【連載】

カーエレクトロニクスの進化と未来

96 ポルシェの新型パナメーラはコネクテッドカー

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2009年から販売しているPorsche(ポルシェ)の4人乗り・4ドアセダン「パナメーラ」が7年ぶりにフルモデルチェンジした。この新型パナメーラ(図1)は、常時LTEセルラーネットワークと接続され、インターネットにつながる「コネクテッドカー」となっている。

図1 ポルシェの新型パナメーラ

新型パナメーラにはLTE通信モジュールを搭載しており、クルマは常にインターネットとつながり、さまざまなサービスを受けられるようになっている。もちろん、GPSも内蔵しているため、位置情報も把握できる。この結果、Google Mapやストリートビューを12型ディスプレイ(図2)で見ることはもちろん、GPSシステムと連動させ、位置情報に交通情報をかぶせてリアルタイムで位置を更新できる。所在地の検索にもGoogleを連動できるだけではなく、音声による目的地情報なども活用できる。いわゆるパソコンやスマートフォンで利用しているサービスをほぼそのまま受けることが可能だ。

図2 新型パナメーラに搭載されている12型ディスプレイ

クルマのインフォテインメントシステムがインターネットとつながることにより、ドライバーのスマホからクルマに旅行計画や目的地を選定することが家の中からできる。つまりスマホと車両のインフォテインメントシステムの間で同期をとることが可能になる。そのためのアプリケーションソフト「Porsche Connectアプリ」をApp StoreやGoogle Play Storeからダウンロードすることができる。

さらにLTE通信モジュールは、セルラーネットワークにつなぐだけではなく、Wi-Fiゲートウェイの役割も持つ。同乗者がタブレットやPCを持っていれば、それらをインターネットにつなげ、欲しい情報を検索したり、ブラウジングを楽しんだりすることもできる。スポーツカーとはいえ4ドアセダンだけに後部座席(図3)に乗せた家族とのドライブの楽しみ方ができる。

図3 後部座席にはディスプレイもある

AudiはBluetoothで携帯電話やiPodなどの携帯音楽プレイヤーとつないだり、ハンズフリー電話やクルマのステレオシステムともつないでスマホや音楽プレイヤーのコンテンツをクルマのステレオで聴くことができるが、通信速度の点ではBluetoothよりもWi-Fiの方が速いため、ポルシェのほうが応用は広いといえる。Bluetoothだと音楽や通話程度しか使えないという制限がある一方で、Wi-Fiは同乗者のデバイスをネットに接続して、新たな楽しみを見つけることが可能となる。

LTE通信モジュールによるインターネット接続については、レストランや航空機の予約といったサービスを提供するコンシェルジェサービスも2017年1月から導入される予定だ。これはクルマからサービス業者のオペレータと会話してレストラン情報などを聞くもの。ただし、2018年から欧州で販売される新車には設置が義務付けられるeCallサービスには対応していない。eCallサービスは、常にインターネットとの接続を通じて「交通管理センター」につながっており、万が一事故を起こしてドライバーが意識を失っても救急車が即座に駆けつけてくれることによって、命を救うというもの。2017年の発売ではまだ対応できない。

新型パナメーラの技術として、LEDヘッドライトにインテリジェント照明が使われている。可視光カメラと赤外線カメラを搭載し、前方を見て人や動物など35~40℃の体温を持つ生物を光が届かない場所でも検出する。いわゆるナイトビジョン機能だ。検出したら12型ディスプレイに人や動物の姿を黄色い枠で囲み、ドライバーに認識させる。人や動物にさらに近づくと、ディスプレイ上で警告を発する。同時に歩行者にも短時間照らして注意を促す。

最近のクルマは、前方に対向車を検出したら、その部分だけのハイビームをロービームに落とすというスマートライティングシステムを採用し始めている。新型パナメーラも合計84個のLEDヘッドライティングを用いている。84個のLEDは前方を照らすシーン全体を分割して照らすため、対向車を照らす部分のLEDを自動的にロービームに落とす。これは、搭載されたカメラを活用したもので、カメラで対向車をとらえた領域を照らすLEDのブロックだけを消すことで全体はハイビームのままでも対向車に対してはロービームとなり、ライトの切り替え作業を行わなくても、まぶしく感じさせずに済ませることができる。

