【連載】

カーエレクトロニクスの進化と未来

103 内燃エンジン車を捨てる選択をしたVolvoの決断 - すべてのクルマを電動化

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スウェーデンのクルマメーカーVolvo(ボルボ) Carsが、2019年以降に発売するクルマは、プラグインハイブリッドとマイルドハイブリッド、電気自動車(EV)だけを生産し、内燃エンジン車の生産は中止すると発表した。これまで設計製造してきたガソリン車とディーゼル車という2つの内燃エンジン車の生産を中止する。これまで実績のある大手クルマメーカーが内燃エンジンを捨てるという決断をしたのは、Volvoが初めて。

Volvoは北欧という寒さの厳しい国で自動車を生産してきたが、かつては石炭が空気を汚し街並みの価値を下げていた。欧州の中でも特に北欧は、環境に対する意識が高い。EU(欧州連合)は再利用できる廃棄物の保存を規制により禁止しているが、スウェーデンではこの規制が導入される前から国内で規制を設けていたという1)

クルマ産業も環境への意識は高いが、いきなり完全な電気自動車(EV)だけを生産する訳にはいかない。コストやテクノロジーなどがユーザーの意識と必ずしも一致しないからだ。環境にやさしいことは歓迎するがコストが上がっては困る、という訳だ。そこで、EV車の他に、内燃エンジンとモータの2つを持ち合わせるハイブリッド車も生産する。ただし、純粋な内燃エンジンのみのクルマは生産しない、という訳だ。ハイブリッド車は、48V系を使い始動時のモータで内燃エンジンをアシストし、ブレーキ時に回生ブレーキによりバッテリに充電するというマイルドハイブリッドと、モータ動力を主体とするプラグインハイブリッドを生産する。

きれいな空気を都市にもたらす

図1 Volvo Cars社長兼CEOのHankan Samuelsson氏 (出典:Volvo Cars)

同社社長兼CEOのHankan Samuelsson氏(図1)は、「時期を明言しクルマをすべて電動化すると宣言したのは大手クルマメーカーでVolvoが初めて。これによりCO2削減ときれいな空気を都市にもたらす。当社の取締役会で議論した結果、電動化に自信を持てたため、これを宣言(コミットメント)した」とビデオ2)で語っている。

同社は2025年までには100万台のEVないしプラグインハイブリッド車を生産するという。プラグインハイブリッドは、モータと内燃エンジンの両方を使うが、プラグインハイブリッドのデザイン(図2)では、拡張性の高いモジュラアーキテクチャで設計するため、全電動化(図3)へはスムーズに移行しやすいとしている。

図2 モジュラ方式のプラグインハイブリッド (出典:Volvo Cars)

図3 モジュラ方式の電気自動車 (出典:Volvo Cars) 業務フロー作成画面

またマイルドハイブリッド(図4)で使われる48V系の回生ブレーキのシステムでは、電圧を上げることによって、電線を細くできるため、ケーブルを軽量化しやすい。また、モータを利用する場合も12V系よりはパワーを大きくできる。モータは駆動力にも発電機にもなり、特に回生ブレーキはバッテリに電気(正確には電荷)を貯めることができる。

図4 48Vシステムのマイルドハイブリッド (出典:Volvo Cars)

また、フランス政府は、2040年までに内燃エンジンのクルマを禁止すると発表した3)。電動化の動きはもはや止められなくなっている。フランスは、ドイツと比べ、電動化はむしろ遅れてきたが、政府としてコミットした背景には、米国トランプ大統領による2015年のパリ協定離脱、という動きがある。特に、フランスのマクロン大統領は、トランプ大統領の「米国を再び偉大な国に(Makes America Great Again)」というメッセージに対して、「地球を再び偉大な惑星に(Makes Planet Great Again)」と皮肉っている。

環境問題解決で競争力をつける

これまでのテクノロジーの歴史を見ていると、かつての米国が排ガス規制案(マスキー法)を自動車メーカーに押し付けたものの、保守的な米国の自動車メーカーはこの法案に反対し、困難であることを訴え続けたが、日本のホンダやマツダ、トヨタなどがこの規制をクリアした。困難ながらも規制を達成した日本車は、排ガスを減らすことと燃費を改善することとはほとんど同じことに通じるため、燃費の良さや品質の高さから、米国でシェアを大きく伸ばした。

電気自動車を低コストでガソリン車並みの航続距離を達成する困難もマスキー法をクリアしたことと似たようなものだ。つまり困難と思える課題を克服することで、企業はライバルに大きく差をつけることができる。ある意味で、チャンスでもある。

現実に、電池そのものの寿命や低コスト化、高エネルギー密度だけではなく、バッテリ制御回路でも安全を確保したうえで、なおかつマージンを減らし、航続距離を延ばすテクノロジーも開発されている。電池の航続距離の短さがEVの欠点であったが、その問題解決は時間の問題となってきた。電動化は間違いなく進む。

