アンテナは、あくまでも補助的なもの、簡易的なものというイメージだったが、デジタル時代の室内アンテナは、アンテナのひとつの選択肢として使うことができる。屋外アンテナだけにこだわらず、室内アンテナもうまく活用していただけれたらと思う。

デジサポの「地デジ受信可否連続調査」を見ていくと、けっこう「要詳細調査」の地域があることに気がつく。図は、東京の中野付近。原因はよくわからないが、新宿の高層ビル群が影響しているのだろうか。自宅付近の状況を一度確かめておくと、テレビを購入する前、アンテナ工事をする前の参考になる