図4 新型パナメーラのヘッドランプ。合計84個のインテリジェントLEDヘッドライティングシステム。カメラで対向車をとらえると、自動的にその領域だけ、ロービームに切り替えることができる

また、新型パナメーラには、4隅にセンサを配置し、近づくクルマを検出し警告を鳴らす機能もある。ただ、センサが20数GHzのミリ波なのか超音波なのかは明らかにしていない。2017年2月より納入が始まる予定である。

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インデックス

連載目次
第99回 燃料電池の劣化を短時間で検出するインピーダンス法を開発
第98回 EVのバッテリマネージメントICを無線でつなぐ
第97回 進化するEV向けワイヤレス給電技術
第96回 ポルシェの新型パナメーラはコネクテッドカー
第95回 自動車分野に新ブランドで攻勢をかけるMentor(後編)
第94回 自動車分野に新ブランドで攻勢をかけるMentor(前編)
第93回 コネクテッドカー時代に不可欠なセキュリティチップをInfineonが開発中
第92回 自動運転に向けてAI利用を進めるNVIDIA
第91回 冗長構成に向いたARMのCortex-R52安全管理プロセッサ
第90回 GNSS+GPSの測位チップで、測位精度を向上させたu-blox
第89回 ADAS/自動運転のシミュレーションデータからビッグデータ解析まで可能に
第88回 酔っ払い運転をテクノロジーで防ぐ
第87回 クルマにも大容量ストレージが搭載される時代が到来
第86回 ゴムまりのようなタイヤのコンセプトカーをGoodyearが提案
第85回 車内での音声認識を確実にするNuanceの騒音抑制技術
第84回 ルネサスのクルマ用半導体の戦略と戦術(後編)
第83回 ルネサスのクルマ用半導体の戦略と戦術(前編)
第82回 クルマの全体最適化を容易にするメンターのソフトウェア
第81回 クルマのコンピューティング機能を高めたR-Carシリーズの狙い
第80回 衝突防止レーダー時代が到来
第79回 東京モーターショーで高成長を確信したクルマ用半導体の未来
第78回 ビデオと音声を同期しながらEthernetで通信できる - Connected OSの背景
第77回 ルネサスのV2Xチップ、欧米で実証実験
第76回 ビデオ映像を1ms以下の遅延でイーサネット伝送できるルネサスのSoC
第75回 自動運転のクルマを目指し、さまざまな手を打つZMP
第74回 どっこい、鉛蓄電池も進化する
第73回 ADASの進化にはプログラマブルSoCで対応
第72回 クルマのナンバープレートが消える日
第71回 Infineon、HEV/EV用のIGBTモジュールの次世代版を開発中
第70回 車内ワイヤレスネットワークによりハーネス除去を目指す英国ベンチャー
第69回 クルマの安全性向上と共に増えるFPGAの実装
第68回 ルネサス、ソリューション提案を本格化-未来のクルマのロードマップを示す
第67回 コネクテッドカーをよりセキュアにするNXP
第66回 ルネサスの制御マイコンRH850はソフト開発の負担を軽減
第65回 欧州のクリーン化で世界を攻めるInfineon
第64回 画像合成・認識・視点変換・座標変換を搭載したADASチップをルネサスが実現
第63回 クルマ用組み込みシステムのすべてを設計できるMentorのツール
第62回 後発組としてニッチを狙うMaxim
第61回 新自動車用マイコン「Traveo」で富士通の強みを発揮するSpansion
第60回 トヨタグループが開発を進めるSiCパワー半導体とは何か?
第59回 小型モータ駆動用のパワー半導体に特化するON Semiconductor
第58回 ダイナミックレンジ120dBの1280×1080画素CMOSセンサチップ - OmniVision
第57回 カメラの映像処理がクルマの安全技術を握る
第56回 SIM-Driveが研究開発から実用化フェーズにギアチェンジ
第55回 プラグインハイブリッドに有利な欧州のCO2規制
第54回 Maxim、カーエレを市場/製品/製造/品質/供給の各戦略から攻め切る
第53回 車車間、車路間通信規格802.11pチップをNXPがSDRで実現
第52回 ボディ制御ECUをハード/ソフト同時設計できるツール - ルネサスとSynopsys
第51回 バッテリ状態をスマホで可視化できるユニットをパナソニックが発売
第50回 携帯電話で培った低消費電力とエコシステムを生かすARMのCPUコア
