外国人がいちばん大好きな日本の観光地である浅草に先日遊びにいったら、東京スカイツリーがかなりの迫力で見えていた。現在の高さは470m。完成時の高さが634mだから、75%の高さに達している。雷門前に立つと、ちょうど雷門通りの東側に東京スカイツリーがそびえ立っている。下町の風景画のほとんどに、東京スカイツリーが描かれることになるだろう。

観光資源としての東京スカイツリーにも期待が高まる。東京都墨田区が公表した「新タワーによる地域活性化等調査報告書」(平成20年2月)では、来場者数を年間552.4万人と予測している。これは東京ディズニシーの来場者にほぼ匹敵する。駐車場や公衆トイレなどの不足が心配されるが、着々と再来年春の開業に向けて準備が進んでいるという。地元への波及効果も決して小さくないだろう。

ところで、東京スカイツリーは本来テレビ塔だ。2011年7月にアナログが停波された後は、東京タワーから地デジ放送の電波が発射されつづけるが、2012年春に東京スカイツリーが開業、数ヶ月の試験放送期間を経て、地デジ放送の電波発射は東京タワーから東京スカイツリーに切り替わる。つまり、関東圏の人は、アナログ→東京タワー(地デジ)→東京スカイツリー(地デジ)と2回切り替わることになるのだ。

特に問題になるのは、一度東京タワーにアンテナを向けて地デジ放送を見始めた人が、東京スカイツリー切り替え時に、アンテナの向きを調整しなくていいのかという問題だ。一部報道では「総務省の見解は問題なし」となっているが、放送事業者が配布しているパンフレットには、基本的には向きの調整は必要なしとしているものの、「仮に受信不良となった場合は、デマンドを基本に放送事業者が適切に対応する予定です」という一文が入っている。

結論からいうと、ほんとうのところはだれにもわからないというのが正解のようだ。某アンテナメーカーに取材したところ、あくまでも一般論として、「テレビに使われている一般的なUHFアンテナの場合、30度以上ずれたら調整が必要で、60度以上ずれたら映らなくなる可能性が高い」という話だった。また、某テレビ関係技術者は、「スカイツリーが開業後、試験電波を発射し、それを測定車で受信するという検証作業をすることになるはず。その結果を見ないとなんともいえない」という。

つまり、ほとんどの場合は、アンテナはそのままで受信ができ、問題が出た場合は、放送事業者(放送局)が個別に対応するということのようだ。

影響は一部なのかもしれないが、東京スカイツリーはさまざまな影響を及ぼしているようだ。茨城県かすみがうら市では、東京スカイツリーによる電波障害を市民に注意喚起している。かすみがうら市は現在東京タワーからの電波を受信してテレビを見ている。ところが、東京スカイツリーが東京タワーからの電波の障害物となってしまって、電波が受信しづらくなってしまう地域があるのだ。地図を見ると、ほんとうに棒状に受信障害地域が広がっている。

阿見町の電器店に聞いたところ、「当該地域でも受信できないというケースは聞いていないが、受信強度が弱いことが多く、ブースターを追加したり、アンテナの向きを細かく調整するなどの作業が必要になっている」という。もちろん、この地域も、東京スカイツリーから電波が発射されるようになれば、なんら問題なく受信できるようになる。

もうひとつ切実な問題なのが、現在ビル陰などによる難視聴地域になってしまっている人だ。地デジに対応するためには、共同受信アンテナを立てたり、ケーブルテレビなどに加入するしかなく、その工事費、費用は決して安くない。障害となっているビルが後から建築された場合は、そのビルの持ち主と交渉して、費用を支払ってもらうことができるが、これがスカイツリーへの切り替えでややこしいことになっている。

2011年7月にはアナログが停波してしまい、2012年夏または秋の東京スカイツリーからの地デジ放送開始までの1年間は、東京タワーから地デジ放送を受信するしかない。万が一、電波障害があった場合は、その障害となっているビルの持ち主と交渉することになるが、ビルの持ち主にしてみれば、共同アンテナを建てるなどのコストのかかる方法ではなく、ケーブルテレビに加入してもらい、その工事費と基本料金を負担するという方法を取るだろう。しかも、その負担は東京スカイツリーの放送開始まででいいのだ。東京スカイツリー放送開始以後は、条件が異なってくるので、そのビルが電波障害の原因になっているかどうかはわからないので、それ以降も基本料金を負担する必要はない。ということは、電波障害を受けている住民は、東京スカイツリー開業後に自前でアンテナを建てるか、ケーブルテレビの料金を自前で支払うかしなければならなくなる。

個人の家庭でも、東京タワーの電波が受けづらいので、特別な工事をしてもらったという場合、東京スカイツリー放送開始後は、ほとんどが無駄になるだろう。たった一年間のためだけに無駄な出費を強いられることになるが、これはだれも補償してくれない。

これはだれも指摘しないし、今さらいってもしかたのないことなのだが、東京スカイツリーの開業と、アナログ停波の順序が逆になっていることがそもそもの原因なのだ。もっともスムースなのは「スカイツリー放送開始→アナログ停波」で、これであれば、アンテナ工事は1回で済むし、ビル陰電波障害問題もかなりスムースに解決していくことができる。

昔の新聞記事を遡って読んでみると、東京スカイツリーの当初の計画は「2011年開業」だった。アナログ停波に間に合わせる計画だったのだろう。本来は、そのスケジュールでいくべきだった。もちろん、さまざまな事情があって開業が伸びてしまうのはしかたのないことだが、地デジ化計画そのものに不手際があるということは認識されるべきだし、今後のためにも、原因と責任をはっきりとしておく必要があると思うのだが、そこを追求しようとするマスメディアは皆無といっていい。今日も天気がいい。きっと建設中の東京スカイツリー周辺は、見物客で賑わっていることだろう。

放送事業者(NHKと民放)が配布しているパンフレットには、東京スカイツリーからの放送開始で、アンテナの向き調整の必要はないとしているが、万が一問題が起きた場合は「デマンドを基本に対応していく」と書かれている。なじみのない言葉だが、要するに「申し出があった場合には、向き調整の工事費などを補償する」ということだと思われる

茨城県かすみがうら市では、東京スカイツリーそのものが障害物となって、受信しづらい地域が生じている。まったく受信できないという例は報告されていないものの、感度の高いアンテナ設置やブースター(増幅器)の追加、あるいは水戸放送局にアンテナを合せるなどの作業が必要になっているという。問題の地域は、スカイツリーの影のように、細長く伸びている