特に欧州は電動化を進めているため、日欧が世界をリードすることになり、米国は日欧から遅れることになる。トランプ大統領によるパリ協定の離脱を受けて、米国のEVカーメーカーTesla MotorsのCEOであるElon Musk(イーロン・マスク)氏は大統領の諮問委員を抜けた。

Teslaは米国政府の意向に反することになるだろうが、電動化を進めることで日本と欧州との競争で揉まれながら、成長路線をひた走ることになる。Teslaの決算はまだ赤字が続いているものの、株価は上昇し続け、同社の時価総額は、GM(General Motors)も抜くほどになっている。

参考資料

  1. 末岡洋子「環境先進国・スウェーデンからのメッセージ その1:ストックホルムの場合」、マイナビニュース、(2009/03/02)
  2. Volvo Cars to Go All Electric、Volvo Carsのホームページ(2017/07/05)
  3. 例えば、The Telegraph紙「France to ‘Ban All Petrol and Diesel Vehicles by 2040'」
    Newyork Times紙「France Plans to End Sales of Gas and Diesel Cars by 2040」CNN Tech News「France Wants to Ditch Gas, Diesel-Powered Cars by 2040」など

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インデックス

連載目次
第104回 到来目前のコネクテッドカー時代 - e-Callのテストシステムを日本NIが構築
第103回 内燃エンジン車を捨てる選択をしたVolvoの決断 - すべてのクルマを電動化
第102回 自動車産業の構造変化を見逃さずコネクテッドカーに注力するWind River
第101回 レベル5の自動運転に対応した設計ツール - メンターが提供を開始
第100回 ADAS/自動運転車の開発・検証するMathWorksのプラットフォーム
第99回 燃料電池の劣化を短時間で検出するインピーダンス法を開発
第98回 EVのバッテリマネージメントICを無線でつなぐ
第97回 進化するEV向けワイヤレス給電技術
第96回 ポルシェの新型パナメーラはコネクテッドカー
第95回 自動車分野に新ブランドで攻勢をかけるMentor(後編)
第94回 自動車分野に新ブランドで攻勢をかけるMentor(前編)
第93回 コネクテッドカー時代に不可欠なセキュリティチップをInfineonが開発中
第92回 自動運転に向けてAI利用を進めるNVIDIA
第91回 冗長構成に向いたARMのCortex-R52安全管理プロセッサ
第90回 GNSS+GPSの測位チップで、測位精度を向上させたu-blox
第89回 ADAS/自動運転のシミュレーションデータからビッグデータ解析まで可能に
第88回 酔っ払い運転をテクノロジーで防ぐ
第87回 クルマにも大容量ストレージが搭載される時代が到来
第86回 ゴムまりのようなタイヤのコンセプトカーをGoodyearが提案
第85回 車内での音声認識を確実にするNuanceの騒音抑制技術
第84回 ルネサスのクルマ用半導体の戦略と戦術(後編)
第83回 ルネサスのクルマ用半導体の戦略と戦術(前編)
第82回 クルマの全体最適化を容易にするメンターのソフトウェア
第81回 クルマのコンピューティング機能を高めたR-Carシリーズの狙い
第80回 衝突防止レーダー時代が到来
第79回 東京モーターショーで高成長を確信したクルマ用半導体の未来
第78回 ビデオと音声を同期しながらEthernetで通信できる - Connected OSの背景
第77回 ルネサスのV2Xチップ、欧米で実証実験
第76回 ビデオ映像を1ms以下の遅延でイーサネット伝送できるルネサスのSoC
第75回 自動運転のクルマを目指し、さまざまな手を打つZMP
第74回 どっこい、鉛蓄電池も進化する
第73回 ADASの進化にはプログラマブルSoCで対応
第72回 クルマのナンバープレートが消える日
第71回 Infineon、HEV/EV用のIGBTモジュールの次世代版を開発中
第70回 車内ワイヤレスネットワークによりハーネス除去を目指す英国ベンチャー
第69回 クルマの安全性向上と共に増えるFPGAの実装
第68回 ルネサス、ソリューション提案を本格化-未来のクルマのロードマップを示す
第67回 コネクテッドカーをよりセキュアにするNXP
第66回 ルネサスの制御マイコンRH850はソフト開発の負担を軽減
第65回 欧州のクリーン化で世界を攻めるInfineon
第64回 画像合成・認識・視点変換・座標変換を搭載したADASチップをルネサスが実現
第63回 クルマ用組み込みシステムのすべてを設計できるMentorのツール
第62回 後発組としてニッチを狙うMaxim
第61回 新自動車用マイコン「Traveo」で富士通の強みを発揮するSpansion
第60回 トヨタグループが開発を進めるSiCパワー半導体とは何か?
第59回 小型モータ駆動用のパワー半導体に特化するON Semiconductor
