前回は、電波利用料の不公平の話をした。ところで、そもそも電波利用料はなんのために徴収されているのだろうか。日本の電波利用料制度は、総務省のサイトによると「適正な電波利用のため」に存在していると書かれている。わかりやすく言えば、違法電波を監視し、摘発するための経費だ。そのために、違法電波が使われやすい個人無線局の負担が比較的に大きくなり、違法電波を使うことが常識的に考えづらい放送無線局の負担が比較的に小さいのは、それなりに理にかなったものであると言えなくもないという話を前回した。

しかし、それでいいのだろうか。諸外国の電波利用料制度と比べてみよう。総務省の電波有効利用研究会に提出された資料「諸外国の電波利用料制度」を読めば、日本の電波利用料制度がいかに特殊なものであるかがよくわかる。

世界各国の電波利用料制度には「日本型」「米国型」「フランス韓国型」「英独型」の4種類がある。このうち、日本型だけが大きく異なっているのだ。どこが異なるのかというと、日本型以外はすべて「管理経費の財源」と「電波の有効利用促進」というふたつの目的のために電波利用料を徴収しているが、日本型は「管理経費の財源」のみが目的で、「電波の有効利用促進」はまったく考えられていない(ただし、研究開発への補助などは一部行われている)。

でも、電波利用料を徴収することで、どうして電波の有効利用促進ができるのだろうか。それができるのである。1無線局いくらという税に近い方式ではなく、オークションなどの電波の経済的価値を反映した使用料を徴収することで、電波の有効利用が促進されるだけでなく、国民の利益が増していくことができるのだ。

電波オークションというのは「これこれの電波を開放します。使いたい人は値段をつけてください」と政府が公表して、その電波帯を使いたい企業が入札を行っていく仕組みだ。これでどうして電波の有効利用が促進されるのか。

たとえば、ある企業が今までの3倍の効率で電波を使える携帯電話システムを開発したとする。従来の1回線分の電波帯で3回線の通話ができるのだから、普通に携帯電話会社を運営したら、売り上げは従来の3倍になるはずだ。現実には、この携帯電話会社は通話料を従来よりも引き下げるだろう。それでも、旧システムを利用した携帯電話会社とオークションで争った場合は、高い価格を入札できるはずだ。

また、たとえば、テレビ局A社とB社が争ったとする。高い金額を入札できるのは、より多くの視聴者を獲得できているテレビ局だ。視聴者が多ければ、それだけ収入が見込めるので電波利用料もたくさん支払える。視聴者が多いということは、それだけ多くの人が見たいテレビ局ということになる。

このように経済的価値を、なんらかの形で電波利用料に反映させていくことで、より電波が有効に利用できるようになったり、国民が望んでいる使い方に誘導できていくのだ。

よく「日本の携帯電話ユーザーが負担している電波利用料は250円。ところが米国は6円なのです」という格差を強調する言い方があるが、これは厳密には正しくない。なぜなら、米国の電波利用料収入は約240億円だが、オークション収入が4600億円もある。このオークション収入というのは、電波を利用する企業が支払っているのだから、携帯電話の場合は、この額も結局は携帯電話ユーザーが回り回って負担していることになる。正確ではないが、大ざっぱな計算をすれば、米国の携帯電話ユーザーも115円程度の電波利用料を負担していることになる。

米国は日本と同じ1993年に、連邦通信委員会(FCC)の運営費にあてるため、電波利用料制度を導入した。ここまでは日本と同じだが、翌1994年には、電波の有効利用を進めるために携帯電話を中心にオークション制度を導入した。

英国やドイツは、電波利用料の他に、携帯電話はオークション、固定局レーダーなどは経済的価値を反映した利用料という3本立ての制度を取っている。ただし、3G携帯電話のオークションでは問題が起こった。携帯電話会社にとって、3G携帯電話の電波帯を確保できるかどうかは死活問題であるため、経済的価値を度外視した落札額となってしまったのだ。2000年4月には行われた3G携帯電話のオークションでは、13事業者が参加して5事業者が落札。総額は4.5兆円という高額になった。英国の携帯電話事業の売上規模が1.6兆円、ドイツが2.7兆円であるのに、落札総額が英国4.5兆円、ドイツ5.8兆円だった。

このため、3G携帯電話の電波を確保できた事業者の資金力が失われ、設備投資などが順調にできず、欧州での3G携帯電話の導入が遅れたといわれ、電波オークション制度の弊害としてよく例にあげられる。

ただし、フランス、スペイン、スウェーデンはオークション制度ではなく、日本と同じように比較審査をして免許をだす仕組みで、フランスが売上規模が1.2兆円で免許料1.2兆円(後に減額)、スペインが1.2兆円で免許料676億円、スウェーデンが2350億円で免許料580万円+売上の0.15%と、負担は大きくないのに、やはり3G携帯電話の普及は遅れた。

欧州で3G携帯電話の普及が遅れたのは、オークション制度の弊害が原因というより、むしろ第2世代携帯電話がじゅうぶんに普及していて、利用者もそれで満足していたということが大きかったのではないだろうか。

隣の韓国は、出損金という面白い方式をとっている。原則は日本と同じ免許申請をして比較審査をするという方式だが、免許申請のときに「電波利用料の他に、いくらまで払えるか」という出損金を申告するのだ。この額が審査の際の評価項目になっている。といっても、最高額を支払っても100点満点のうち2点の評価なので、大きく影響を与える項目ではない。それでも、経済的価値を導入しようとしているのだ。

このような諸外国の「経済的価値導入により電波の有効利用を促進する」という考え方は、日本の電波利用制度にはない。あくまでも、電波の適正利用管理事務の財源という考え方だからだ。

しかし、だとしたら、日本の電波利用料制度は大きな矛盾を抱えることになる。電波の適正利用管理というのは、具体的にいえば「通報による違法電波局の摘発」と「測定車によるパトロール」だ。これが基本である限り、予算はそうは膨らむことはないはずだ。もちろん、携帯電話の数が爆発的に増えたから、以前と同じ予算では無理だろうが、少なくとも15年間で10倍以上に膨らむ必要はないだろう。

人によっては、「電波利用料が15年で10倍以上に増えてしまったので、使い切れない金を使うために地デジ化を持ちだしてきた」という人もいる。これはあまりにうがった見方だろうが、携帯電話の急増による電波利用料の急増がなければ、地デジ化は財源問題で暗礁に乗り上げていたことはありえるだろう。

総務省資料「諸外国の電波利用制度」から転載。電波利用料制度の考え型には、4種類あるが、日本型だけ「電波の有効利用促進」が空欄になっていることに注意していただきたい