図1 ルネサス執行役員常務でありオートモーティブソリューション事業本部長の大村隆司氏

ルネサス エレクトロニクスは10月31日、同社のユーザー向けカンファレンス「R-Carコンソーシアムフォーラム」を開催、その席上、同社執行役員常務でありオートモーティブソリューション事業本部長の大村隆司氏(図1)は、Renesas Autonomyのコンセプトに3つの要素があると定義した。「オープン」、「イノベーティブ」、「トラステッド」である。

オープンについては、半導体メーカーとしてのルネサスが持つクルマ用のSoC製品であるR-Carシリーズにおけるソフトウェア開発向けパートナーの数が増加し続けていることがその意味を端的に表している。2016年のR-Carコンソーシアムフォーラムでは187社だったパートナー数が今年は224社と40社近く増えた(図2)。SoCあるいはシステムLSIでは、多くのパートナーにソフトウェアを記述してもらうことで製品の拡大を図ることができる。結果として、もちろん顧客も増える。

図2 R-Carコンソーシアムのメンバー企業 (資料提供:ルネサス エレクトロニクス)

R-Car製品にソフトウェアをコーディングし、他社と差別化するための機能を追加するための開発環境を、オープンソースをベースにして用意している(図3)。このための統合開発環境にはEclipseベースのIDE、開発言語のフレームワーク、PC上での開発環境、ハードウェア実機による開発環境、自動車グレードのLinux(AGL)環境での開発ツールなどを揃えた。例えば、開発言語のフレームワークにはマルチコア/マルチスレッドのCPUシステム向けのプログラミング言語には、OpenCLが使えるCodeplayの製品を使った。また視覚情報のコンピュータビジョンのライブラリにもOpenCVやOpenVXが使える。また、ハードウェア実機としてR-Carになじみの薄いパートナーや顧客にはスターターキットを発売から1年で200社に2500台を出荷したという。こういったオープンな言語でソフトウェア開発できるため、仲間をたくさん増やすことができるのだ。

図3 揃えているオープンな開発環境群 出典:ルネサスエレクトロニクス

R-Carはハイエンドから普及版まで

イノベーティブはルネサスの持つ半導体技術そのものであり、これまでのR-Carシリーズの製品ポートフォリオである。例えば、このフォーラムで発表された新製品「R-Car D3」はイノベーティブな製品であり、3Dグラフィックスのクラスタをローエンドのクルマにも普及させるための低コストのキーデバイスである。

図4/図5 10月31日に発表されたばかりのR-Car D3(左)と、それを搭載した評価ボード(右)

最近、電気自動車のテスラモーターズのクルマに見られるように、ダッシュボードは大きく変わっている。従来は速度メーターとタコメーター(回転数を表示)は機械的な針式のメーターであったが、このダッシュボードに液晶表示が許されるようになり、全面液晶のダッシュボードが登場してきている。これからは、液晶表示が主流になることは間違いなく、従来と違い、受け入れられる価格帯で3D表示を低消費電力で速度メーターやタコメーターを表示できるようになる。そのためにメーター類、グラフィックス表示部分はリアルタイムで応答しなければならない。

R-Car D3は、エントリクラスのクルマでも液晶で3Dグラフィックスクラスタ画面に速度メーターやタコメーターを表示できるようにした低コストの製品。従来は、ハイエンドクラスのダッシュボードには、上位製品のR-Car H3やR-Car M3を使っていたが、今回の製品は解像度や描画のポリゴン数を削減し価格を抑えた。また、ピン数も減らすことで、安価な4層プリント基板を使って設計できる。さらにメモリはDDRメモリとフラッシュメモリがそれぞれ1個ずつで済むようにしたため、従来の2Dクラスタと同じ価格で3Dクラスタを液晶で構成できるとしている。その結果、システムコストをハイエンド製品の40%に抑えられるようになった。

クルマのダッシュボードの速度メーターやタコメーターはリアルタイムで表示しなければならないため、Black BerryのリアルタイムOS「QNX」やGreen-Hills SoftwareのリアルタイムOS「INTEGRITY」を使う。またハイエンドのR-Car H3など向けAltiaのHMIツールである「DeepScreen」コードジェネレータを使っていたが、このR-Car D3もそのまま使えるという。

ルネサスはもう1つのイノベーティブの例として、ソフトバンクと共同で、ドライバー(運転手)の感情を理解して最適解を応答する「感情エンジン」を紹介した(図6)。デモカーに搭載した、このAIシステムは機械学習を使い、ドライバーごとに声のトーンや顔認識などのデータから感情を読み取り次の行動を提案するというもの。ドライバーの顔をカメラで撮影し、まぶたの位置や鼻や口との距離などから個人を認識し、まぶたが閉じると眠たいと判断すると、ドライバーへ音や声などで警告する。機械学習のデータは車内のエッジとクラウドに貯め、両方を利用するという。

図6 ソフトバンクと共同開発した「感情エンジン」 ドライバーとの応答や顔の表情などのデータを収集、機械学習を使ってドライバーの好みを取り込む

実績こそ信頼

トラステッド(信頼)に関しては、これまでの実績を掲げた。2017年初頭からパナソニックとの協業や、中国の長城汽車への納入、トヨタのカムリや日産リーフへの納入など、次々とその実績が公表されてきた。今回はさらに自動運転車の早期普及に向け、トヨタとデンソーと共に2020年の実用化に向けて開発していることを明らかにし、さらにその頭脳となる車載情報やADAS向けにR-Carと、制御用のマイコンRH850を含む自動運転車向けソリューションが採用されたことを発表した(図7)。自動運転車のECUをデンソーと共に開発しトヨタに納める。

図7 トヨタが20年に実用化を目指す自動運転車にR-Carが採用される (資料提供:ルネサス エレクトロニクス)

さらに米国で発売されるトヨタの新型カムリのインフォテインメントシステムにAutomotive Grade Linux(AGL)を搭載したR-Carが全面的に採用されたことも明らかにした。また、その前には日産自動車の新型リーフに搭載されている自動駐車システムにR-CarとRH850が採用されている。

なお、今回のフォーラムでは、実車としてトヨタ車体の超小型電気自動車「コムス」を改造した液晶表示機能デモも行われていた。図8にあるR-Car V3Mの開発ボードは、サラウンドビューモニターを表示するものであり、しかもリアルタイムで360度から視点を即座に変えることのできるシステムとなっている。R-Car H3ボードは、前方のカメラからクルマや人を認識するシステムに使われている。左のR-Car V2Hボードは、左右のドアミラーを取り除きカメラ映像をリアルタイムで表示する。カメラは魚眼レンズで撮影するため、極座標からデカルト座標へ変換する処理を行っている。

図8 超小型ビークル「コムス」にサラウンドビューモニターと、左右ドアミラー除去、前方物体認識の機能を搭載

今年に入りルネサスが、同社のチップを採用するクルマメーカーなどを明らかにできるタイミングが次々と訪れている。ルネサスは、オープン、イノベーティブ、トラステッドをコンセプトにして自動運転車を開発するという信念でRenesas Autonomyを創り上げた。2016年度の地域別の採用実績では、欧米が54%、アジア16%、日本30%という結果で、海外比率は70%に達した。さらにこの比率が高まれば成長もさらに加速するに違いない。