なんだか3Dがすごいことになってきている。韓国のサムスンはすでに米国で3Dテレビを発売していて、47型で1700ドル(約15万円)という低価格。4月にはパナソニック、6月にはソニーも発売予定だ。さらに、ニンテンドーまで裸眼で立体映像が楽しめるニンテンドー3DSを来年3月に、ソニーもプレイステーション3D機能をプレイステーション4で搭載すると噂されている。そして、3D映画「アバター」などの大ヒット。確かに3Dは今きてる!しかし…。

話題になっている「アバター」を見て、これは楽しいと正直に思った。幸いにもRealD方式で見たので、メガネが重いなどの不愉快な感覚はなかった(液晶シャッター式のXpanD方式はメガネが重いという不評が多い)。確かに実写映像がやや粗い感じにはなるが、逆に実写部分とCG部分の落差が埋まって、全体がうまくなじんだ感じになる。さらに、女性や黒人などの凹凸の多い身体に立体感が出て、実に生々しくリアルに感じられる(といっても、出てくる女性はシガニー・ウィーバーぐらいなのだが)。CGを多用した映画や、CGのみの映画、あるいはダンス系のパフォーマンスなどは、もう2Dよりも3Dで見たくなった。映画の世界では、間違いなく3Dは一定の地位を占めることになるだろう。

そして、地デジも3Dに進みそうな勢いだ。サムスンが米国で先行発売し、続いてパナソニック、ソニーと3Dテレビが発売される。3D対応のBDプレイヤーも4月には登場し、当然「アバター」のBlu-rayが発売されることで、大きな盛り上がりを示すことになるだろう。さらに、ニンテンドー3DSは来年登場し、プレイステーション3Dも追いかけてくるだろう。携帯電話では日立のWoooケータイH001がすでに3D化している。デバイスもシャープが3D液晶を開発していて、ニンテンドー3DSも液晶でのつきあいが深いシャープのものを採用するのではないかとも噂されている(任天堂は詳細に関しては一切発表していない)。なんか3Dはすべてが出そろっている感じだ。

もちろん、3Dが定着するかどうかはコンテンツ次第なのだが、個人的に3Dテレビに関しては不安な点がいくつかある。というのは、テレビは画面が小さいということなのだ。パナソニックの3D VIERAで最大サイズが54V型、ソニーの3Dブラビアで最大サイズで60V型だ。このサイズのテレビを買う人は、2mほどの至近距離から見るというのではなく、リビングが広いから、大画面テレビを買う。遠くから見るスタイルだから、大画面テレビがほしくなるのだ。この場合、フレームで区切られた画面が3Dになっても楽しいだろうか。「アバター」が楽しめたのは、映画館の大スクリーンで観賞して、視野すべてをスクリーンで覆ってしまえたので、3D映画の世界の中に浸ることができた。しかし、60V型でそれができるだろうか。広いリビングに置くと、意外とテレビって小さい。3D映像が見えている脇に、カレンダーや熊の置物などが見えるとしたら、3D世界に没頭できないような気がする。

もうひとつは、3Dと呼ばれてはいるが、実のところ「2次元的3D」でしかないということだ。極端にいうと、背景のある舞台に人物看板が何枚か立ててある映像にすぎないのだ。たとえば、ダンス映像を3Dで見ていて、ダンサーが前面に踊りながら歩み寄ってきたとする。視聴者がそのダンサーの横の姿を見たいと思って、身体を横にずらしても、ダンサーの脇腹は見えない。単にそれぞれに奥行きがついているだけの3Dなので、見る位置を変えても、視点はほとんど変わらない。映画の場合、スクリーンが非常に大きいし、席に座っているので、視点は動かせないため問題にならないが、自宅でテレビを見るときは「自分の見たい角度で見たい」と思うはずだ。

映画は、映画が用意した世界に観客が入りこんでいく。しかし、テレビの場合、視聴者がテレビの世界を積極的に操作したいという欲求がある。自分好みのアングルで見たいと、顔をあちこちに動かし視点を変えようとしても、視点は変わらない。ここをかえって不満に感じてしまうのではないだろうかと思うのだ。

一方で、ニンテンドー3DSは立体感がさほど鮮明でなくても成功しそうな予感がする。3Dというより浮き出て見える程度であっても、それをゲームがうまく利用することで、楽しい遊びはいくらでも考えつくからだ。たとえば、ゴルフゲームでグリーンの凹凸が実際に見えるだけでも楽しいし、立体を組み合わせる脳力トレーニング、目の運動をして視力を回復するソフトなど、疑似3Dであっても、それをコンテンツ側がうまく利用することで、さまざまな発想ができる。DSがタッチペンという技術を、コンテンツがうまく利用して成功したのと同じような期待がもてるのだ。

映画の大スクリーンなら3D世界にどっぷり浸ることができる。ニンテンドー3DSなら疑似3Dの箱庭世界を触って遊ぶことができる。しかし、テレビは画面サイズが中途半端な上に、視聴者の感覚は、映画ほどに受動的でもなく、携帯ゲーム機ほどに積極的でもない。3Dテレビ用コンテンツをどう作ればいいのか、実に難しい問題ではないかと思う。あらかじめ予言しておこう。映画「アバター」は絶賛されているが、これがBlu-rayになったら、間違いなく「思ったほど面白くなかったよ…」という意見がでるだろう。あの映画の構造やストーリーはばかばかしいほど単純で、それは製作者が3D映像に浸ってもらうために、意図的にシンプルにしているのだと思う。それが大スクリーンでは成功したが、テレビで観るときは、視聴者が能動的に作品世界に関与していき、批評家的な視点が生まれるので、「いくらなんでもシンプルすぎる」と感じることになると思う。3Dテレビが普及するかどうかは、コンテンツにかかっている。技術よりも、いいコンテンツを発想できるかどうかが普及の鍵になる。個人的には、視点を固定した歌舞伎とかシルク・ド・ソレイユの中継なんかを3Dで見たら面白いと思うが、さて、どうなっていくだろうか。いろいろな意味で楽しみだ。

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