第49回 FSL、外から360度クルマが見える映像を合成するチップを開発
第48回 加速感を重視したスポーツカー仕様のSIM-Driveの第3号車
第47回 カーエレの頭脳から近未来のクルマを予測する
第46回 ニッケル水素電池でアイドリングストップの回生エネルギー能力を引き出す
第45回 APEV、EVプラットフォーム戦略をベースに学生向けデザインコンテストを開始
第44回 カーレースのデータを次世代安全システムに生かすフリースケール
第43回 通信ネットワークのクルマ応用を推進するNXP
第42回 鉛蓄電池を大事に使おう
第41回 メルセデス・ベンツのクルマに見る衝突防止システム
第40回 シャーシの基本設計を見直し、480kmの走行距離を実現したTeslaの新型EV
第39回 海外企業としてはじめてデンソーから技術開発賞を受賞したInfineon
第38回 専用チップにより一段と高まるクルマの音声認識レベル
第37回 富士通がカーエレのソリューションビジネスに本格参入を宣言
第36回 e-Summit 2012 - ADASに参入するEDA/通信半導体/FPGAの各企業の戦略(後編)
第35回 e-Summit 2012 - ADASに参入するEDA/通信半導体/FPGAの各企業の戦略(前編)
第34回 クルマ用のイーサネット規格は安全性見地から標準化と相互運用性で
第33回 居住性追求もやはり"燃費"が良いインホイールモータ - SIM-Driveの第2号車
第32回 小さなモータ駆動用マイコンで大きな自動車市場を攻めるFreescale
第31回 インホイールモータ応用を狙うSiCインバータを三菱電機が開発
第30回 エネルギーハーベスティングによるタイヤ空気圧モニタリングシステム -IMEC
第29回 モータ駆動用インバータを1/10に小型化できるSiCトランジスタ
第28回 インホイール・モーター車の実用化を早めるSIM-DriveとDassaultの提携
第27回 ソフトウェア無線技術を生かしカーワイヤレス分野を着実に伸ばすNXP
第26回 中国BYD、独自のトップダウン式垂直統合システムで急成長
第25回 携帯端末用マルチプロセッサ、カーインフォテイメントにも威力を発揮
第24回 車載用SoCをハイエンドからローエンドまで広くカバーするルネサス
第23回 ルネサス、車載向け「V850」マイコンシリーズが90nmを採用し第4世代に突入
第22回 クルマのインテリアデザインの革命児になるか、有機ELライティング
第21回 電気自動車普及協議会が設立 - 注意すべき点はEVのガラパゴス化
第20回 電気自動車とスマートグリッド構築の実験をナノオプトが開始
第19回 トヨタと米電気自動車ベンチャーの提携の先にあるもの
第18回 エンタメ系半導体でシェアをじわじわ獲得 - NXPがソフトウェア無線を推進
第17回 クルマの中でもホームエンタテインメントと同じ環境を構築 - Roviの戦略
第16回 電気自動車はクルマのデザインを見直す時代に - 差別化はデザインで
第15回 EVの航続距離を伸ばすインホイール・モーター技術 - SIM-Driveが開発を加速
第14回 Freescale、SiGeのBiCMOSプロセスで77GHzのミリ波レーダーを開発
第13回 エコブームに乗り電気自動車が相次いで発売される
第12回 より大容量のリチウムイオン電池開発を極秘に進める自動車メーカー
第11回 電気自動車のエンジンはずばりリチウムイオン電池だが、充電方法にも大革命
第10回 電気自動車に向くモーター駆動用パワーデバイスはSiのIGBTか、SiCのFETか
第9回 電気自動車の実用化に向け、その問題点と解決策を探る
第8回 パッケージの上からチップIDがわかるX線装置と記録インクを東レが開発
第7回 半導体の産地偽装に対処する強い味方、チップやECUのトレーサビリティ
第6回 カーナビ用OSにHMIツールなどを付加 - 進化を続けるMicrosoftのクルマ戦略
第5回 ハイブリッドカー専用のパワーモジュール - Infineonが開発中、150℃保証
第4回 画像認識プロセッサの品種拡大で最高車種から低価格車種まで狙うNECエレ
第3回 "より安全に"を加速するFreescale - 横滑り防止にはセンサで対応
第2回 最先端65nm技術を使ったルネサスの車載半導体から見える自動車の近未来
第1回 エレクトロニクス化をひたすらつっ走る自動車

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