第58回 ダイナミックレンジ120dBの1280×1080画素CMOSセンサチップ - OmniVision
第57回 カメラの映像処理がクルマの安全技術を握る
第56回 SIM-Driveが研究開発から実用化フェーズにギアチェンジ
第55回 プラグインハイブリッドに有利な欧州のCO2規制
第54回 Maxim、カーエレを市場/製品/製造/品質/供給の各戦略から攻め切る
第53回 車車間、車路間通信規格802.11pチップをNXPがSDRで実現
第52回 ボディ制御ECUをハード/ソフト同時設計できるツール - ルネサスとSynopsys
第51回 バッテリ状態をスマホで可視化できるユニットをパナソニックが発売
第50回 携帯電話で培った低消費電力とエコシステムを生かすARMのCPUコア
第49回 FSL、外から360度クルマが見える映像を合成するチップを開発
第48回 加速感を重視したスポーツカー仕様のSIM-Driveの第3号車
第47回 カーエレの頭脳から近未来のクルマを予測する
第46回 ニッケル水素電池でアイドリングストップの回生エネルギー能力を引き出す
第45回 APEV、EVプラットフォーム戦略をベースに学生向けデザインコンテストを開始
第44回 カーレースのデータを次世代安全システムに生かすフリースケール
第43回 通信ネットワークのクルマ応用を推進するNXP
第42回 鉛蓄電池を大事に使おう
第41回 メルセデス・ベンツのクルマに見る衝突防止システム
第40回 シャーシの基本設計を見直し、480kmの走行距離を実現したTeslaの新型EV
第39回 海外企業としてはじめてデンソーから技術開発賞を受賞したInfineon
第38回 専用チップにより一段と高まるクルマの音声認識レベル
第37回 富士通がカーエレのソリューションビジネスに本格参入を宣言
第36回 e-Summit 2012 - ADASに参入するEDA/通信半導体/FPGAの各企業の戦略(後編)
第35回 e-Summit 2012 - ADASに参入するEDA/通信半導体/FPGAの各企業の戦略(前編)
第34回 クルマ用のイーサネット規格は安全性見地から標準化と相互運用性で
第33回 居住性追求もやはり"燃費"が良いインホイールモータ - SIM-Driveの第2号車
第32回 小さなモータ駆動用マイコンで大きな自動車市場を攻めるFreescale
第31回 インホイールモータ応用を狙うSiCインバータを三菱電機が開発
第30回 エネルギーハーベスティングによるタイヤ空気圧モニタリングシステム -IMEC
第29回 モータ駆動用インバータを1/10に小型化できるSiCトランジスタ
第28回 インホイール・モーター車の実用化を早めるSIM-DriveとDassaultの提携
第27回 ソフトウェア無線技術を生かしカーワイヤレス分野を着実に伸ばすNXP
第26回 中国BYD、独自のトップダウン式垂直統合システムで急成長
第25回 携帯端末用マルチプロセッサ、カーインフォテイメントにも威力を発揮
第24回 車載用SoCをハイエンドからローエンドまで広くカバーするルネサス
第23回 ルネサス、車載向け「V850」マイコンシリーズが90nmを採用し第4世代に突入
第22回 クルマのインテリアデザインの革命児になるか、有機ELライティング
第21回 電気自動車普及協議会が設立 - 注意すべき点はEVのガラパゴス化
第20回 電気自動車とスマートグリッド構築の実験をナノオプトが開始
第19回 トヨタと米電気自動車ベンチャーの提携の先にあるもの
第18回 エンタメ系半導体でシェアをじわじわ獲得 - NXPがソフトウェア無線を推進
第17回 クルマの中でもホームエンタテインメントと同じ環境を構築 - Roviの戦略
第16回 電気自動車はクルマのデザインを見直す時代に - 差別化はデザインで
第15回 EVの航続距離を伸ばすインホイール・モーター技術 - SIM-Driveが開発を加速
第14回 Freescale、SiGeのBiCMOSプロセスで77GHzのミリ波レーダーを開発
第13回 エコブームに乗り電気自動車が相次いで発売される
第12回 より大容量のリチウムイオン電池開発を極秘に進める自動車メーカー
第11回 電気自動車のエンジンはずばりリチウムイオン電池だが、充電方法にも大革命
第10回 電気自動車に向くモーター駆動用パワーデバイスはSiのIGBTか、SiCのFETか
第9回 電気自動車の実用化に向け、その問題点と解決策を探る
第8回 パッケージの上からチップIDがわかるX線装置と記録インクを東レが開発
第7回 半導体の産地偽装に対処する強い味方、チップやECUのトレーサビリティ
第6回 カーナビ用OSにHMIツールなどを付加 - 進化を続けるMicrosoftのクルマ戦略
第5回 ハイブリッドカー専用のパワーモジュール - Infineonが開発中、150℃保証
第4回 画像認識プロセッサの品種拡大で最高車種から低価格車種まで狙うNECエレ
第3回 "より安全に"を加速するFreescale - 横滑り防止にはセンサで対応
第2回 最先端65nm技術を使ったルネサスの車載半導体から見える自動車の近未来
第1回 エレクトロニクス化をひたすらつっ走る自動車

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